015-救援戦

『目の前に見える恒星、そこから便宜上少し左の地点にて戦闘が起きています』

「目標地点の座標は共有されています、説明は不要です」

『分かりました、ご武運を』


宇宙空間を、私たちは駆ける。

コックピット内には、三つの機関の上げる駆動音が鳴り響いている。

今クロノスは、音速を超えて移動している。


『遠いな!』

「そうですね、ワープが出来ないので移動に時間が掛かるのが難点ですね」


ワープ阻害フィールドが展開されているのもそうだが、そもそもクロノスにワープドライブが搭載されていない。

ワープドライブ自体がクロノスには収まらないほど大型で、ワープするにはワープドライブを積んだロケットでも背負って飛ばないといけない。

そんなものを作る余裕は今の実験艦隊には無いだろうが.......


『見えてきたぞぉ!』

「各武装オンライン、リンクに異常なし、システムチェックを開始」


レーザーが発する光が視界に飛び込んでくる。

数隻の船団と、数十隻の艦隊が撃ち合いをしているようだ。


「前回の戦いのデータから、盾には予備シールドジェネレータが装備されていますから、安心して戦えますね」

『安心できるか!』

「正面から突入するのは危険が大きいですね、敵も気づいていないようですし、側面のデブリ群から接近しましょう」

『小惑星は攻撃してこないもんな!』


私たちは旋回し、噴射を切って慣性を維持したままデブリ群に突入した。

機関出力を最小にして熱源探知に引っかからないようにしつつ、チャフを撒いて電子偽装を行う。

スラスターでデブリの間を駆け抜け、私たちは敵艦隊のど真ん中に突っ込んだ。

直後、一瞬でターゲットがクロノスに殺到し、クロノスは真上に急加速した。


『出力最大! とりあえず逃げる!』

「敵艦の艦種を特定しました! 砲塔の旋回角度、出力から最適なルートを算出します」

『そんな事やってる間に死んじまうぞ!』

「攻撃を維持してください!」


クロノスはライフルを連射しながら突撃して、眼前の中型艦を穴だらけにして撃沈した。

艦橋に数十発を食らったその艦は、沈黙する。


「.....ルートを提案します、敵艦隊下部まで降下して、ミサイルを発射後上昇してください!」

『中々頭の悪そうな作戦だな!』

「これが最適だと思います、何故なら、敵には戦術AIも碌な指揮官も居ないと思われますから」

『なるほどなあ!』


ライフルで敵艦を蜂の巣にしつつ、クロノスは艦隊のど真ん中を降下していく。

進路上にいる艦に銃撃を浴びせかけ、スラスターを使って回避する。

滝を下る水のようにカクカクとした進路を取りながら、クロノスは敵艦隊の真下に潜り込んだ。


「ミサイル発射」

『発射ァ!!』


六つの発射管全てから、ミサイルが放たれた。

こちらに向かって飛んでくるレーザーに当たり、二つが爆発する。

だが、後の四つは弾幕を潜り抜け、静止した。


『ん? 不発か?』

「起爆」


ミサイルが内側からバラバラになり、一つの装置が現れた。

小型のレーザージェネレータに、拡散板がついたものだ。

そして、光が弾けた。


『な、なんじゃこりゃああ!?』


起爆したミサイルは、上方向へ向けて数百、数千の光の束を放つ。

光の束は艦隊の放つ弾幕のごとく下側に居た艦に襲い掛かり、艦底部を穴だらけにし、撃沈していく。

あっと言う間に沈黙、撃沈艦のカウントが増えていく。


『すっげえ.......』

「油断しないで! 直ぐに敵艦隊上部に上昇してください!」

『おう!』


今撃ったミサイルは拡散弾頭で、起爆する代わりに爆発せず、進行方向に雨あられのごとくパルスレーザーをばら撒く兵器である。

一瞬にして数十隻が撃沈されたせいで、敵の指揮系統は混乱している。

その中を、クロノスは突っ切る。

散発的にレーザーが飛んでくるが、射角が合っていない。

当たらずに空を切るか、途中の味方か、かつてそうだった残骸にレーザーが直撃する。


『来たぞ、来たぞ!』

「敵旗艦を特定します、盾を!」

『おう!』


クロノスは盾を構え、飛んでくる攻撃を弾く。

その間に私は、数ある艦の中から旗艦らしき艦を探す。


「旗艦となる艦は全体的に大きく、更に武装も多い事が殆どです。相手が宙賊である場合、船体に何らかのペイントがなされている可能性があります」

『じゃあアレじゃねーの?』

「アレですね」


明らかに目立っている艦が一つ。

クロノスは指令も聞かずその艦に向けて飛び出す。


「クロノス!」

『な、何だ?』

「正面からの突撃は推奨できません、敵旗艦の主砲出力は盾の出力を大きく低下させる恐れがあります」

『わーったよ、側面から取り巻きを撃破しつつ武装を破壊、その後正面に出てプラズマキャノンだな!?』

「よくお分かりですね」

『オレはオマエとリンクしてる、オマエの考えは手に取るようにわかるぜ!』


クロノスは全速力で敵旗艦の側面に回りこみ、ライフルを乱射して小型艦を仕留めていく。

ミサイルが放たれ、起爆して敵旗艦を襲う。

流石に曲がりなりにも大戦艦、それだけで撃破には至らないが、確実に正面火力は低下した。


『これ、背後からプラズマキャノンでいいんじゃないか?』

「チャージ時間を稼ぐ必要があります、静止しては格好の的になります」

『納得だーっ!』


盾が変形し、プラズマキャノンが現れた。

私の視界に、プラズマキャノンの表示が現れる。


「プラズマキャノン、エネルギー充填60%」

『おわっ!? 雷撃だ!』

「ミサイル発射! 爆雷弾頭に換装!」

『発射ァ!』


旗艦がいるにもかかわらず、バカスカ魚雷を撃ってきた。

クロノスの背から放たれたミサイルがその魚雷軍に向けて飛来し、自爆することで爆風に巻き込み、魚雷を纏めて誘爆させる。


「プラズマキャノン、エネルギー充填90%」

『照準固定! 覚悟!』

「プラズマキャノン、発射準備完了」

『発射ァ!』


視界を光が埋め尽くす前に、強制的に私はカメラを切った。

次にカメラを――――”目”を開いたとき、旗艦の艦橋が内側から爆散し、完全に沈黙する映像が目に移った。


「敵旗艦沈黙、ただし、敵艦隊依然戦闘の意志あり」

『逃げられねえし、ボスは死んだし、戦うしかねえよな!』


後は簡単だった。

指揮系統を失い、素人射撃でメチャクチャにレーザーを撃ってくる艦の射線を読みながら降下し、火力の薄い艦底部から攻撃を加え、敵艦を掃討していく。


「プラズマキャノン、発射準備完了」

『終わりだ!』


そして、クロノスは最後に逃走を試みた艦を仕留め、腕を降ろした。

周囲には残骸だけが浮遊し、熱源はクロノスだけになっていた。

戦闘の終了を確認したからか、採掘船団から通信が届く。


『助けていただいてありがと――――――何だ、機械兵か.....』

「聞こえていますよ」

『え? 君は機械兵じゃないのかい?』


露骨にがっかりされたが、私が反応したことで驚いた様子だった。

私はバイザーを上げて、素顔を晒して通信に対面する。


『その顔.....君はサイボーグなのかな?』

「いえ、私はDN-264、自律型AIです」

『自律型......って言ったら、禁断のアレか! まあいいや、君はどこから出撃してきたんだい?』

「周辺に展開中の実験艦隊からです、誘導しましょうか?」

『いや、星系軍の到着を待ちたい。こちらは大きな損害を受けており、負傷者も多い』

「分かりました」


通信は終わった。

私は聞かれたら答えなければいけないので、嘘も吐けないし情報漏洩は許してくれるよね?

静かに、私は星に願ったのだった。

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