007-白兵戦訓練

私は自分を見る。

武器は非実体弾のライフル一丁。


『実際は装備を接続して戦闘する形になりますが、あなたの場合は前例がありません。そのため、この装備で戦闘を行ってください』

『分かりました』


私は周囲を見る。

周囲から徐々に戦闘ボットらしき機械が距離を詰めてきている。


『有効射程圏内まで7秒』


視界に表示された情報を頼りに、ライフルのトリガーに手を掛ける。


『有効射程距離』

「ッ!」


射程圏内に入ったはいいが、周囲に居る戦闘ボット3体に攻撃された。

こちらと相手の射程距離は一緒のようだ。

私は射撃を横っ飛びに避けながら、戦闘ボットの一体に射撃する。


『破損率:98%』

「................」


ちょっと硬すぎないか。

もしかしてと思い、私はライフルを構える。

情報精査を何度か行うと、狙うべき場所が分かった。

機銃を装備してる腕部分と、何故か露出しているアイカメラを狙って、一撃、二撃と見舞う。

今度は弾が通ったようで、機銃がもげて床に転がる。

更に、カメラが破損したようで、もう一つの機銃を乱射する。


『破損率:63%』


それでもこの程度なのか......

敵勢の戦闘ボットはかなり手強い様だ。

私はもう一つの機銃を破壊し、戦闘ボットを完全に沈黙させた。

動くことはできるだろうが、戦闘機能はもう使えないはずだ。


「.......!」


まずは一撃を加える。

牽制のために数発撃って、相手のAIを誘導する。

その後急いで近づいて、アイカメラと片方の機銃を破壊した。


「よし......ッ!?」


直ぐに離れるが、一撃受けてしまう。

サーバーのある後部ユニットを通過する場所(このアバターでは装備していないらしい)を狙われたので、咄嗟に身をかわしたが、脚に一撃受けた。

勿論、機械のこの身に痛みが走ることはないのだが、若干機動に影響は出る。


「........」


だったら、ダメージ覚悟で残りも片付ける。

私は地面を蹴って駆け、戦闘ボットの前に立つ。

一撃、また一撃とライフルから弾を放ち、機銃二個を破壊した。

そして、アイカメラを撃つ。


『目標の制圧に成功しました、次のフェーズへと移行します』


その瞬間、声が響いて戦場が移る。

次の戦場は開けた大地、そして、敵は――――


『陸上戦車一台を制圧してください』

「え.....はい、分かりました」


ライフル一丁で戦車を制圧......?

やれと言われたらやるしかないのがAIの辛いところではあるが.....


「!」


戦車の砲塔が旋回しこちらを向く。

視界が赤くなり、回避を促すメッセージが視界いっぱいに表示される。

慌てて飛び退くと、轟音が鳴り響く。


「..........」


顔を上げると、すぐ横を通り抜けていく砲弾が見えた。

射程まで向こうの方が上か......

私は横向きに走りつつ、どうやって攻略するかを考える。

相手が戦車である以上、ある程度近づけば発砲できない。

近づく手段は、砲塔の旋回に合せて動き、発砲を避けつつ少しずつ近づく一手に限る。


「....................」


私は横方向に駆けながら、少しずつ進み始める。

理想は円形を描き、少しずつ接近することだ。

ただ、この方法は近づけば近づくほどリスクが増える。

だが......それがどうした。


「ただ勝てばいい」


他に条件などない、せっかくロボットになったんだから、人間らしい戦い方などくそ食らえだ。

危険だろうとやるし、躊躇はしない。

私は徐々に戦車に距離を詰め、そして砲のリーチの中へと入り込んだ。

これでもう戦車は撃てない。

そう思ったとき。

戦車の砲が内側に収納され、砲身が短くなった。


「あ................」


咄嗟に身を屈めた。

いや、咄嗟にではないだろう。

こうなることは事前に予測していた。

相手の戦車の砲口径が、実際の砲身の根元のサイズよりも小さいことから、伸縮式なのは当然のことだった。


「.................ふっ!」


私はライフルを屈めたまま撃って、戦車のキャタピラの接合部分を撃った。

硬質な金属音がして、戦車がぐらつく。

私は起き上がって、戦車の元へと一気に駆け抜ける。

戦車は逃げようとするが、キャタピラの接合部分に弾が詰まって逃げられないようだ。

私は戦車の砲台に乗り、コックピットの蓋を無理矢理引っぺがす。

そして、中に向けて数発発砲した。


『対象の制圧を確認しました、これにてシミュレーションは終了となります』

「はい」


視界が元に戻り、艦橋の景色が映る。

いつの間にか艦橋には人気が増えており、「私」の戦闘のライブ映像を視聴していたようだった。

俺は自分に刺さったプラグを引き抜き、席を立つ。

すると、艦橋全員の視線が集まった。

俺は「私」として一礼すると、艦橋を後にした。




◆◇◆




「何から何まで奇妙なヤツだ.......」

『何か異常がありましたか?』


艦橋で、一人がつぶやく。

反応したエイペクスが、それに問いを返す。


「いや、自律型AIだとか、女性型人格だとか、今までの実験体とは違うからとか、そういうのじゃない、今度のクラヴィスは、”人間臭い”」

『必要ならば、再教育プログラムを......』


提案するエイペクスだったが、


「必要ない、様子を見よう。吉と出るか凶と出るか、それは俺達じゃなく軍の責任だからな」


そう断られた。

エイペクスは気に留めない様子で、頭を下げて引き下がる。


『理解しました、では引き続き、DN-264 Clavisの監視を続けます』

「ああ、頼んだ」


そして、何事もなかったかのように乗員たちは任務へと戻るのだった。

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