006-親友
実験艦、その艦橋にて数人の人物が同じ画面を見つめていた。
それは戦闘を行うクロノスの映像だった。
「幾ら何でも、連携が出来過ぎじゃないのか?」
「やっぱり、そう思うよね」
「エイペクス、どう思う?」
その中でもだらしない格好をした男が、傍の端末に話しかけた。
端末は一瞬読み込みのマークを表示した後、
『奇妙です、既存の行動パターンを逸脱する行動が何度も確認されます、それから――――この攻撃法ですが』
エイペクスと呼ばれた研究用AIは、あるシーンを表示した。
そこには、小惑星を爆散させて攻撃するクロノスの姿が映っていた。
『事前に彼ら彼女らに与えている情報リストや、それから演算を重ねたところでこの攻撃法には辿り着けません』
「会話ログでは、クロノスの方から提案をし、クラヴィスが問題ないと判断している。自律型AI同士がこのような同調を出会って数時間で行うのは非常に稀なパターンだ」
「面白くなってきたな.......」
そして、唐突に会議は終わった。
モニターからクロノスの表示は消え、通常の航路図が表示された。
「さて、俺たちの任務は訓練を完了させつつ、クロノスを前線に一刻も早く運ぶことだ! 配置に付け、ワープの準備に入るぞ!」
「了解!」
艦橋に、数人の声が響き渡った。
◆◇◆
『はぁ~、捗るぜ』
「........なにが?」
『いや、俺はずっとロボ娘に身体を洗って貰うのが夢だったんだ.....』
「娘かどうかは分からないだろ?」
『見た目が女性型っぽいから娘でいいんだ!』
俺の身体は確かに女性型だが、デザインではなく構造上必要なのだ。
胸部が膨らんでいるのは中に恒星機関を積んでいるからで、細身なのはコックピットに納めるため。
「そっちは大型でいいよな.......」
『その代わり自分じゃ動けないんだけどな、よろしく、
「調子がいいなぁ.....」
俺は今何をしているかというと、志願してクロノスの清掃をしている。
頭部ユニットのおかげで無重力下でも動ける俺は、クロノスのあちこちを洗浄していく。
先の訓練で内部に入り込んだ小惑星の欠片などを取り除かないと、後々で支障が出る。
同時に、クロノスの兵装のチェックも行う。
外側のコンパネから内部にアクセスし、兵装をチェックする。
「クロノス、実体弾ライフルの弾が装填されてないぞ」
『あれ!? 悪い悪い、装填頼む!』
「ああ」
俺は申請を飛ばし、格納庫内に弾倉を運んでもらう。
それをクロノスの右腰に接続されているライフルに装着していく。
「ああ、盾も付けたんだな」
『おうよ、懲りた』
「そうか」
左腕、プラズマキャノンの上に盾が付いていた。
プラズマキャノンを展開する際は、盾が開いてくれる有情仕様のようだ。
「これがロングソードか....持ってもいい?」
『俺が起動しないと使えないようになってるんだ』
「そうか........」
ロングソードも装備されていた。
これ、いつ使うの? という装備だが、一応作業機械としても使えるので多彩な用途が想定されているそうだ。
「これで一通りチェックは終わりだ、部屋に戻るぞ」
『おう、明日もよろしくな!』
そして俺は、クロノスと別れた。
チェックが終わったので、もうこれ以上ここに居る必要はない。
クロノス........トモにも負担になるだろうからな。
「!」
洗浄室を出て、廊下に入った俺は、目の前で驚く人物を注視した。
◇ラウド・ハイアー少尉
第??実験艦-通常職員
「こんにちは、ラウド少尉」
「ああ、こんにちは」
「......何を、驚かれているのですか?」
ラウド少尉は、頭を掻き言った。
「すいません、ちょっと.....可愛いな、って思っただけで」
「..........そうですか」
博士が離艦する前に残していった日記データでは、「私」の顔は特に凝って作られたようだ。
博士の愛する「人間らしさ」と「無機質さ」を併せ持った顔を探すために数万の星の顔データを統合し、軍用AIを私用に使って生成した顔なのだそうだ。
「用事はそれだけでしょうか?」
「い、いえっ! それでは小官は任務に戻りますのでっ!」
表示される情報から、俺に「そういう」感情を抱いているのは明白だった。
トモ......クロノスといいこの少尉と言い、ロボ娘に懸想するのはよくわからないな......
『通信を確立――――聞こえますか?』
その時、通信が入った。
どこからだ?
確認すると、[APEX]となっていた。
その名前を注視すれば、「本実験艦搭載の軍用AI」と表示された。
『はい、聞こえています』
『そうですか、艦橋に来ていただけますか? あなた自身のシミュレーションを行います』
『はい』
俺自身のシミュレーション......?
クロノスに乗る以外に俺に役割なんかあったのか?
疑問に思いつつも命令には逆らえないので、艦橋へと向かう。
艦中央にあるエレベーターから艦橋へと上がるのだが、頭部ユニットのせいで少し狭い。
申し訳ないけれど、エレベーターに同乗は多分できないだろう。
『お待ちしておりました』
エレベーターの扉が開くと、出待ちされていた。
「私」と同じアンドロイドを端末にしているようで、その顔はモノアイで占められている。
顔に拘る博士が異常だっただけで、ほぼすべてのアンドロイドがこんな感じである。
「私のシミュレーションとはどういうことですか?」
『? 申し訳ございません、F-221のデータブロックを解凍していただけませんか?』
「はい」
俺にダウンロードされたデータは常に圧縮されている。
だからいちいち解凍しなければいけない。
それも必要に応じてだけどな。
データを解凍すると、初耳な情報が出てきた。
「私の.....白兵戦シミュレーション?」
『はい、クロノスが機能不全に陥った状態でも万全に帰還するために、簡易的なシミュレーションで訓練をします』
「....はい、分かりました。何処に行けば?」
俺は若干憂慮しながら答える。
『私との接続端子があれば、どこでも実施できます。メディアセンターで行いますか?』
「いえ、ここでやりましょう」
俺は艦橋を歩き、空いている席に座った。
本来は単眼アンドロイドの待機席なんだろうが、借りても問題ないだろう。
背中のプラグに端子を挿し、座った。
しばらくすると視界が切断され、バーチャル映像が代わりに表示された。
『では、シミュレーションを開始します』
そして、無機質な声で開始宣告がされた。
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