第20話 7年生を送る会
帰り道。
「バンドをやろう!」
ルビーは唐突に、そう言った。
「「バンド?」」
小次郎とチェシャが聞き返す。
「7年生を送る会でさ。メロとジョセフも誘って!」
「おいおい、俺達、楽器なんて弾けないだろ」
「私ボーカルやるから~」
「おい、勝手に話進めんな」
「私は面白そうだと思うにゃん」
「お~、チェシャ、さっすがノリいいね~。それじゃあ早速、明日、軽音部にカチコミじゃあ~」
「おい」
次の日の放課後。
「たのも~」
ルビーは軽音部の部室の扉を勢いよく開いた。
「早速だけど私達に楽器教えて! 7年生を送る会で披露したいの!」
ルビーは単刀直入にそう言った。
軽音部の皆は少し考えてから「まあ、あのルビーの頼みなら」ということで引き受けてくれた。
楽器は軽音部の予備を使わせてもらうことになり、誰がどの楽器を担当するかも決まった。
ルビー ボーカル
メロ ギター
小次郎 ベース
チェシャ キーボード
ジョセフ ドラム
という訳でバンドの練習が始まった。
「で、何の曲やるんだ?」
「卒業ソングっていっぱいあるよね」
「私の好きな曲でいい?」
「何?」
「いきものがかりの『YELL』!」
「ルビーがカラオケで、よく歌ってる歌にゃん」
「ルビーの十八番じゃないですか」
「自分だけ楽しようとしてずるいぞ」
「え~、いいじゃん。卒業にもピッタリの曲だし」
「まあ、いいけど」
バンドスコアをインターネットからダウンロード購入し、早速練習に移る。
ギターのメロとベースの小次郎は、まずコードを覚えるところから入った。
キーボード担当のチェシャは以前、音楽の授業でピアノを弾いたこともあったので、全くの初心者という訳でもなく、練習はスムーズに進みそうだった。
ドラムのジョセフは初心者で、まずはスティックの持ち方からだった。
こうして初心者を抱えつつのバンド練習はスタートした。
それから放課後は曲の練習に費やし、皆は日々成長していった。
そして7年生を送る会、当日。
進行は新生徒会のメンバーで行われるため、ルビーは司会席に立っていた。
「それでは、7年生が入場します。拍手でお迎え下さい」
メープルを先頭に、総勢20名の7年生が入場し、パイプ椅子に座る。
「それでは思い出ムービーを流します。スクリーンを御覧ください」
裏方を担当する小次郎が体育館の照明を消し、辺りが暗くなる。
ムービーは入学式から今日に至るまでの思い出を流していく。
初めての運動会、リレーで大活躍する者、修学旅行でお土産を選んでいるところ、文化祭での喫茶店の様子、テスト勉強を頑張る様子、授業参観で元気よく発言する者などなど’
「はい、素敵なムービーでしたね。……次は7年生と対決コーナーです! 最初の縄跳びリレーに出る方は集まって下さい」
7年生と対決コーナーでは縄跳びリレーとイントロドンが行われ、どちらも7年生が勝利した。
「さすが7年生、強かったですね。続いては恩師からのメッセージです」
クォーツ学園では基本的に担任は7年間変わらない。教科ごとに担当は変わるが、担任は一人である。今の7年生の担任は理科のスズキ先生。優しくて、ほんわかした女性の先生だ。
メッセージでは最後の方に感極まって涙を流していて、ビデオを撮りに行ったルビー達に慰められている。この調子では卒業式の日にはどうなってしまうのだろう。
「それでは最後に7年生を送る歌をお届けします。今年はバンド演奏もあり! じゃあ準備しま~す!」
ルビーが一度舞台裏に下がって、マイクやスピーカー、ドラム、キーボードなどをバンドメンバー皆で運び出す。
「それでは、聞いて下さい! いきものがかりの『YELL』!」
「♪~サヨナラは悲しい言葉じゃない それぞれの夢へと僕らを繋ぐ YELL
ともに過ごした日々を胸に抱いて
飛び立つよ 独りで 未来(つぎ)の空へ」
歌い切ったルビーは「ありがとうございました!」と頭を下げた。
7年生や在校生から惜しみない拍手が送られ、7年生を送る会は幕を閉じたのだった。
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