第19話 生徒会選挙

「で、選挙って具体的に何するんだ?」

「えっとねえ、まず活動を手伝ってくれる支持者を集めて、選挙ポスター作ったり演説したりするらしいよ」

「じゃあ、私はルビーの支持者になるにゃん」

「おー、支持者第一号~」

「俺もクラスの奴に支持者になってもらえるか声かけてみるわ」


 それから二人の選挙活動が始まった。

「次の生徒会長にはルビー、ルビーを、お願いするにゃ~ん」

「いいえ、小次郎君、小次郎君をお願いします」

 小次郎の応援演説には同じクラスの正義が駆けつけてくれた。


連日の演説合戦を経て、お互いの支持基盤が見えてきた。

体育系の部活動に所属している者は小次郎の支持が多く、逆に文化系部活動やその他大勢の生徒はルビーを支持する者が多い。小次郎は今まで体育系部活動の助っ人を頼まれれば快く引き受けていたり、ルビーは合唱部や演劇部、ボランティア部などの助っ人をしていたりしたためである。単純にクォーツアイランドの姫だからルビーを支持するという者も多い。


選挙当日。

体育館にはクォーツ学園の全生徒と教師が集まっていた。

舞台上にはルビーと小次郎の名前が書かれた横断幕が掲げられ、二人が壇上に立っている。

「それでは、生徒会選挙、最後の討論会を始めます」

 司会は現生徒会長であるメープルが行う。

「まずはルビーからお願いします」

「はい。私はこの学園を笑顔で溢れる学園にしたいと思っています。そのために生徒会室の前に目安箱を設置し、生徒の意見を聞きたいと考えています。目安箱を設置することで私達が気付かないような細やかな個所にも目を配り、必要であれば改善させることも出来ます。目安箱によって、生徒会と生徒の距離も近付き、より笑顔が溢れる学園になると思います。また、生徒会やボランティアで、朝のあいさつ運動を行い、朝から私達の元気をおすそ分けしたいとも考えています。この学園には良いところも沢山ありますが、まだ改善できる箇所もあると思います。それらを私が生徒会長になったら変えてみせます。一生懸命頑張りますので、私ルビーに皆さんの清き一票をお願いします」

 ルビーが深くお辞儀をする。

「はい、ルビーありがとう。次は小次郎君、よろしく~」

「はい。俺が生徒会長になったら部活動をもっと積極的に盛り上げていこうと思います。具体的に何をやるかというと、まず部活動の予算を増やします。予算が増えれば、やれることも多くなるし、部活動がもっと活性化されると思います。また、部活動の海外遠征も積極的に行ってもらおうと考えています。俺は皆さんにはクォーツアイランドの中だけではなく、広い世界を見てほしいです。俺について来てくれる人は一票お願いします」

 小次郎も深々とお辞儀をする。

「はい。二人とも、ありがとう! ここから討論会に移るよ。相手の政策に対しての質問とかね。罵倒大会にならないようにしてね。意見を尊重すること! じゃあスタート!」

「まずは私から! 部活動の予算を増やすって言ってたけど、ちゃんと増やせる算段はあるの?」

「勿論だ。会計のジョセフに聞いてある。今までの貯蓄があるらしい」

「何それ。初耳なんだけど!」

「まあルビーに言ったら、文化祭をもっと派手にしようとか無駄なことに使われそうだったから黙っておいたらしいぞ」

「ええ、ひどい! あと、また質問! 小次郎は部活動重視の政策だけど、それだと部活動に入っていない人への恩恵がないよ。どうするの?」

「部活動に入っていない人には恩恵が少ないように見えるが、部活動が活発になることによって、学園も活気に満ちると思う」

「私のあいさつ運動の方が絶対、皆を笑顔に出来ると思う!」

「確かに、その方が笑顔にはなるだろうな。でも学園は勉強や部活動に励むところだぜ? 笑顔溢れる学園って何か子どもっぽいぞ」

「な、何を~! 笑顔は大切なんだからね! ほら私の笑顔可愛いでしょ!」

「む、それは……」

「あと、小次郎は部活動の助っ人やり過ぎ! 頼まれたら断れないマン!」

「何だよ、それ」

「新しいヒーロー的なやつ」

 その後も討論会は二人の舌戦が繰り広げられていたが……。

「剣道強過ぎ!」

「体力おばけ!」

「私の自慢の付き人!」

「明るい笑顔が良い!」

 いつの間にやら、それぞれの良い所を言い合う合戦になっていた。

(何を見せられているんだ……)

(もう付き合っちゃえよ!)

 全校生徒は、そんなことを思っていた。


「はいは~い。何か討論会じゃなくなってきてるから、この辺で終了~」

 メープルが二人の間に割って入った。

「皆には教室に戻ってから、投票してもらうよ~。じゃあ、これにて解散~」


 生徒皆が教室に戻り、投票用紙に会長になってほしい方の名前を書く。

 それを各クラスの選挙管理委員が集め、放課後、開票する。

 そして、次の日の朝、朝会で新生徒会長を発表する。


 その日もルビーは小次郎と一緒に帰らなかった。

 選挙期間中は、いつもそうだった。

 下手に馴れ合うつもりはなかったからだ。


 次の日。朝会。

「それでは結果発表!」 

 体育館のステージ上にはメープルとルビー、小次郎が立っていた。

「新生徒会長に選ばれたのは……」

 メープルが天井に吊るされた、くす玉のヒモを引っ張りながら言う。

「ルビーです! おめでとう!」

「え、わ、私⁉ やった~~~!」

 ルビーは飛び跳ねて喜んでいる。

 小次郎は静かに肩を落とした。

「という訳で、新生徒会は会長ルビー、副会長、小次郎君でよろしく」

 

 その日の帰り道。

「小次郎、帰ろうか」

 ルビーは久しぶりに、小次郎に声をかけた。

 チェシャは空気を読んで、二人を後ろから見守っている。

「おう」

 歩き出して、少しの間、無言になった。

「あ、あのさ……」

 口火を切ったのはルビーであった。

「これから生徒会、頑張ろうね」

「ああ」

「討論会でさ、明るい笑顔が良いとか言ってくれて、ありがとね」

「あの時は、つい口が滑って……」

「え~、私の自慢の付き人ってのは本気なのになあ」

 顔を背けた小次郎を覗き込むように言う。

「う、うるせー」

 小次郎の顔は真っ赤になっていた。


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