第79話 対抗策 - ①

 1412年12月──


 なんおう家がちゃくちゃくいくさの準備を進めている一方、かまくらでも "事の大きさ" を認識してきゅうきょひょうじょうが開かれる運びとなる──


 かまくらしょの大広間には、かんとうぼう足利もちうじが欠席の中、持氏のである足利みつたかと、かんとうかんれい上杉ぜんしゅうが対峙して床に腰を下ろしている。



 ずはぜんしゅうが口を開く。


「本日どうせきいただいたのはほかでもない。なんおうにてあんやくしているへの対応についてでいまする──」



 みつたかが真剣な表情を浮かべてうなずくと、ぜんしゅうが言葉を続ける。


「現状においては、おもてった動きこそ無いものの、かんじゃ達のしらせを取りまとめると、半年らずの内に反乱を起こす可能性が高いと見られ、かまくらとしてはさっきゅうな対抗策がかんよういまする」



 すると、みつたかがムッとして口を開く。


なんおうといえば、儂の弟であるいなむらぼうみつさだがおるであろう。やつに任せておけばよいではないか」


 みつたかは『1歳年下である弟みつさだの存在を忘れたのか』と言いたげに、不機嫌な表情を浮かべてぜんしゅうに噛み付く。


 それに対してぜんしゅうはややうつむきながら、肩を落として応える。


「──それが、あらかじめこちらで使いの者を出しておうかがいを立てたところ、『の動きがによるものの為、手出しは出来ぬ』との事でして、私もしんしているのでいまする」


 "使いの者" とは、娘婿むこの岩松みつずみの事である。



「何? ではみつさだは、さくでのうのうとやり過ごしているのか?」


「──事を信じるほかないですな」


 ちからく首を横に振りながら口にするぜんしゅう


 対して、「全くこまった奴だな」とりながら腕を組むみつたか



「!」

 すると、何かを思い立ったようで、みつたかさま口にする。


「ちょっと待て。何も直接みつさだが出陣せずとも、しらかわゆう家やこくじんらを出陣させればよいであろう?」



 その発言にぜんしゅうは、片方のまゆをぐいっと上げて応える。


「おや、うえ様はご存知いませんか? 今やいなむらぼうの権威は地に落ちており、しらかわゆう家はさておき、なんおうにおいて味方になるこくじんなぞ、ほぼかいいまするぞ」



 おうしゅうの情勢にうとみつたかは、弟みつさだの置かれている状況が想像以上にれっせいである事に驚きを隠せず、思わずろうばいする。


「──そ、そうなのか……? だとすると、いくらなんでも "なんおうゆう" とほまたかしらかわゆう家だけではこころもとないのではないのか?」



ゆえにこうして策をこうじているのでございまする」



「──う〜む、これは……なんだのう……」



「────」

 けんしわを寄せて考え込む足利みつたかを、めた目でえる上杉ぜんしゅう


(ふむ。そろそろのようじゃな──)


うえ様、私に一つ提案がいまする」


「──何だ、申してみい」


「もううえ様も御理解いただけているかと存じまするが、なんおうの現状から判断するに、いなむらぼう足利みつさだに一任するのは、いささか荷が重いであろうと存じまする──」



「…………うむ……」

 認めたくはないが、うなずく事しか出来ないみつたか



「であれば、物理的に味方を増やすほかに対抗する手立てはいませぬ」



「──で、一体どうするのだ?」



 みつたかが興味をいだき始めている事を感じ取るぜんしゅうは、せきばらいを一つ入れると、顔をしっかりと上げて言葉を続ける。


「はい。新たなさき機関としてしょさせていただこうと存じまする──」



「な、なんじゃと?!」



「尚、ぼうは慣例に従い、足利家からのじんせんあいりまする」


 みつたかの反応をいっさい気にも留めず、一気にまくてるぜんしゅう


 すると、廊下から肩幅が広くがっちりとしたたいの男が大広間に姿をあらわす。



「!!!」


 みつたかは予想だにしていなかったれた男にきょうがくする。


「っな……なにゆえなたが、ここに……」







「クッフッフッフッ、久しぶりじゃのう、みつたか


 男はてきな笑みを浮かべて、床に腰を下ろしているみつたかを見下ろす。





「──み、みつただ……兄さん……」

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