第65話 満純の行脚 - ③

 もくぜんぐらき、ほおづえきながら発せられた、いなむら公方くぼう足利みつさだによるに、対峙する岩松みつずみは目をひらく──



(この男──、始めから……!)

 出し抜かれた事をさとみつずみ


「…………」

 同時に鼓動が早くなるのを感じ、冷静をつくろうのに必死で言葉をまらす──




 そんな動揺を隠し切れていないみつずみに対して、足利みつさだが口を開く。


「あのさぁ、ほんとにと思った? だよ、俺──」


 するとふところからせんを取り出すと、左手であおぎながらみつずみの返答を待つ。



「──な、なにゆえ、このようなを……?」

 くるまぎれに口をひらみつずみ




「"に話そう" って言ったでしょ? 


いなむらしょる俺にとっちゃあさ、別に鎌倉かまくらでの "持氏もちうじ派" か "禅秀ぜんしゅう派" か『どっちの派閥はばつか』なんてどうでもいいの。


ただ、"岩松みつずみ" という男が『信用にあたいする者なのか』を知りたかったんだよね〜」



 そして、ひらいていたせんを閉じると、せんたんをスッとみつずみに向けて言い放つ。



「まあ結果、『信用にあたい者』というけつろんいたったけどね〜」




「──くっ……!」

 みつずみ


 "くだけたふるい" にばなくじかれ、自分が試されていた事を知らずに出し抜かれたみつずみは、おのれかつな言動にいらちをつのらす──




 やがて、閉じたせんせんたんを床にトントンと押し当てつつ、、再びみつさだは問い掛ける。


「その上でもう一度聞くけど、今日いなむらしょに来たようなに?」




 岩松みつずみは、にがむしつぶしたような顔で応える。


「む、のくにのくにすなわち "おう両国" のについて……で、いまする」




 すると、きょうめたのか表情からはフッと、その場から立ち上がるとみつさだは、かみに戻りながら口にする。


「──なんだ、そのことか──」



──おう両国。現在の東北地方であり、青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県の地域に当たる。


 そして、このおう両国が、現かんとうぼう足利もちうじである足利うじみつ在職時の1391年に、京都のあしかがばくから『かまくらかんかつ』となる。


 だが、かまくらからおう両国は、思うようにとうが上手くいかない。


 そこで、もちうじの実父である先代かんとうぼう足利みつかねの在職時である1399年に、『おう両国における支配強化』の為に、いなむらしょが設置される事となる。しかし──



「知っての通り、こくじんたちの反発が強くて、"支配強化" はあんしょうに乗り上げたま〜んま。


10年以上状態が続いている事くらい、別に聞かなくても分かってるでしょ?」


 かみに腰を下ろしたいなむらぼう足利みつさだは、投げやりに応える。



 そして、少しずつ冷静さを取り戻しつつある岩松みつずみが口を開く。


「はい。れども、最近になって、家に動きがあるようで……」



──家。のくにぐん (福島県郡) をりょうし、"反いなむらぼう派" のこくじんらにおけるきゅうせんぽうである──




「なんだ。もう知ってるんだ」


 おう両国の情報をすでに仕入れている事に、面白くに応えるみつさだ


 それに対して、みつずみはややげんおもちで問い掛ける。


たいしょはなされないので?」





 するとみつさだは、みつずみの言葉に対し、けんしわせて応える。


たいしょ? ふっ。よくもまあ、そんな事が俺に言えるね──」





 そしてこめかみに青筋を立てつつ、ったみを浮かべて、みつさだは言い放つ──



みつずみが "ぜんしゅう派" だからこのさい言わせてもらうけどさぁ、


俺がいつまでっても "統治出来ない" 原因を作ったのは、



いぬがけ上杉家だろうが」





「!!!」

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