第57話 過去 - ②

 扇谷おうぎがやつ上杉家屋敷の一室は、家宰かさい太田おおた資房すけふさによるかたらいにより、重苦しい空気におおわれている──



「さて、ここまではおもに『国人こくじんとの関わり合い』の観点から、『鎌倉かまくらにおける権力基盤の強化』を説明して参りましたが──」



 すると一つせきばらいを入れて、資房すけふさが続ける。



「ここからは、『関東を統治とうちするにあたり不可欠とするおも』の観点から、つまんでべさせていただきまする──」



 そして姿勢をただすと、資房すけふさが更に続ける。



「その上で、持氏もちうじ様が知りたがっていらっしゃる『将軍様からの』の理由を説明致しまする」



「──わかった」

 資房すけふさから先に聞いた『国人こくじんたちから嫌われる理由』を引きりつつ、憂鬱ゆううつな気持ちのまま返事をする持氏もちうじ




「ところで、先程それとなく申し上げました『指揮しきけん及び補任ぶにんけん』についてですが──」



「あー、『国人こくじんから守護しゅごしょくうばったり、関東かんとう管領かんれいに与えたりした』っていうやつね──」



「はい。権利を行使こうししたのは、持氏もちうじ様のである足利氏満うじみつ公でございまする」



「つまり、ひいお祖父じいちゃんではなく、お祖父じいちゃんの時代からということだね?」



左様さようでございまする」



 鎌倉かまくらの『守護しゅごしょくにおける権限けんげん』の説明がひと段落したところで、持氏もちうじが聞きたいことを口にする。


「ところで、──父さんはどんなことをしたの?」



「はい。先程『御恩ごおん奉公ほうこう』について、私は『足利あしかが国人こくじんわした』と申し上げましたが──、何かに落ちないと思われませぬか?」



「えっ、に落ちないこと?」


 すると持氏もちうじは、腕組みしながら熟考じゅっこうする──



 やがて、資房すけふさの言葉に一つの違和いわかんがあることに気付き、口にする。



「あっ、ひょっとして──、契約した相手がではないということ?!」




 絞り出した "答え" を口にする持氏もちうじに対して、資房すけふさわずかに口角こうかくを上げて応える。


「ご名答めいとうでございまする。つまり国人こくじんたちの土地をしたり、新しい土地を権利を持っているのは、あくまで京都に御座おわしまするなのでございまする」



「ということは──、当時の国人こくじんたちは鎌倉かまくらではなく、あくまでの為に戦っていたということなの?」



「その通りでございまする。しかし、それではいつまでっても関東地方をに置けませぬ。そこで先代足利満兼みつかね公は──、国人こくじんの契約する相手を足利あしかがから、である関東かんとう公方くぼうえたのでございまする」



「えっ、じゃあ父さんが国人こくじんたちの土地をしたり、新しい土地をたりしたってこと?」



「はい。ただし、この権限けんげん自体は元々もともと祖父の氏満うじみつ公の時代に将軍様から付与ふよされたと言われており、積極的に行使こうししたのが満兼みつかね公からとされておりまする」



「そうなのか……」



「こうして、祖父氏満うじみつ公の時代には『における権限』を──、実父満兼みつかね公の時代には『 (土地) における権限』をそれぞれ足利あしかが幕府ばくふから移行させることにより、鎌倉かまくら名実めいじつ共に "関東地方のちょう" となったのでございまする」



「父さんの時代までに "関東地方の" は、大方おおかたようになった、ということか……」



「はい。そればかりか地方ちほう機関きかんと比べてみても、鎌倉かまくらいたっては、京都の足利あしかが幕府ばくふ同じような組織構造と権限けんげんゆうしており、自立じりつ性が非常に高くなっていったのでございまする」



 資房すけふさくだいて説明しているとは言え、14歳のにはやや難解なんかいとも言える "しょ権限けんげん" の内容をしっかり理解している持氏もちうじは、統治とうちしゃ的視点からのを口にする。



「なんだか──、まるで西と東に "幕府ばくふ" があるみたいだね……」

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