男子高校生なのですがメンヘラヒロインのママやってます~どうしましょう、ママと呼ばれていますが本当にどうしましょう……~
本埜 詩織
第1話・俺は変な人です
休み時間の時でした。なんてことのない大きさの声ですが、きっともう忘れることはできないでしょう。
「自傷行為はやめなさい。大切な体なのです。傷つけてはなりません」
ここは少し特殊な学校です。全寮制で、わけあって親元を離れて暮らすべきと判断された子が優先的に入学権を得ます。
あとは一般入試。基本的にはAOであり、将来精神分野を勉強したいという学生が入学権を得ます。
民間資格ではございますが、カウンセラーの資格を一つ俺も取りました。そこにはこうあったのです。“自傷行為を行ってしまう子に、最初に自傷を否定するのは良くないことである”と。だから、聞いてはいられなかったのです。
「はい……」
その子は、俯くまま机に向かってつぶやいた。
「先生、少しわからないところがございまして……」
この学校の先生は必ず何かしらのカウンセリング資格をお持ちです。親元を離れるべきであるとされて入学を許された同級生たちは、必ず心に病を抱えていますから。
「すみません、今は少しこの子に時間を使いたくて……」
先生はいうのですが、俺が開いているテキストを一瞥すると押し黙ってしまいました。
意地悪く、そのことが書いてあるページを開いていたのです。大切であり、基本であるから、赤文字で大きく書かれています。
先生の名誉をお守りするには、これ以外の伝え方を思いつきませんでした。
「はぁ、分かりました。後ほど……」
少し生意気かもしれませんが、俺にとって彼女は見ていられるものではなかったのです。
先生は気まずそうに、教室を後にしました。ですが、彼女のケアはどうするのでしょう。今しがた、唯一逃れるために自分を傷つけたことを咎められたばかり。
困りましたが、もう俺がやるしかないでしょうね。
前の席から椅子を借り、彼女と机を挟んで直角になるように座りました。
「こんにちは」
最初はご挨拶から。ハキハキと、それでいて語調は柔らかく。資格を取る時に何度も繰り返し勉強したところです。
「こ……こんにちは……」
彼女はうつむいたままでした。
「先生の言葉、ちょっと傷ついちゃいましたよね」
自傷行為に理由がないわけなんてないのです。なのに、行為ばかり否定したらもっと大きな自傷に走ってしまうこともあります。それこそ、自殺だってありえます。
「何が分かるの?」
彼女は訪ねました。
「わかりません。でも、理由なく自分を傷つけるなんてしないんじゃないかなって」
少し緊張しますが、それは彼女には関係ありません。私が初めての実践であることも。だから、ベストを尽くしましょう。
「別に……スカッとするから……」
困ってしまいました。彼女はあまり話してくれるつもりがないみたいです。
でも、それもそうですよね。きっと当たり前なんです。でも……。
「スカッっとする。それもちゃんとした理由だと思います。でもなんで、スカッとしたいんですか?」
別のことではもう発散できないのだと思う。別のことをしていても、その根本的な理由はきっとついて回ってしまう。
「えっと……」
理由はきっと、もはやずっとそばにあって、その理由があるのが日常なのだ。その辛さが日常なのだ。
そこからの一瞬の逃避。それがきっとリストカットになってしまっただけだろう。
「あの……痛くないですか? 俺だったら、きっと痛くて泣いちゃいますから……」
じゃあ質問を変えてみよう。○○よりは痛くないと、言ってくれることもあるでしょう。
「痛い……」
失敗ですね。そんなこともございましょう。
「首、痛くないですか?」
じゃあ、顔を見てもらおう。
「痛い……」
痛いはずです。人間の体はうつむいたまま長時間頭を支えられるように出来ていません。
「あなたのお顔も見てみたいのです。よければ、顔、あげてみませんか?」
言葉を尽くしましょう。彼女が話したくなる時まで。
「あれ? 先生じゃない?」
彼女はゆっくりと顔を上げました。整っていますね……。
「はい、同級生の
彼女の悩みは一体何なのでしょう。
でも、名前を聞いたはずが、彼女か感情をドバっと吐き出してくれたのです。
「先生かと思ったじゃん! ふざけんな! だいたい何!? さっきのセンコー! やりたくてやってるんじゃねぇっつうの! わかんねぇくせに偉そうに否定すんな! お前も、偉そうに言うな!」
ただ、俺はちょっと驚いてしまって、それが顔に出てしまったのでしょう。
それと反省ですね。
「偉そうでしたか? ごめんなさい……」
そんなつもりはなかったのですが、彼女にそう感じさせてしまったのですね。
「あー、えと……じゃあなんで聞くの? マウント取りたいからじゃないの?」
マウント……ですか。そんな発想は俺にはなかったのですが、そう思われてしまったのですね。
「マウントですか? そのつもりはなかったんです。誤解させてすみません。それと、俺はいつでも聞きますよ。あなたのことを知りたいんです」
最初のオウム返し、これは本を鵜呑みにしたテクニックです。彼女に良い影響を与えてくれるなら……。
「あんた、変だよ……」
困ってしまいました。彼女にまで言われてしまうなんて。
「変かもしれません……。中学の時、先生もおっしゃってました」
それは、俺が反抗期を自覚できないまま、先生に懺悔した時の話です。母を無性に傷つけたくなって“俺のこと、愛してますか?”と尋ねたからだ。
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