27. 他言無用で!
「魔極って何ですか?」
わからなければ素直に聞くに限るよね。ってことで、ナークさんに疑問をぶつけてみたけど、返ってきたのは微妙な表情。答えづらいことでもあるのかな?
「えっとね。たぶん、悪魔側に傾いたマナってことだと思うよ」
代わりに答えてくれたのはシュロだ。それを聞いたナークさんはますます渋い顔になる。あまり知られたくないってこと?
このまま聞いてもいいものかな、とも思うけど……まずかったらナークさんが止めるよね。というわけで、質問は続行。
「悪魔側に傾いた……ってことは、天使側に傾いたマナもあるの?」
「あるよ~。法術を使うときのマナがそうなるね!」
「ふぅん。じゃあ、法術を使うときのマナは……法極? それとも天極?」
「名前は人間がつけたものだから、僕にはわからないよ」
それはそうだ。私とシュロの視線がナークさんに向かう。ナークさんは軽く息を吐いてから答えた。
「聖極……と教会では言っていますね」
魔極と聖極か。そんな話、初めて聞いたな。周囲の様子を見ても……いや、他の人はそもそも興味なさそうだね。ハセルたちなんて三人で関係のないお喋りをしてる。グレフさんとドグさんは一応聞いてるみたいだけど。
まあ、みんなのことは置いといて。
魔法にせよ、法術にせよ、基本的には秘匿された技術なんだ。だから、部外者には明かされない。ナークさんが話しづらそうにしているのは、そのせいかな?
「それじゃあ、魔法を使うときのマナはどうなんです?」
「特に名前はないですよ。というより、魔法はその種類によって、聖極に傾いていることもありますし、魔極に傾いていることもあります。根底にあるのが法術と魔術ですからね」
「ああ! たしかに、そうですね」
魔法混成術だもんね。混ざってるんだ。
「それでね。人によって、魔術が得意だったり、法術が得意だったりするんだよ。ナークは法術が得意で、魔術が苦手なタイプだね」
「エルデンという種族自体が聖極寄りですが……その中でも私は特に聖極に偏っていますね」
天使を信奉するから聖極に寄るのか、それとも聖極に寄っているから天使を崇めるのか。それはわからないけど、エルデン族は聖極寄りの特性を持つ種族なんだね。イメージ通りではあるかな。
「それなら、ラスバンは魔極寄りの種族なの?」
「ラスバンっていうのは、ステラとかハセルとかみたいな人間のこと?」
「そうそう」
「だったら、たぶんどちら寄りでもないかな?」
ラスバンはマドゥール文明の末裔なんじゃないかと言われている種族。このハーセルド王国では大半の住人がラスバンだし、たぶん世界的に見ても一番多い種族だ。この場にいるのも、ナークさんとシュロを除けばラスバンだね。
「個人差はありますが、ラスバンは比較的極性に偏りがない種族のようですね」
ナークさんが補足するように言った。基本的には偏りがないけど、個人差はあるのか。
「だったら、私は魔極に傾いているってこと?」
話の流れからそうだと思ったんだけど、シュロはふるふると首を横に振った。
「ううん、ステラは凄く綺麗にバランスがとれてるね! それなのに、あれだけ魔術がうまく扱えるんだから、たぶん法術も得意だし、大魔法使いにもなれると思うよ!」
「そうなの?」
「そうだよ!」
シュロがニコニコ笑顔と大げさな手振りで力説してくれる。あまり実感はないけど……意外ではないのかな?
私は独学で魔法を習得した。結構、あっさりと使えるようになったけど、普通はそんなに簡単なものじゃないみたい。習得したと言っても、基礎の基礎みたいなものだけど、それでも普通はありえないって養父は言ってたね。それも、私に魔法の適性があったからなのかも。
ただ、宝の持ち腐れって感じはするなぁ。魔法も法術も秘匿技術。魔法使いに弟子入りする気も、ゼウロ教の信徒になるつもりもない私にはあまり必要のない才能だ。
……と思ったけど、そうでもなかったみたい。
「僕とステラの相性がいいのも、たぶん、そのおかげだね!」
シュロとの相性に関わっているのなら、全然無駄じゃない。魔法の才能があって良かった。
でも、マナ極性のバランスが良いと、なんでシュロと相性が良くなるんだろう?
「シュロは悪魔なんでしょ? それなら魔極に偏ってる方が相性はいいんじゃないの?」
「うーん。悪魔と言っても、僕は昔のままだからね。偏りがないんだ」
「昔のまま? どういうこと?」
「悪魔と天使に分かれる前のままってことだよ」
悪魔と天使に分かれる……?
それって――……
「シュロさん!」
私が聞き返す前に、ナークさんが焦ったように大声を出した。
まるで、シュロの言葉を咎めるかのように。不都合な真実が明るみに出るのを止めようとするように。
でも、その行動こそがシュロの言葉の信憑性を高めることになる。それはつまり、天使と悪魔は、元々は同じ存在だったということだ。
しばらくの沈黙。ハセルたちは不安そうな表情で目配せをしている。グレフさんとドグさんは表情もなく無言だ。ただ、油断なく様子を窺っている気配はあるね。普段と変わらないのはシュロ。ニコニコとナークさんを見ている。
その姿に毒気を抜かれたのか、ナークさんは大きく息を吐いたあと、薄らといつもの笑顔を浮かべた。
「……はぁ、仕方がありませんね。今から話すことはあまり他言しないでください。教会に睨まれてしまうかもしれませんから」
そんな前置きでナークさんは話し始めた。
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