24. ガサゴソと音がする!

 では、早速、調査……とはさすがにいかなかった。あれだけの魔物が現れたんだ。他にもまだ潜んでいる可能性がある。そんな場所にセイリッド様を連れて行くわけにはいかないからね。


 セイリッド様を屋敷に戻してから、仕切り直し。今度の調査メンバーは私たち冒険者組とグレフさん、そして案内役の衛兵さんが一人だ。名前はドグさん。衛兵さんのなかでは若い方だけど、実力は確かみたい。馬車の護衛のときにはいなかった人だね。


「たしか、この辺だよ。魔物が這い出してきたのは。いやぁ、びびったよね。暗くて見えなかったから最初は巨大なものが蠢いているように見えたからさぁ。そしたら、大量の魔物でまたびっくりさ。さすがに死んだかと思ったよ」

「ドグ……言葉遣いはともかく、ぺらぺらとよくしゃべる口はどうにかならんのか……」

「何言ってるんですか、隊長。情報共有ですよ、情報共有。些細な情報も何かの手がかりになるかもしれないんですから」

「本当に口が回る奴だな……」


 ドグさんはお調子者の気配がするね。良く喋るので、グレフさんが呆れている。上司としては頭が痛いのかもしれないけど、私たちにとってはかえって話しやすいかも。


「ああ、この建物ッスね。出入りした痕跡がはっきりとついてるッス」

「そのようですね」


 ロウナとナークさんが地面の痕跡から魔物が這い出てきた建物を探り当てたみたい。ロウナは斥候タイプっていうのかな。魔物の追跡とかが得意なんだ。


 とはいえ、今回はロウナじゃなくてもすぐにわかったと思うけどね。あれだけの数の魔物が一斉に移動したんだもの。床に残る砂埃をすっかりと掃き出してしまっているので、間違えようがない。


「なんだか普通だね。シュロはマナの淀みとかわかるの?」

「僕? 僕はそういうの気にならないタイプだから、わかんない! そういうのが気になる悪魔は、近づくだけでくしゃみが出るって話だよ」

「へえ、そうなんだ」


 埃とかに敏感な人っているもんね。似たようなものかな。ナークさんが“くしゃみ……?”と呟いているけど、よく見る光景だからスルーで。


 それはともかく、建物の大きさ自体は、周りとほとんど変わらない。サイハの街の宿屋くらいで、とても実験施設には見えなかった。入り口のドアがなくなっているけど、これは魔物達が押し寄せてきたときに破られてどこかにいっちゃったんだろうね。


「この建物じゃ、あの量の魔物は収納できないですよね。どうなってんでしょうか? それに通り沿いの建物は一通り調べたって聞いてますけど。どうなんです、隊長?」

「そうだな。歴代の調査隊も通りのそばを重点的に調べてきたはずだ。調査漏れがあるとも思えんが……」


 建物を眺めているドグさんとグレフさんの会話がこれ。たしかに、ごもっとも。あのときの魔物をこの建物にびっしりと詰めたとして……うーん駄目だ。窓や扉から、うにゅーんと溢れ出てきそう。


 てことは、だ。


「秘密の実験施設……なのかな?」


 見た目は普通の建物。大きさも普通に見えるのに、大量の魔物が潜んでいた。つまり、何らかの秘密の空間がある。まあ、普通に考えれば地下、かな。いや、ここ自体が地下なんだけど、さらに下って意味でね。


「おそらく正しいかと。足下からそれらしき気配がします」


 推測を話すと、ナークさんが同意してくれた。


 気配というのは淀んだマナのことかな。そういえば、シュロを召喚した場所では痕跡がないとか言ってたっけ。ナークさんはマナの存在を感じ取れる人なんだね。やっぱり、淀んだマナが近くなるとくしゃみとか出るんだろうか。


「出ませんよ」


 じっと見てたら、ナークさんに睨まれた。何も言ってないのに……。


「まあ、調べてみればわかるんじゃない?」


 結局は、ハセルの言うことが全てだ。調べてみればわかる。魔物の生き残りが潜んでいる可能性もあるので、ひとかたまりになって建物内部を調べていく。入ってすぐの部屋は結構大きくて、建物全体の半分以上を占めているようだった。

 

 特筆すべきところは何もない。昔は家具類でも置いてあったんだろうけどね。朽ち果てたのか持ち去られたのか知らないけど、何も残っていなかった。逆に、普通の木造に見える床が残っていることの方が不思議だけどね。魔法文明ってやっぱりすごい。


「こっちだね」

「まあ、そうでしょうね」


 ロウナとメイリが床を見ながら言った。魔物が通った痕跡はあちこちに残っている。それを辿れば魔物がどこから現れたのかを知るのは容易い。この部屋に幾つかあるドアのひとつから現れたのは明白だった。まあ、ドアは打ち破られてすでに存在してないんだけど。


 移動した先は小部屋だった。さっきの部屋と同じように、何も残されていない。ただひとつ、明確な違いは床板が剥がされていることだ。


「隠し階段というわけか」


 グレフさんがポツリと呟いた。まあ、そうなんだろうね。中から魔物の群れがあふれて、隠されていた階段があらわになったんだろう。猪型の魔物とかよく上ってきたものだね。


 調査は続行。隠し階段を慎重に降りる。少しは魔物が残っているみたいで、その途中で何度かコウモリに襲われた。


 長めの階段を降りていくと、ようやく階下の様子が見えてくる。そこは、同じ建物とは思えないほどに様相が変わっていた。上は木造風だったけど、地下はつるりと不思議な光沢がある材質の壁と床。私がシュロと出会った遺跡と良く似ている。


 階段を降りてすぐの部屋は、かなり狭め。部屋というよりは、受付スペースみたいな場所だね。扉が一つだけあるので、出入りする人をチェックする場所なのかもしれない。で、肝心の扉は開け放たれた状態だ。


 いつもの私なら、すぐにでも隣の部屋をのぞき込んだことだろう。だけど、さすがに慎重にならざるをえない。だって、そっちから、ガサゴソと音がするんだもの!

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