社会人百合短編集
茶葉まこと
番外編~雨季と希~
「いらっしゃいませ。」
「久しぶりね、希。」
「ああ、雨季。どうしたの?」
「どうしたも何も、下着を買いに来たのよ。」
「ふーん。でもうちの店って雨季好みの置いてないと思うよ。」
「大丈夫よ。着るのは私じゃないから。」
久しぶりの同級生の来店。竹中雨季は高校の時に同じクラスだった。ごくたまにふらーっと店に来ては、軽く雑談をして帰っていく程度なんだけど、下着を買いに来たってことは…。
「ということは誰かに着せるんだ。」
「まあね。」
雨季はにっこりと笑った。
「何だかんだ貢物を貰いやすい雨季が自分からプレゼントをするなんて珍しいね。どんなの子なの?」
「意地っ張りで可愛い後輩。しかも私ものすごく警戒されてるの。」
フフッと笑う雨季はなんだか楽しそうだ。まるで新しいおもちゃを見つけた子どもの様だ。
「へえ。じゃあ、今回の子は雨季から手を出してる感じなんだ。珍しい。」
「そう?」
「うん。高校の時は告白される側だったじゃん。」
「それは希もでしょう?」
「まあ、女子高だったからねー。ほら私も雨季も割と長身だし、顔面偏差値も高めだと思うし。」
「そういうことは自分で言わない方が良いわよ。まあ、同意だけれど。」
お互いにクスクスと笑う。
「で?プレゼントする相手の子の下着のサイズや好みは押さえてるの?」
「抜かりないわ。むしろそれくらいの情報も持たずにここへ来るわけないじゃない。」
「それもそうか。」
雨季は相手の子の情報は全て頭の中で暗記しているようで、携帯のメモを取り出すこともなくスラスラと流れるような口調で私に注文をした。
「D70で、フリルやレースは少な目、色は黄色系で、柄物は不要。上下のセット。ショーツはMで。ブラホックは背中で外しやすい物が良いわ。猫背気味だから姿勢を補正出来そうなタイプだと尚良いわ。」
「了解。ちょっと待ってて。」
「よろしく。」
引き出しを開けて、言われた条件に合うものを何点か取り出す。
「こんな感じかな。」
「さすが。」
雨季は満足そうに笑って、財布からカードを取り出した。
「それ、全部で。」
「了解。袋に入れるね。」
「頼んだわ。」
雨季は買い物で悩むことがあまりない。大体事前に情報を得て、買うものや注文するものは既に決めてあることが多いし、迷うくらいなら全部買ってしまうタイプだ。売る側としては非常に楽だし、時間もかからない。さっぱりしていて助かる。
「今日は休み?」
「ええ。彼女は休日出勤しているみたいだけど。」
「大変そうだね。」
「そういうあなたは最近どうなの?」
「んんー?付き合ってる子って意味?」
「それ以外に聞くことある?」
紙袋が開かないようにテープで留める。
「いるよー。可愛い子。最近付き合い立て。」
「どんな子?」
「可愛くて、歌が上手くて、仕事が忙しくても笑顔を忘れずに頑張る子。この前やっとで連絡先ゲットしました。」
「あら?出会って初日で抱いたんじゃないの?」
「私を節操なしみたいに言わないでくれないかな。」
「その通りでしょ?高校の時は寄ってきた女の子をとりあえず秒で抱いてなかった?」
「失敬な。初日はキスくらいしかしてません。」
「ダウト。」
「残念ながら本当です。」
「珍しいこともあるのね。明日は雪かしら。」
「天気予報では快晴だよ。」
お互いに顔を見合わせてクスクスと笑った。
その時丁度店のドアが開く。おっと、来客だ。
「いらっしゃいませー。」
「じゃあ、希。私はこれで失礼するわ。」
「了解。ああ、そうだ。今度ゆっくり飲みに行かない?」
「彼女いるのに私を誘って大丈夫なのかしら?」
「君は私の同級生だからねー。ただの友人だ。」
「ふふっ。まあ良いわ。また連絡頂戴。」
「了解。」
カランコロンとドアの音を立てて雨季は店を後にした。ふわりとポニーテールが上機嫌に揺れていた。
雨季が好きになる子か…どんな子なんだろう。ちょっと興味あるなー。
「あの、店員さん。少しお聞きしたいんですけど。」
「はい。いかがなさいましたか?」
さ、仕事仕事。あとで雨季に連絡入れておこう。
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