短編

刺身さん

270km/hへの抵抗

幕張に行った次の日

今日は特例だった

新幹線や特急を乗り継ぎ、数時間程かけて

地元に帰る

今は名古屋と京都の間のどこか

地元は田舎で、生憎普段から公共交通機関を使うことが無いから線路には疎いのだ

上記の通り今日は特例だ

通常通りであれば、

羽田へと向かいそのまま空の旅を決め込み、華麗に地元近くへと舞い降りる

要約すると飛行機乗ってご帰宅


然しながら、今日は自分が両親へと頼み込み連れてきてもらった旅

ゴールデンウィーク初期や幾度となるか知らぬ物価上昇が重なり合い、

2倍とは言わぬものの通常期に比べ、飛躍的に飛行機とホテルの値段が跳ね上がっていたのだ

その為、比較的まだ安い新幹線と特急で地道に移動することを選択

文句は何一つとして無い

両親にはとても感謝をしている


ただ、1つだけ不満と言えば良いのか

何と呼ぶべきなのか分からぬ事が

自分はかなりの旅行好きだ

小さい頃は帰路に着く車の後部座席にて、

連れていってもらった大阪や神戸の煌びやかな灯りが

ただただ遠くなっていってしまう事に涙するほどだった


今でも変わること無く

身体的に立派な人間へとなった今でもそれはご健在のようだ

その代わりなのか、家へと帰ると楽しかったな、程度で済むようになった

家へ帰るまではセンチメンタル状態が続くものの

飛行機を愛用し始めた自分には、ほぼ無縁の話だ


それが今はどうだろうか

数時間かけて我が家へと帰るのだ

つまり、地元へと連れていく為に自分の手を引く乗り物が変わっただけで、

全く同じ子供の頃と同じ状況下なわけで


流石は新幹線

身体に前から圧が掛かっているのがわかるほど速く走っている

足に力を入れて踏ん張ってみる

顎を引き

背中が座席のシートにぴったり

それどころかめり込む勢いで

さっきよりも風景が早く入れ替わる気がする

機械音なのか唸り声なのか分からない音も

比較的大きくなった

自分の抵抗は失敗に終わったらしい


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