ホームステイ先は、一万光年の彼方でした

早急重複

プロローグ いま、銀河のはるかかなたで……

「……あれ、なんですか?」


 わたしは聞いた。日本語でもなければ英語でもない、それどころか人類の使うどの言語でもなかった。熱帯とかのよくわからないカエルが出してそうな音を発音しなくてはいけなかった。グォゲッ、って感じで。いやグォバァッの方が近いかもしれない。

 

 わたしが指さす先には、満天の星空と、そこに鎮座する馬鹿デカいリング状の構造物があった。


「ワープ・ブリーチ・ジェネレーターです。直径はおよそ九千キロですね」

「きゅうせんきろ」

「はい、比較的小型のものです。しかし最新型ですから、一度のワープで五百光年は跳べますよ」

「こがた」

「はい」


 ナチュラルにクソデカ単位使ってくるな……と、宇宙人に対する素朴なカルチャーショックを受けながら、わたしは憮然として隣に立つアンドロイドを見た。

 

 黒髪黒目の、日本人に見える十代の女の子の姿をしているアンドロイドだ。サルファークとのコミュニケーションに慣れるまでのあいだ、ヒト型のサポートロボットが手伝ってあげたほうがいい、ということで、在地球サルファーク大使館が寄贈してくれたのだ。


 ちなみに男性型も選べたのだが、何を勘違いしたのか全盛期のシュワルツェネッガーみたいなやつだったので、おとなしく同性のほうにした。マッチョは好きだけどやりすぎはだめです。


「じゃあ、もうちょっと手前に浮かんでるのは?」


 今度は、宇宙空間ではすごく目立つ、ほとんど完全な球形をした真っ白な物体を見て言った。これもデカすぎてどれくらいの規模かはわからない。


「あれはエネルギー炉です。一標準日で……ほぼ地球の二十時間ですね、二.五かける十の二十九乗ジュールのエネルギーを生成します」

「うわぁ……」


 もうドン引くしかないじゃん。太陽が一日に産み出すエネルギーよりずっと大きい。人類文明が消費するエネルギーの数千万倍だ。逆に何に使ってるのか気になってきたが、はっきりいって聞くのがこわい。


「原理は?」

「申し訳ありませんが、異種間外交法の定めるコミュニケーション規定に抵触する情報です。人類が自力で発見することを願っています」

「あっ、はい……」


 たぶん敬語である必要はないし、向こうも気にしてないか気にする機能がないかのどっちかだと思うけれど、どこからどう見ても生きている人間にしか見えないので、勝手に敬語になってしまう。サルファーク語が日本語と似てるせいもあるかもしれない。


「よろしければ、お部屋までご案内を始めさせていただきますが」

「あっ……はい! お願いします、ジンさん」


 あっけにとられて窓越しに――たぶん窓じゃない、めちゃくちゃ透明度の高い謎の壁――宇宙をぼーっと眺めていたら、アンドロイド――名前がなかったので、わたしがジンさんと名付けた――が、冷ややかというか感情のない声で言ってきた。


 こんな感じで、私、東谷錬とうやれん十九歳の恒星間留学は、いろいろと違いすぎる文化や環境に慣れることからはじまった。

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