この悪魔、凡骨につき!?
スイッチ&ボーイ
第1話 素晴らしき出会い哉?
初めてとなる一人称視点の書き方に挑戦してみました。どうかよろしくお願いします。
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僕、ウォレット・アンソンは緊張の渦中にあった。
魔女として高い才を持ちながらも偏屈な性格から弟子入りや修行が厳しいというドレインシアさんに必死に頼み込んで、なんとか弟子にさせてもらってからはや数年……修行もいよいよ佳境に入ったところで僕は師匠のドレインシアさんからあることを言い渡されたのだ。
「え、旅に出ろ? それは一体どういうことで……」
「実地と実技を合わせた試験みたいなものだ。お前は童顔な割には意外に飲み込みが良かったからな、そろそろ新しいステップに移行してもいいだろう」
「童顔は関係ないでしょう、気にしてるんだから言わないでくださいって」
「ああそういえばそうだったな。次からまぁ気を付けよう」
銀髪で片目が隠れて気だるげにしながらキセルを吹かせる美女……師匠であるドレインシアさんは僕にそう言うけど、本人は守る気があるのかどうか疑わしい態度で思わず苦笑する。
美人なんだけれども仏頂面に加えてこういう風に相手のコンプレックスを逆撫でするような言い種のせいで、世間から凄腕の魔女と呼ばれながらも彼女は人付き合いが乏しい。
僕が弟子入り希望した時も他に何人かいたけど、修行の厳しさに加えてこういう面のせいで次々に脱落していった。以前、師匠から「お前は神経が図太いから耐えられたのかもな」というお言葉をもらったけど、たぶん本人なりの褒め言葉だと思う。それにしたって言葉の使い方はもう少し考えるべきだろうけど。
「でも旅に出ろって言われても、具体的にどうしていけばいいんでしょうか」
「なに、私から出す課題を順次クリアしていけばいい。これがそのリストだ」
手渡された紙にズラリと書かれた課題。そこそこの量に加えて、ひとつひとつが簡単には出来なさそうな内容のものばかりだけど却ってやる気が沸いてくるというものだ。
「それを全て達成できたなら無事に合格とする」
「あの師匠、達成したっていう報告はどうやるんですか? クリアした度にここに戻ってくるというのも手間なんじゃないかと」
「言われずとも考えてる。これを持ってけ、私特製の連絡用水晶球だ。魔力を流せばたとえ大陸ひとつぶん離れていようと声と映像を届けられる」
軽く言ってるけど、市中に出回ってる連絡用水晶球はせいぜい十キロ単位の範囲内でしか使えない。数百キロともなれば固定で設置する大型でしか無理だ。
おまけに届けられるのは声だけだし、映像も送れる代物なんて聞いたことがない。
「またさらっと凄いものを……これ、下手しなくても発表すれば国王から表彰されるレベルの発明ですよ」
「発表などせん、色々と面倒な式辞に参加せねばならんしな。長ったらしくて途中で寝たらどやされるし、居眠りぐらいは大目に見るべきだろうが」
いやそれはどやされても仕方ないだろう。というか口ぶりからすると寝たことがあるみたいだ。国王からの表彰式で居眠りできるとか師匠の方がよっぽど神経が図太いよ。
「おいお前、今何か失礼なことを考えなかったか?」
「いえ全然っ。何も考えてませんよっ、それじゃ早速行ってきます」
「待て戯けが。行く前にやることがある」
勘の鋭い師匠の追求から逃げようとしたけど、それに待ったをかけられた。けどそれは僕に文句を言うためでなくて、ある儀式をしろということだった。
それは自身の使い魔を喚びだす召喚式ーー悪魔召喚を行えというものだった。
「あ、悪魔召喚をっ? 僕がですかっ!?」
「そうだ。理由は二つ、お前単身で旅をするには不安要素が大きい。かといって傭兵なり冒険者なりを護衛として長期に渡って雇うのは金がかかる。そこを悪魔で代替えすれば出費も押さえられるだろう。まぁそれはついでぐらいで、もうひとつの理由は……ウォレット、お前の今の力量がどの程度か見極めるためでもある」
スッとそれまで気だるげだった師匠の眼が細められると、静かな威圧感を出して僕は思わず身が固まった。
普段から怠そうにしているので忘れがちだが、師匠は魔法関連の発明だけで名声を得ているだけじゃない。嘗ては幾多の戦場で敵軍を単独で撃破したという功績から【殲滅女帝】という渾名が付けられるほどの猛者としても名を轟かせていたのだ。
本人はダサいネーミングと血生臭いのに嫌気が差したそうで実戦から遠退いたそうだけど……こうして放たれるプレッシャーを間近で感じていれば、師匠の戦闘に於ける感覚などは衰えていないことがよく分かる。
「お前もよく知っているだろうが、我々魔法使いは契約の儀を結ぶことで異形のものを従わせることが可能となる。そこらのモンスター程度ならちょっと訓練すれば誰でも出来る……が、悪魔となれば話は別となる。魔界に巣食う悪魔どもは地上のモンスターとは別格に強い分、従わせるには高い魔力や精神性に納得させる論述など求められる要素が多い、何よりも失敗すれば」
ーー魂を奪われて逆に支配される。
悪魔召喚に於いて、最大のリスクがそれだ。自分の実力以上の悪魔に対して、契約の儀が失敗した場合、喚び出した術者が逆に下僕として使役される。
そうなった魔法使いがどんな悲惨な境遇に遭わされるかは、師匠から耳にタコが出来るほどに教えられた。
本来ならそれを行えるのは魔法を極めて、更に習熟を重ねた熟練の者でなければならない。それほどに危険な儀式を五年ほどの修行ぐらいしか積んでいない弟子レベルの僕にやれというのは無茶振りともいえた。
「まず断っておくが拒否権がないというわけではないぞ。そんな危ない橋を渡るのはご免被るであるなら無理強いはせん、今のお前でもそこそこぐらいの腕前だからな。今でもう充分だというなら引き留めないが……どうする?」
降りたければどうぞという言い回しに試すような視線が向くけど、僕の意思は最初から決まりきっている。
「師匠、僕が今日までどんな思いで修行に励んでたかぐらいご存知でしょう。ここで妥協する道を選ぶようなら最初のふるいで脱落してますよ……答えはひとつ、やらせてもらいますとも!」
「フッ、あどけない顔のクセに威勢のいい台詞を吐くじゃないか」
「だから顔のことで弄るのは止めてくださいってば……」
そこからはトントン拍子で事は進んで、修行場として使われている洞穴に移動した僕は召喚用の陣の作成に挑んだ。
愛用の杖に魔力を込めて指揮者のように振るいながら空中に魔法陣を描くこの作業はとにかく繊細なコントロールが求められる。
「そこで一旦止めろ、次は弧を描くようにゆっくりとだ。中に描く記号は▽§○だぞ」
「よっ…とっ。こ、こうですかね師匠?」
「ふむ、やや歪な感はあるがまぁ問題なかろう」
少々不出来な部分があるようだけど、こうやって空間に魔法陣を描くのは初めてやったのだから及第点ぐらいは貰っていいだろう。
ともかく、これで下準備は終了だ。次はいよいよ、召喚の実行に移る。上手くいかなければ僕は悪魔の下僕に成り下がってしまいかねないから、プレッシャーもそれだけ大きい。
けど、ここで後戻りしたら師匠の元で必死こいて修行していた努力や苦労が中途半端で終わってしまう。何としてでも成功させねばと僕は気合い充分で挑む。
「よし、あとは陣に魔力を流し込みながら呪文を唱えろ。流れた魔力の波長を追って、なにがしかは出てくるだろう。どうしようもないレベル差の個体が出てきた場合は助太刀ぐらいはしてやるから臆せずにやってみろ」
「……それは逆に僕がどうにかできるレベルだった場合は手は出さずに静観するって意味ですかね」
「その通りだ。察しが早くて何よりだな……さっ、記念すべき初悪魔召喚だ。悔いがないようにやれ」
ニヤリと嗤いながら縁起でもないことを言ってくる。内心じゃ楽しんでいやしないかと邪推するけど、ここまで来たならあとは決死の覚悟で食らいつくだけだ。絶対に成功させてみせる!
意を決して僕は息を吸うと、召喚の呪文を唱えつつ魔法陣に魔力を流し入れた。
「……ΔΦδικ……ЁДЧШЯё……∀∇∮∂θηξ……」
高度な魔法だけあり、召喚の呪文も普通では発音しづらい難解な語句ばかりだけど精神をこの上なく研ぎ澄ましたおかげか、詰まることなく詠唱は問題なく進む。
あとはこの召喚に応えてくれる悪魔が現れてくれるか、そして運良くいけたとしてもそいつを御しきることが可能か、それが最大の関門だ。
黙々と極限にまで集中し続け、最後の文節となる詠唱まで滞りなく済んだ。どうか、僕の手に追えれるぐらいの悪魔が出てくれと願っていると魔法陣に変化が訪れる。
瞬くように明暗を繰り返しだし、咄嗟に師匠に視線を向けると真剣な面持ちで深く頷いた……悪魔が現れる予兆なのだと僕は生唾を呑んだ。
どのような悪魔が出てくるのか、固唾を呑んで身構えていると遂にそれは姿を現した。
闇のように黒い髪から山羊のように歪曲した角を生やした褐色肌をした女の頭部が魔法陣から徐々に抜け出てくる。閉じられていた眼を開いて、金色に輝く瞳孔で僕を見据えた悪魔は不適な笑みを浮かべながらこう言ったのだ。
「……あなたがアタシを喚び出した召喚者かしら? この魔界きっての大悪魔、アスディウス・オア・ゾーンが来たことを誉れに思うといいわ!」
これが僕、ウォレット・アンソンと悪魔【アスディウス】が初めて迎合した時で……これから始まる波乱万丈な人生の始まりでもあったんだ。
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アスディウスのポンコツっぷりは次回からご披露します。彼女のダメっぷりにこうご期待ください。
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