第6話 続聞き取り
次に、応接室でお茶を入れ替えたりと忙しそうに動いていたお手伝いの木下さんから話を聞くことにした。
「木下さん、森脇さんですが、他人から恨まれたりとか、そういうことで思い当たることはありませんか」
「いーえ、そんなことはありえませんねえ」
「そうですか」
「ピンポンダッシュされたりとか、イタ電かかってきたとか」
夏子が尋ねた。
「ピンポンだ? えーと何でしょうか、それ?」
「いたずらでチャイムを押して、逃げる遊びです。家のチャイムを押されて応答したら、誰もいなかったとか」
「そんなことは経験したことはありませんねえ」
「イタ電もですか」
「え、それはどのようなものなんでしょうか」
「いたずら電話のことです」
「あ、いたずら電話ねえ。んー、ないですねえ。けど、先週だったかしら、電話に出たら、相手が無言のままですぐに切られたことがありましたねえ」
「それって、相手の番号の記録、残ってますか?」
「それが、番号を知らせない設定でかけてこられたので、記録は残っていません」
「そうですか。聡くんですが、最近、おかしなこととかはありませんでしたか」
「んー、いつも通りで、特に変わったこととかはなかったように思います」
「聡くんがパソコンで何をしていたのかわかりますか?」
夏子が尋ねた。
「たまに、聡坊っちゃんの部屋から声が聞こえてくることがありました。聡坊っちゃんは携帯電話をお持ちでないので、誰かとパソコンで話しているのだろうと思いました」
「テレビ電話だよね、きっと」
夏子はきっちりとメモを取っていた。
「田中巴さんは、どんな感じでしたか?」
「ああ、あの学生さんね。真面目で器量が良くて可愛らしい女性だと思いました。それが、大切な書類を盗むだなんて、とても信じられませんねえ」
「感じのいい人だったんですね」
「ええ、聡坊っちゃんが妙に懐いてましてねえ。でも旦那様はあまり良い顔をしておられませんでした」
「森脇さんが、ですか。その時はどういう感じでしたか?」
「旦那様は遠目からでもチラチラと田中さんのことを見ておられました。なので、私は気になっていたのです。田中さんが聡くんと一緒にいた時ですが、旦那様はきっと仕事の邪魔だからと聡くんに注意されると思いました。でも、ただ、ボーッと二人を見ているような感じでした」
「そうですか」
聞き取りはしばらく続いたが、遠回しに話をする木下さんに、私も夏子も調子が狂ってしまった。
応接室にいる社員三人からも聞き取りをすることにした。
「森脇社長と会社が、何かトラブルに巻き込まれたりとか、他人から恨まれているとか、そういうことはありませんか?」
「いえ、ないと思います」
「聞いたことありません」
「絶対にありません」
みんな体育会系のノリだった。20代の女性社員二人は、思っていたよりもギャルっぽかった。30代の男性社員は元ヤンっぽかった。
「皆さんは、社長の息子さんの聡くんのことはよく知っているんですか?」
「いえ、今日初めて会いました」
「私もです」
「僕は今日が二回目でした」
「普段は、こちらの社長宅へは来ないんですね」
「はい」
「はい」
「はい」
すごく単調な感じだった。
「あーっと、インターンの田中さんですが、何か変わったこととかはありませんでしたか?」
「いえ、特に」
「ありません」
「ないと思います」
夏子はしっかりとメモを取っていた。
竹を割ったような勢いで聞き取りが終わってしまった。私よりも京子のほうがもっとうまく話を続けられたかもしれないと思った。
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