第4話 応援到着
係長に連絡したら、京子と一緒にこちらに向かうと返答された。来るまでに時間があるだろうからと、お手伝いさんの木下さんが食事をつくってくれた。おにぎりとお茶だけだったが、ありがたかった。森脇さんら会社の人たちは食事も喉を通らないくらいに悩乱していた。
1時間弱で、係長と京子がやってきた。
「おう、香崎、遅くなった。あ、夏子ちゃんもいたの?」
「こんにちは、村田さん」
「小春ー、サイレン鳴らさずに来たから、時間かかったわー」
京子は相変わらずKYだった。
私は事の成り行きを二人に話した。それから、係長はまず、塀を調べると言って庭に出た。
「ワオワオォォ!」
京子は犬を素無視したが、係長は少し怖がっていた。怖がりな京子が犬を怖がらないことを私は初めて知った。山根さんが命令すると犬はすぐに大人しくなった。敷地内で塀を見て回った。
「おう、これは高くて昇れないな。手をかける所もないしな」
「ハシゴを使ってもー、難しそうー」
「おう、ハシゴをかけたら、出っ張ってる瓦が重みで割れるぞ」
「そうですね。」
築地塀は高さが2メートル以上あり、掴む所や足をかける所もなく、とても越えられそうになかった。
夏子は塀のことなどまるで関心を示さずに、敷地の中央に立つ豪華な家を観察していた。
「夏子、どうかしたの?」
「ん? 切妻屋根の大きな家だなって思って」
夏子は家を気にしながら、私たちの後をついてきた。
「おう、この門の入り口が暗証番号がなきゃ開かないんだな。あのおっかない犬もいることだし。んー、こりゃ、敷地から外へ出るのは難しいぞ」
「えー、じゃあー、いなくなった田中さんはどこへ行ったんですかー?」
「おう、不思議だな」
私たちは家の中へと戻った。
家の中を見て回ることにした。玄関、居間、書斎、応接室、洗面所、風呂場、トイレ、聡くんの部屋など、全ての部屋を調べ、人が隠れることができそうな所がないか念入りに調べた。
「おう、ここが聡くんの部屋か」
「へえー、小学2年生なのに、パソコン持ってるのー」
デスクトップパソコンが勉強机の上に置かれていた。
「聡坊っちゃんは、コンピューターに関心がおありで、世界中の人と交流を持っているとか、何とか」
木下さんが言った。
「聡くん、海外にも行ってるんだ」
夏子は外国で撮られた写真を見ていた。
「おう、綺麗な書斎ですね。ここで監査報告書をコピーしていたんだな」
「コピー機の中のー、紙の中に紛れ込んでるとかー?」
「いえ、私たちが何度も探しましたが、見つかりませんでした」
山根さんが残念そうに言った。
「あれ、この奥の部屋は?」
係長は書斎の奥のドアを気にした。
「はい、そこは旦那様の寝室です」
「入らせてもらいますね」
「あ、お待ちを!」
木下さんが止めた。
「その部屋は、旦那様が掃除も何もしなくてもいいとおっしゃいますので、私も数回しか入室したことがありません。ですので、旦那様に確認を取らせて下さい」
「そこは、私たち社員もさっき田中さんと聡くんを探していた時に入りました。なので、よろしいかと」
山根さんが木下さんに言った。
「室長さんがそう言われるなら……」
山根さんがドアを開け、私たちは森脇社長の寝室へ入った。
ごく普通の部屋だった。壁際にはたくさんの棚が置かれてあり、本がたくさん並べられてあった。広々とした机が窓際に置かれてあり、その隣に簡素なベッドが設置されていた。真っ先に目につくのは膨大な本だった。使用者の教養度がすぐにわかるような部屋だった。
私たちはカーテンの裏側やベッドや机の下を調べたが、何も変わったところはなかった。
「んー、聡くん、かわいいですね」
夏子は棚に飾られてある写真を見ていた。
「おう、なんか、聡くんのちっちゃい頃、女の子みたいだな」
「どれですか?」
「棚の上のほうのやつ」
「あ、ホントですね。着てる服が女の子用だからですかね」
「係長ー、夏子ちゃんと距離近すぎですよー」
京子が係長と夏子の間に割って入った。
「これ、社長の奥さんか。美人だな」
「うわー、マジ美人ー」
「あ、社長の奥さんはどちらに?」
係長は振り返って山根さんと木下さんに尋ねた。
「あの、奥様は、5年前にお亡くなりになられました」
木下さんが悲しそうに言った。
「そうですか、これは失礼を……」
「いえ、先妻と離婚された後でしたので、旦那様にはさぞお辛いことだったと思います。旦那様の前では口になさらないようお願いします」
私たちは寝室から出て、みんなのいる応接室へ向かった。
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