第15話 夢を見たかったんです。きっと

 オイオイオイオイ、最高かよ、レンティちゃんよォ!

 あまりにも見事な『完全超悪』に、思わずアハト・アハト出しちゃったぜ!


 このアハト・アハト、格納庫に入ってる火器の中でも最大サイズのシロモノだ。

 もちろん、レプリカではない現物。

 しかしカリッカリにチューンナップしたハナコ・タスタムだぜ。


 ちょっとカリカリしすぎて威力、射程、共に従来の数倍に至っている。

 対戦車砲のクセして、下手なミサイルより全然強力なブツに仕上がってしまった。


 その分、発射時の音と震動がすんごいことになるけど、そいつは御愛嬌ってね。

 今回は超時空格納庫から砲身だけ出して発射したけど、それでも音がすごかった。


 ま、いっか。

 とっくに周囲は『環境迷彩』で覆っている。


 アハト・アハトくらいの轟音でもきっちり遮断できるから、優れモノだわ。

 吹っ飛んでった『勇者』様までは隠しようがないけどな。どうでもいいよねー。


「……あの」


 あ、レンティの目が点。

 これは仕方がないか。さっきまで可憐な奴隷のハナコちゃんだったモンね。俺。


 本当はよー、最後までかわいそうな奴隷を演じ切るつもりだったんだぜ?

 けどさー、あんな『完全超悪』を見せられたら、もうテンションも爆上がりよ。


 こんな気分で、演技なんかしてられるかって話よ。

 だから、もういいや。今だけはいいや。あとのことは、あとで考えりゃいいや。


「助けてくれて、ありがとよ」

「ハナコ、あなたは……」

「それにしてもビックリしたぜ。おまえ、それが素の口調かよ」


 男勝りな口調のレンティも、それはそれで似合っていた。

 ところが、今の敬語口調の方が何故だかはるかにしっくり来てんだな~、これが。


「おまえ、その口調の方がいいぜ。多分だが、戦い方も含めてな」


 実のところ、俺は割と早めにこの場に到着していた。

 戦闘開始直前くらいの到着だったので、レオンとレンティの戦いも見ていた。


 レンティがレオンの首を断ち切った一撃。

 あのときだけ、レンティの動きが明らかに変わった。そして、強く、鋭くなった。


 これまでの力と勢いに任せた威力重視の直線的な戦い方とはまるで対極。

 変則的なステップからなる、フェイントをメインとする虚実入り乱れの奇襲戦法。


 きっとあれが、レンティの本来の戦い方なのだろう。

 デカワンコの群れ程度なら、確実に瞬殺できていた。それくらいには強かった。


「ハナコ、あなたは何者です? リアンに何をしたのですか! それに――」

「落ち着け。落ち着けよ、ちゃんと順番に答えるさ」


 俺は軽く両手を挙げ、迫るレンティに応じる。


「まず、俺が何者か、だが。俺はおまえと同じだよ」

「同じ? 何がですか?」

「おまえが『おまえの正義』の味方であるように、俺も『俺の正義』の味方だ」


 こいつと俺の『正義』は、言葉は同じでも違うものだ。

 だが、自分が抱えるソレに殉じて生きるという姿勢については、共通している。


「それと、逃亡奴隷ってのは嘘だ」

「嘘……」

「本当は、別の世界から来たんだ。って、言っても信じてもらえるか知らねぇが」


 自分で言ってて『ないわ~』と感じるくらいには嘘臭いしな~。

 と、俺は思っていたんだが――、


「別の世界? まさか、あなたは召喚転移者、なのですか……!?」

「ショウカンテンイシャ?」


 聞いたことのない単語に、思わずオウム返ししてしまった。

 ふむ、ナビコからは報告されていない単語だ。あとで詳しく聞いてみようか。


「いえ、それよりもリアンは……? 何故、リアンを攻撃したのですか!」

「え、何故って、そりゃあ決まってるだろ」


 俺があの元レオン現リアンにアハト・アハトした理由なんて、一つしかない。


「あいつが、おまえを殺そうとしてたからだよ」

「リアンが――」

「まさか、気づいてなかったとでも?」


 いやいや、それこそまさかだろ。

 リアンは俺だけでなく、レンティも殺そうとしていた。殺意は明らかだった。


「…………」


 レンティが押し黙る。この表情は、


「気づいちゃいたが、信じたくはない。ってツラだな」

「……簡単に人の感情を読み取らないでください」

「って言われてもなぁ、そんなわかりやすい顔されたらなぁ」


 不満そうに言われても、読み取ってくださいといわんばかりだったぞ、こいつ。


「どうして、わたしを助けたのですか?」

「え、おまえがそれを聞いちゃうの? 同じ理由で俺を助けたおまえが?」

「同じ理由……、ですか?」


 そうだよ。

 レンティは『自分の正義』に基づいて俺を助けた。それと同じだよ、俺だって。


「おまえを見殺しにするのは『俺の正義』に反する。だから助けただけだよ」

「あなたの『正義』は……」

「『俺の平和』を保つことだ。おまえに死なれちゃ寝覚めが悪い」


 正義だなんて大層なワードを持ち出したところで、要はそれだけに過ぎない。

 別に特別でも何でもないだろ。レンティにとっても、そうであるはずだ。


「ところで――」


 ここで、俺は話題を変える。


「リアンがぶっ飛ばされたってのに、全然心配してないな、おまえ」

「え、それは……」

「いや、別に言わないでもいい。理由はわかってるよ」


 別にレンティが薄情だってワケじゃない。彼女がリアンを心配していないのは、


「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――ッ!」


 聞こえる咆哮。

 そして、強烈な赤い光の塊が凄まじい速度で飛翔し、俺達へと接近してくる。


「おまえらァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!」


 そして俺達のすぐ直上、その顔を鬼の形相に変えたリアンが、こちらを見下ろす。


「許さない、許さない、許さない、許さないッ! よくも、このぼくをォッ!」


 怒りをぶちまけるその首には、折れた剣が残ったまま。

 そして、アハト・アハトの直撃をくらった胸は全く無傷だった。思った通りだ。


「――やはり『想転移構造体ソル・ドライブ・ストラクチャー』か」

「……やっぱり『魔人化イーヴィルライズ』を起こしていたんですね」


 …………。


「「ん?」」


 俺とレンティは互いの顔を見合わせる。


「何だよ、そのいいびるらいずってのは?」

「そるどらいぶすとら……、何です?」


 俺とレンティは互いに疑問を口にする。


「あ~、まぁ、色々あるけど、物理的な攻撃が効かないヤツのことだ」

「え~っと、色々ありますけど、通常の攻撃が効かない存在のことですね」


 そして俺とレンティは互いに短く説明をした。


「「……なるほど」」


 最後に互いにうなずき合って、理解したのは『どうやら同じもの』であること。

 そりゃそうか。魔法が存在するなら、それだってあるよなぁ……。


「ハナコの世界にも魔法があったのですか?」

「あった。ただし、誰もが使えるワケじゃないがな。特別な技術だったよ」


 ダイジャーク帝国やクソ変態改造マニアが使っていた現代科学を越える超技術。

 その根底にある技術体系『想転移科学』こそが魔法と同じものだった。


 そして、俺が戦っていた帝国怪人が、今言った『想転移構造体』だ。

 つまりあそこに浮いてるリアンは、俺が散々戦ってきた怪人そのものってコトだ。


「殺してやる。ブッ殺してやる! その奴隷も、レンティも、どいつもこいつも突き刺して切り裂いて、抉ってバラして引き裂いて引きちぎって、バラバラのバラバラのバラバラにしてやる! あああああああああ、最初からそうしてりゃよかった!」


 空の上でエキサイトしているリアンを、レンティが何とも言えない顔で見上げる。

 その横顔に向けて、俺は言った。


「あいつは、最初からそのつもりだったぜ」

「…………」


「おまえ、本当はわかってたんじゃないのか。それ」

「…………」


 レンティは答えない。

 しかし、その沈黙は俺には肯定にしか思えなかった。


「……夢を見たかったんです。きっと」


 目線を落として、レンティがぽつりと呟く。


「『死喰いの悪魔』に乗っ取られながら、逆に魂を喰い返すなんて、あり得ないとわかってました。あのリアンはきっと、本人の記憶をトレースした擬態。そんなこと、わかっていました。……だけど、わたしは。やっと、彼女が戻ってきてくれたとッ」

「……いいよ、悪かったよ」


 目に涙をにじませるレンティの肩をポンと叩き、俺は一言謝る。そして続ける。


「だけど見事だったよ、さっきのおまえの啖呵。ぶっちゃけ惚れそうだったぜ」

「惚れ……、え!?」


 レンティが弾けるような勢いで顔を上げる。何そのリアクション。

 でもさ、本当にカッコよかったよ、さっきのレンティ。

 こいつが見せた勇ましい姿が、俺の心を奮わせた。だったら、俺も気張るさ。


「ナビコ、ミュージック、スタート!」

『はぁ~い! オープニングテーマ曲、かけちゃいま~す!』


 唐突にオープニングテーマのサビ!


「こ、この曲は……!」


 鳴り響くヒロイックでエキサイティングなビートに、レンティが驚きを見せる。


「キタぜキタぜキタぜ、キタぜェェェェェェェ――――ッ!」


 ギアを上げろ、速度を上げろ、テンションを上げろ、上げに上げて、ブチ上げろ!

 俺は握った右手を左胸に当てて、左手を突き上げる。


「何だよ、おまえェェェェェェェ――――ッ!」


 リアンが俺めがけて襲いかかってくるが、残念だが、遅い。準備は整った。

 勢いよく左手を引いて、勢いに乗せて右腕を突き上げる。


「――いざ、変身リンカネイト!」


 虹色の光が爆裂して、景色全体を染め上げた。


「ウオオオオオォォォォォォ――――ッ!?」


 光に晒され、リアンが絶叫を迸らせる。

 そして、極彩の爆光がやんだのち、リアンが見るのは戦士たる姿に変わった、俺。


「空に輝く蒼月は、天に瞬く星の一つ! 星が照らすは我が往く道!」

「あなたは、あのときの……!?」


 空を指さして口上を叫ぶ俺に、レンティが驚愕の声を寄越す。


「おまえ、誰だよ!?」


 そしてリアンは、あのときのレンティみたいな言い方で誰何する。

 ならば応えてやろう、クソ魔法怪人めが。


「俺は転生したヒーロー、『俺の正義』の味方!」


 煌々たる月を背に、白銀の装甲に身を包んだヒーローが、ポーズをキメる。


「転生仮面イセカイザァァァァァァァァァ――――ッッ!」


 今回は、戦闘用ボイスもハナコちゃん仕様でお送りいたします!

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