マイキャラ小説
@toytoy_tale
プロローグ 【2人の出会い】
放課後、いつも通り事務所へ向かう途中、美波あくあは先日開催されたプリマジ1周年ライブを思い出していた。
「もう1年経ったんだ...それにしても、あっという間だったなぁ...」
プリマジに出会う前の生活が懐かしくなり、ぽつりと呟いた。
1年前の私は、生きる理由を見失っていた。
学校ではクラスメイトと当たり障りのない会話を交わすものの、親友と呼べる人もいないため、退屈な時間を過ごしていた。
家に帰っても、両親は共働きで夜遅くまで家に帰らないから、1人で買い置きの冷凍うどんを食べる毎日。
空っぽの時間だけが進み、自分自身を見失いそうになっていた時、街中でスカウトに声をかけられた。
「プリマジ?」
アイドルのように歌って踊るエンターテイメントらしい。
特徴的なのは、魔法のようにメイクアップやコーデチェンジができるシステムで、オープニングのためにプリマジスタ?を募っているんだとか。
何でも良かった、私に声をかけてくれたこと、必要としてくれている人がいたことが嬉しくて、断る理由がなかった。
デビューしてからは、毎日が楽しかった。
ライブでは、ファンからの声援と会場の熱気を直接浴びることができる。
雑誌やテレビの仕事も増えるにつれ、私を認めてくれる人が沢山いると認識できて、とても嬉しかった。
生活の中心になるほどプリマジが大好きになり、辛いレッスンも、パフォーマンスの向上は成長を実感できるので欠かさなかった。
ただ、最近はプリマジスタとして知名度が上がるにつれ、周りの人が気を遣い、少し距離を感じるようになった。
同年代で気軽にプリマジの話ができる人、ライバルと呼べる人がいないことに寂しさを感じながら活動していた。
考え事をしながら歩いていると、いつの間にか事務所に着いていたていた。
パパラジュクの雑居ビルに入っている小さな事務所で、1年経った今も所属しているプリマジスタが私1人なのは、大人の事情なんだと心に言い聞かせている。
「よし!」
昨日よりも良いプリマジをするぞ!と意気込み、事務所のドアを開ける。
「おはようございます!...あれ?」
いつもならプロデューサーが出迎えてくれるけど、今日は様子が違った。
部屋には誰もいなくて、私の声だけがこだまする。
不審に思いながらもロッカーに向かう途中、ふとテーブルの上の書類が目についた。
見ると、見慣れない名前だけが書かれたプロフィールだった。
「石床...ありる?」
ガチャ‼︎
突如ドアの開く音が響き、肩が跳ねた。
振り返ると、プロデューサーと一緒に少女が立っていた。
小学生くらいだろうか?小柄な体格に綺麗なクリーム色の長い髪、パッチリとした瞼から透き通る瞳を覗かせる少女は、どこか悲しげな表情で、痩せ細った身体で力なく立っていた。
西洋人形を思わせるほど不思議で可憐な姿に見入っていると、プロデューサーから、事務所に所属することになった新人プリマジスタで、名前はありるという紹介を受けた。
「はじめまして、ありるちゃん!私、美波あくあです!よろしくお願いします!」
一緒にプリマジができる仲間が増えることが嬉しくて、笑顔で自己紹介をする。
「...」
ありるは少し怯えた表情を見せ、何も答えなかった。
「緊張しているのかな?これから一緒にプリマジすることになるから、私に何でも聞いてね」
「...」
今度は、まるで何も聞こえないかのように遠くを見つめ、反応しなくなった。
事情があると思い、深入りせずにその場を後にした。
遠くから目をやると、ありるは椅子に座ったまま、何もない空間を見つめている。
別室に移り、プロデューサーから詳しい事情を聞く。
「と、歳上!?わ、私歳上って知らずにタメ口で話しちゃいました!」
小柄だから小学生くらいかと思っていたけど、1つ歳上らしい。
返事がなかったのは失礼なことをして気分を害したせいではないかと血の気が引いた。
「...へえ、そうだったんですね」
父親とのトラブルをきっかけに心を閉ざしたありるは、両親が離婚し、母親に引き取られた後も学校に通えていないらしい。
先日、プロデューサーが街中で見かけてスカウトするも、本人は乗り気でなく、説得するまで苦労したんだとか。
話を聞くと、ありるがプリマジを始める前の私と重なり、何かしてあげたいと思った。
一通り話を聞いた後、部屋に戻ってもありるは相変わらず何もない空間を見つめていた。
静かに深呼吸し、ありるの隣に座って話しかけてみる。
「改めて、私は美波あくあです。歳はありるさんの1個下で、好きな食べ物はうどんです。ありるさんは、好きな食べ物は何ですか?」
「...」
食べ物の話は失敗だったかな?現にこんなに痩せてるし。
「すみません、プロデューサーから事情を聞きました。私も、毎日が楽しくなくて、いったい何のために生きてるんだろうって思っていた時期があったんです。でも、プリマジに出会ってからは、毎日がキラキラ輝いて見えるくらい楽しくなりました。ファンの人達に支えられて、これが私の居場所なんだなーって思えたんです」
ありるを元気づける意図はなく、ただ自分のことを知ってもらいたくて話していた。
「居場所?」
ありるはこちらを向き、細い喉から声を絞り出した。
それが、初めて聞いた彼女の声だった。
「はい!」
初めて声が聞けたことが嬉しくて、つい声を張り上げてしまった。
ありるは驚き、少し後ずさる。
「驚かせちゃってごめんなさい...そう、居場所です。私がいて、プロデューサーがいて、ファンがいて、みんなで作り上げるプリマジは私の大切な宝物です」
ありるの様子を伺いながら、ゆっくりと話を進める。
「そうだ!私のライブ、見てみませんか?」
言葉よりも、実際に見てもらった方が早いと考え、笑顔で手を差し伸べる。
ありるは少し戸惑っていたけど、細い手で握り返してくれた。
移動中は私の生い立ちと、プリマジを始めてからの出来事を話した。
ありるは言葉を発することはなかったものの、時折私の目を見て、ちゃんと聞いてくれていた。
大好きなプリマジの話ができたのは久しぶりで、プリズムストーンに着くまでが一瞬に感じた。
ライブ準備のために別れて、バックヤードで祈る。
「ありるさんにプリマジの素晴らしさ、楽しさが伝わりますように」
他人のためのプリマジは初めてで、意識すると緊張して手のひらが汗ばんだ。
私のパフォーマンスでは心を動かすことができないんじゃないか?そんなことが一瞬脳裏をよぎった。
掛け声と共にせりから飛び出し、コーレスで観客席に目をやると、最前列のありると目が合った。
瞬きを忘れてこちらを見つめる瞳は、キラキラと輝いていた。
その姿を見た瞬間、背中に羽が生えたように全身が軽くなった。
いつもと同じコーデ、同じ曲のはずなのに、今までで1番良いパフォーマンスができた気がする。
歌い終えると、肩で息をして残響の余韻を感じていた。
誰かのために歌うことがこんなに気持ちいいなんて...いつまでも興奮が収まらなかった。
ライブ後に、ありるが楽屋にやって来た。
「ありるさん、どうでしたか?」
「...よかった」
「ありがとうございます!ありるさんに伝わるように一所懸命歌いました」
「りる」
「ん?何ですか?」
「りるでいい、さんも要らない」
「...はい!りるちゃん!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
静まり返っていた室内で、ソファーに腰掛けながら今日のステージで着るコーデを選んでいると。
「や!」
聴き慣れた叫び声がして、窓から外を眺める。
学校の制服を着て、静止を振り切ろうと暴れている少女の姿が見えた。
「...ふぅ」
無意識に口角が上がっていたので、昂る気持ちを抑えるために深呼吸をした。
持っていたコーデブックを机に置き、お菓子を鞄から取り出しドアを開けた。
「おはようございます!」
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