第4章 -4-

宏の最終ログインが3日以上前だと知った俺は、慌ててログアウトして宏に電話した。

(宏・・頼む・・出てくれ・・・・)


10回以上コール音が鳴った頃、

『一樹くん!!』

スマホから聞こえてきたのは麻衣の声だった。


「麻衣か! 宏は! 無事か!?」

『今大変なの!宏くんが・・』

麻衣の声の向うからは宏の名前を叫ぶ声が聞こえてきた。



───宏の部屋。


あの電話で麻衣から場所を聞き出し、カラオケルームに駆けつけた。

茜と慎太郎も駆けつけてきた。


将棋と囲碁のメンバーにも手伝ってもらってタクシーに分乗して、どうにか宏宅まで辿り着いた。


街中はパニック状態になっていた。

reViveの報復で大勢の人が自ら命を絶つ行動を取ったのだろう。

あちこちから救急車や消防車のサイレンが鳴り響いていた。

病院もてんやわんやな状態だったので、ひとまず自宅に帰る事にしたのだった。


『ある程度、吐かせたから多分大丈夫だとは思うけど・・・』

将棋サークルの先輩が迅速に対処してくれたようだ。


俺たちはreViveの事を簡単に説明して、あとの事は引き受けた。


6帖部屋の真ん中に布団がひかれ宏が寝息を立てている。

その周りに俺たちは座って見守っていた。

親御さんたちは心配そうに部屋の様子を見にきたりしていた。


「ん・・ん~・・・・あれ~?ここ・・・・俺の部屋じゃん」


「宏!」「宏くん!!」「目覚めたでござるか・・」「良かったー」


「お前ら、なんで?? っあっつーー・・コブできてんじゃん」

後頭部に手を当てて痛がっている。


「早く!ゴーグル!」


俺たちは兎にも角にも、宏に無理矢理ゴーグルを装着してログインさせた。


「うえっ・・気持ち悪っ・・・・吐く・・・吐くって・・・・」


部屋にあったゴミ箱に済ませて、部屋中酸っぱい臭いに包まれたが、ひとまずこれで大丈夫なはずだ...。


俺たちは宏が落ち着くのを待って、今後の事を話し合った。



「とにかく、念のため毎日ログインは欠かさないようにしよう。」

「「賛成ー」」


空蝉町あっちでは、今までどおり普通に振る舞っていればいいよね。」

「そだな。変に目立って『マスター』に睨まれたら何をされるか解らない・・。」

「Nobu氏たちとはどうするでござるか?」

「今までどおり普通に接するのが良いんじゃないか?」

「・・ごめ、ちょっと・・トイレ・・・・」

「AIDたちと戦争みたくなったりしないよね・・・ぁ、わたし付き添うよ。まだフラ付いてるし」

「(サンキュ)」

「『マスター』ってヤツは、やろうと思えばreViveにアクセスした事のある人間全てを死なせる事も出来るのかもしれないけど・・それやっちゃったら、サーバーの電源落として終了だもんなぁ。」

「きっと運営の人たちが何とかしてくれるよー。それまで下手に動かないようにしよ?」

「Ken先生なら何か知ってるかも?色々詳しかったから。」

「そうでござるな・・。今日はもう遅いし、明日、皆で会いにいってみようよ。何ならボクの部屋に集合して一緒にダイブしても良いお。」

「あ!それ良いかも!何が起こるか解らないからな。一緒に居たほうが安心だ。」

「慎太郎の部屋?初めてかも~♪」


宏たちがトイレから戻るのを待って、明日の事を確認し合い、解散した。



───翌日、慎太郎の部屋。


約束どおり、慎太郎の部屋に集合した。

「どうぞ~。昨日のうちにちょっと片づけておいたから、皆座れるお。」


テーブルも奇麗に片づけられ、リビングは広々していた。


「念のため、刃物やペン類とか鋭い武器になりそうなモノは片づけておいたでござる。」


ドヤ顔をキメる慎太郎に向かって、グッと親指を立てて見せた。


皆でリビングに輪を描くように座ってゴーグルを準備する。

何とも言えない緊張感がある...。


「ぁ、あたし、未だに手足動いちゃうんだよね。蹴ったり叩いたりしちゃったらゴメンね。(テヘペロ)」

なんとなく緊張した空気になっていたその場を和ませようと、茜なりの配慮だろうか。

皆の雰囲気が和らいだ気がする。


「そんじゃ、行きますか。」

「おー」「よし」「はーい」「うん」


皆で一斉にログインした。



───いつも集まっていた公園。


周辺を歩くAIDたちは以前と変わらず、俺たちを見ても別段、避けるワケでも敵意を向けるワケでもない。


程なくして、NobuとYui、それにKen先生も現れた。

あらかじめ今日この場所に集まろうとメッセージを送っておいたのだ。


『みんな、無事で良かった! 宏くん、3日以上ログインしてなかったから心配していたんだ。』

Ken先生は開口一番、宏の事を気遣ってくれている。


『昨日、何があったのか聞きました。』

『うん。「マスター」の事。昨日はボクたち何も知らなくて・・ごめんなさい。』


Ken先生は前からだったが、YuiもNobuも人間味が増してきたような気がする。

Arisaのように進化し続けているのだろうか・・。


『「マスター」というのが何者なのか我々にも解らないが、こんなのは許される事では無い!』

『AIDならこの町の何処かにいるかもしれないから、探し出して止めさせます!』

『ボクたちはこれ以上友達を失いたくないから。「マスター」を止めようって話し合ってきたんです。学園の友人たちも協力してくれるって。』


「みんな・・・」

「俺たちも出来る限りの事はやろうと思う。」

「だな。なんだか、やられっぱなしじゃ気持ちが悪い。」

「宏が気持ち悪いのは二日酔いじゃなくって?(笑)」

茜が宏を茶化しながらもYuiたちと握手して共闘の意を伝えている。


昨夜は『出来るだけ目立たないようにしよう』と言い合ったばかりだったけど、その場の勢いもあって「マスター」を探し出す流れになってしまった。


Arisaとは、あそこまで通じ合えたんだ。

「マスター」とも直接話す事が出来たら、何とかできるんじゃないか・・。

もしかしたら、それは俺にしか出来ない事なのかもしれない。

などと、物語のヒーローじみた事を、ちょっとだけ考えて自分を鼓舞していた。

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