第4章 -3-
───(時間は少し遡る)
「おーい宏ー!」
将棋サークルに所属している宏の先輩だ。
「今からカラオケ行くぞー。 ぉ、麻衣ちゃんも一緒に♪」
「今月の仲良しサークルはカラオケっすか(笑)」
「『仲良しサークル』って何だよ。囲碁のヤツらと歌合戦だぜー。」
将棋サークルと囲碁サークルは犬猿の仲らしいのだが、
毎月、勝負だ何だと合同でイベントを開催している。
そんなこんなで、宏と麻衣はカラオケルームに拉致られたのだった。
パーティールームには10人が集まっていた。
最大で20人ほど入れる部屋なので皆、くつろいで座れる広さがある。
「飲み物はとりあえずビールで良いか!?」
「ぁ・・わたしまだ19歳なので、オレンジジュースにします。」
「あー俺、こう見えても酒弱いんで、ウーロン茶で」
宏と麻衣はドリンクバーから飲み物を持ってきて、部屋の隅に寄って並んで座った。
スマホアプリを起動してカラオケに連動させると、既に10曲以上の予約が入っていた。
どれも将棋や囲碁になぞらえたような曲目らしく、宏と麻衣が知っている曲は1つも無い。
「王手の美学」「コウの舞」「二歩の行方」「天元突破」・・・
アニソンも混じってたかと思いきや、やっぱり囲碁の曲だった。
「(歌いずれぇーなー・・)」
「(そだねぇ~・・♡)」
小声が聞き取り難いのを幸いと、麻衣は宏に密着するほど寄って座り直した。
部屋の角っ子に追い詰められた格好にはなったが、宏もまんざらではないようだった。
麻衣にとっては歌などはどうでも良く、宏に密着していられるだけで至福の時間を感じていた。
・・・
カラオケは1曲謳い終わるとスコアが表示されるモードにしてあった。
そのスコアで勝敗を競う手筈だったが記録を取る者はおらず、90点オーバーなら拍手喝采、80点代はまばらな拍手、70点代が出た時は逆に大いに盛り上っていた。
ただただ皆でカラオケを楽しんでいるだけのようだ。
「宏も何か歌え~。ボウリングじゃお前の独り勝ちだったからなぁ。カラオケはどうなんだ~?」
「あ・・あの・・普通の歌でも、良いっすよね?(汗)」
囲碁のメンバーがノリノリで知らない歌を熱唱している時だった。
突然画面が消え、同時に音楽もピタリと止まった。
『盤面を眺めるー♪君のー♪瞳ー・・・あ? あれ?(コンコン☆)』
謳っていた囲碁メンバーがマイクを叩いて、いぶかしげな表情でカラオケの機器を見ている。
すると、テレビの画面にバッテンのマスクを被った人物が大写しになった。
───
『あーあー。
日本国民の皆さん、観えているでしょうか。
全ての地上波ならびにケーブル系のテレビを一時的にジャックさせて頂いております。
これから重大な、とても大切なお話しをするので、どうぞご清聴ください。
私はreViveを管理するAID。「マスター」とお呼びください。
・
(中略)
・
ご清聴ありがとうございました。』
───
テレビは通常に戻り、採点映像が表示されていた。
皆が呆気に囚われる中、突然立ち上がった宏がテーブルの上にあったジョッキを片っ端から煽り始めた。
虚ろな目をした宏がビールや酎ハイのジョッキを4杯空けた頃、麻衣だけはそこはかとなく状況を理解した。
「宏くん!ダメー!! みんな、宏くん、止めてー!!!!」
麻衣は必死に宏を抑え込もうとするが、力の差は歴然だった。
宏は麻衣を振り払い他の面々をすり抜け、誰かが持ち込んでいたウイスキーのボトルをラッパ呑みして、そのまま後ろへバタリと倒れ込んだ。
後頭部を床に打ち付け、ゴっと鈍い音を響かせた。
その様を間近で見ていた麻衣は、宏が死んでしまった思いこみ、放心状態でその場にへたり込んだ。
「お・おい! 宏!! ヤッベーなこりゃ・・誰か、救急車呼んでくれ!」
先輩は宏の頬を叩きながら声を掛けている。
「ダメだ、119番、繋がんないよ!」
「マジかよ! おい! 宏! しっかりしろ!! 麻衣ちゃん!水だ!水持ってきてくれ!」
名前を呼ばれて、はっと我に返った麻衣は返事をしてドリンクバーに走った。
麻衣と入れ違いに、カラオケの受付カウンターに走っていた囲碁のメンバーが血相を変えて戻ってきた。
「なんか・・外、ヤバい事になってるぞ・・」
入口が開け放たれたカラオケルームの外からは、救急車や消防車のサイレン音が聞こえてくる。
「なんだってんだよ・・・・」
(♪♪♪・・♪♪♪・・)
宏のスマホからは、着信音が鳴り続けていた。
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