第3章 -2-
Arisaたちと交流するようになってから、どのくらい経っただろうか。
最近は集まれるメンバーでテキトーに集まって、空蝉町の遊戯施設で遊んだり、喫茶店などで談笑したり。
普段は現実(リアル)で会えない遠隔地に住む友人とオンラインで会うような、そんな感覚になっていた。
彼らがAIだという事を忘れてしまうほどに。
───今日は珍しく他のメンバーは用事があるらしく散り散りにログアウトして、残ったのはArisaと俺だけだった。
『二人きり』なのを凄く意識してしまう自分がいる。
初めて出会った時ぶりだ。
話題に詰まるあたり、我ながら情けない...。
学校生活の事も散々聞いたし、よく観ているテレビの話、こっちのドラマの話、味覚の話やペットの話・・・全部話し尽くして、もう話題が思いつかない...。
「そ・そういえばさ、前に変な連中に絡まれた時の瞬間移動とかって、いつでも出来りするの?」
イケてない話題だなーと痛感しながらも絞り出してみた。
『うん...。実は、皆にはナイショにしてたんだけど、あの日くらいから色々と超能力?みたいなのが使えるっぽいんですよぉ。そうだ!一樹さん、一緒に試してみませんか?』
「お?おう。どんな超能力なんだ??」
思いがけない展開になってきた。
『えっとですねぇ・・・「テレポテーション」はあの時の瞬間移動ですよねぇ・・「フレサーチ」っていうのが、フレンド登録した人がどこにいるか見つけられるんです。あれ?今、麻衣さんはメイド喫茶に居るみたいですよぉ。』
「あー、それなら俺たちも使えるけど、他のAIDたちは使えないの?」
『そうですねぇ・・前はこんな事出来なかったので多分...。』
自分のフレンドリストを開いていると、Arisaが覗き込んできた。
近い・・。てか俺のメニュー、見えてるのか?
「ホントだ。麻衣、オンラインになってる。居場所までは見れないや。凄いな・・GPSみたいじゃん。」
Arisaの顔が近すぎるせいか、鼓動が高鳴っていく。
メニューを閉じて、ちょっとだけ離れた。
『あとは~「コール」っていうのがありますねぇ。呼ぶ?呼び寄せる・・かな?』
そう言って、小走りに遠ざかっていくArisa。
30mくらい離れたところで手を振っている。
能力を発動するという合図だろうか。
俺も手を振り返・・・一瞬目の前が真っ暗になった・・・
次の瞬間、俺はArisaの隣に立っていた。
「なるほど!呼び寄せる事が出来るんだな。すげー・・瞬間移動の変化版だな。よし、俺、ちょっと隠れるから、俺の姿が見えなくなったら、5つ数えて呼び寄せてみてくれ。」
『はいです。』
さっきから意識し過ぎてしまって、ホント、どうしたんだろ。
ちょっとの間でも、離れて落ち着こう。
とりあえず、Arisaの視線に入らないように公園のトイレの陰に隠れてみた。
5..4..3..2...
また目の前が真っ暗になった次の瞬間、Arisaと密着する状態になっていた。
「あれー!?」
慌てて距離を取る。
『ふっふっふっ、逃がしませんよぉ~(ドヤ顔)』
「は・ははは(汗)」
『他にはですねぇ~・・「ペアリンク」っていうのと「フライ」あ、これは空飛べちゃいそうですね!』
そう言ってArisaは俺の手を握って目を瞑る。
ゆっくりと浮き上がる。
「ぅお!浮かんだぞ!Arisaaaaaaーー・・」
足元に視線を移した瞬間、バヒューーン!と凄い勢いで空高く舞い上がった。
一気に雲の上に出た。
沈みかけていた夕日が遠くの空を紫からオレンジのグラデーションに染めていて、とても幻想的な光景が広がっている。
「っすっげぇーーー・・・」
『奇麗ですねぇ・・・』
二人、しばらく無言のまま夕日を眺めていた。
ハッと我に返って照れ隠しに話題を切り出した。
「ぁ、もう1つ、ペアリンクってのは、どんな能力なんだ?」
『えっとですねぇ・・フレンドの1人とだけ、普通のフレンド登録よりも強い繋がりになるみたいです。』
「ふ~ん・・フレンド登録の強化版?」
『一樹さん、ペアリンク、してみます?』
じっとこちらを見つめてくるArisa。
「ぉ・ぉぅ。してみ・・」
俺が返事を言い終える前に、Arisaは目を閉じて顔を近づけてきた・・
そして、唇にフワっとした確かな感触を感じた。
これって・・・キ・キス!?
どれだけの間、唇を重ねていたのだろう。
ほんの一瞬だったのかもしれないが、唇には確かな感覚があった。
『ペアリンク、完了したよ♪』
そう言って至近距離から笑いかけてくるArisaの表情が心なしか、より人間っぽくなった気がする。
ペアリンクの影響なのかどうかは解らない。
頭の中は真っ白で何も考えられない。
いつの間にか日は沈み、空には無数の星が輝いていた。
俺たちはゆっくりと地上に降下した。
降り立った場所は、グランピングした山の上だった。
ネオンが輝きだした空蝉町が一望できた。
(もうこんな時間になってたんですね。そろそろ帰らなきゃですね?)
Arisaの声が遠くに聴こえた気がする。
『一樹さん? 大丈夫ですか?』
ボーっとしている俺の顔を覗き込むArisa。
「(ハッ)ご、ごめん、大丈・・夫。うん。」
いろんな想いがグルグルと頭の中を駆け巡り思考が安定しない。
だが、一つだけ確かな気持ちがあった。
俺は、Arisaが好きだ。
そんな俺の気持ちが伝わったのか、Arisaは優しく微笑むとクルリと回って手を振った。
『じゃ、また明日ね!』
無邪気な彼女の笑顔は、いつもより頬が紅くなっているように見えた。
手を振りながら走り去ろうとした彼女の足元に、
あの空き缶が転がっているのが見えた・・・。
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