第2章 -6-
和気あいあいと、それぞれの作業をこなしていった。
テントが完成する頃、焚火用の薪も集まったので、
一旦、お昼休憩を挟む事にした。
仮想世界の中では、お腹までは満たせないので、
各自、
早速、火を熾して、気分だけでも味わおうとコーヒー・紅茶を淹れて、焚火を囲んだ。
「クラフト系のゲームみたいで、こういうのも良いな~。」
「みんなで家建てたりとか、やったよねぇ~。」
「それにしても、この世界の物理演算エンジンは優れものでござるなぁ・・」
慎太郎が石ころでお手玉をしたり、カチカチとぶつけてみたりしている。
『違いが解るのかい? この仮想世界用に新たに開発されたエンジンで、全てのオブジェクトを素材からデータ化してあるんだ。だからほら、布で出来た服は自然になびくし、革製品の硬さもちゃんと再現されている。』
「Ken先生って、ホントなんでも知ってるんだねぇ。」
そんな話をしているうちに、日は傾いていた。
『みんな、きてみてぇ~~』
広場の端っこかでArisaが皆を呼んでいる。
行ってみると、夕日に染まる空蝉町が広がっていた。
うわぁ~と歓声が上がる。
「すごーーい!」「いいね!最っ高ー!!」
やがて日は沈み、空には星が輝きだす。
「現実じゃ、なかなか見れない景色だねぇー・・」
そんな心地よい静寂を壊すように、車のエンジン音が山の下の方から響いてきた。
見下ろすと、峠道を駆けあがってくる車が見えた。
ヘッドライトが蛇行する。かなり荒い運転のようだ。
やがて車は広場に到着し、2人の男性が降りてきた。
「お? 人いんじゃん。」
「こぉんばんわ~、こんな山ん中で何やってんの?」
「ちょまーてって。山奥でAIDの集団に遭遇しちゃいましたぁ~。こんな所で何しちゃっていたのか、凸っちゃいまっス!ギャハ!」
騒がしく自撮りしながら迫ってくる2人。俺たちの事もAIDだと思っているらしい。
そういえば他のアバターと遭遇する事って、あんまり無かったなぁ・・・
せっかく会えたのに、ちょっと苦手な部類だなぁ・・・
なんて事を考えていると、茜が皆に伝わるくらいの小声で警戒を促してくれた。
(あの人たち、迷惑系の動画配信者だよ。AIDにヒドい事してる動画を観た事がある。関わらない方が良いと思う...。)
それを聞いたKen先生が前に出た。
『やあ、あなた達はアバターですね。私たちはグランピングを楽しんでいましたが、そろそろ引き上げるところなんです。』
「えー!!AIDがグランピングとかすんの!?すげぇー!!混ぜてもらおうぜ~」
「どぉも~!毎度お馴染みワイルドボーイズ、シンですっ!」「ジローどぅえ~っス!」
「山のてっぺんまで来てみたら、思いがけず出会っちゃいましたぁ~的な?」
「さっそく仲良くしてみたいと思いまっス!」
『さあ皆さん、帰り支度をしてください。テントや焚火はそのままで結構ですので、マイクロバスの方へ・・』
Ken先生が動画配信者を意に介さず、俺たちを逃がそうと誘導してくれている。
俺たちは顔を見合わせて軽く頷き、AIDっぽくマイクロバスに向かおうとした。
もちろんArisaたちをガードしつつ。
「まってまってまぁーって、まだこれからだから。」
シンと名乗ったヤツがマイクロバスの前に立ちはだかった。
・・なにがこれからなのか知らないが、ロクな事じゃないってことは想像が付く...。
『そこを通して頂けますか? 彼らを家まで送り届けなくてなりませんので。』
Ken先生が大人な対応で間に入ってくれている。とても頼もしい。
それに比べて、俺たちは何も出来ずにいるのが歯がゆい・・。
(皆、わたしの周りに集まって。何とか・・出来そうな気がする。)
Arisaが小声で皆に告げる。
(先生も、早くっ!)
「ん?カワイ子ちゃん、どったの? 『早くっ』つって、も」
シンとかいうヤツが何か喋っていたが、突然目の前が真っ暗闇になった。
強制シャットダウンか?
「え?」「あれれ?」『なに?なに?』「真っ暗になったぞ?」『これは・・』
皆の声が聞こえる。
シャットダウンされたわけじゃない。
何度か瞬きしていると突然、目の前に公園の景色が広がった。
「何が・・起こった?」
周りを見渡すと、最初に集合した公園に全員揃っていた。
皆何が起こったのか解らずにキョロキョロしている。
「Arisa?」
Arisaだけが、安堵の表情を浮かべていた。
「もしかして、瞬間移動?」
『はい!上手く出来ました(ニコ)』
「え・・・こういうの、出来ないんじゃなかったっけ?」
『その・・はずですがね。Arisaくん、なぜキミがこんな事を?』
『う~~ん・・何て言えば良いのか解りませんが、火事場の馬鹿力っていうんでしょうか・・出来ちゃいました(テヘ)』
何はともあれ、助かったらしい。
『先生ごめん、マイクロバスは一緒に持ってこれなかったみたい...。』
『いいんですよ。後で友人に手伝ってもらって回収しに行ってきますから。それよりも・・』
Ken先生は腑に落ちないといった表情で考え込んでいる。
「ごめんね~、変な人間のせいで、せっかくのイベントが・・」
茜は申し訳なさそうにYuiやNobuに手を合わせていた。
『大丈夫ですよ。茜さんたちが悪いわけじゃないって、わかってますし。』
『そうですよ。今日も十分楽しめました。また一緒に遊んでください!』
ひとしきり、反省会のようにそれぞれの想いを言い合ったあと、
絶対絶対また集まろうと約束して解散した。
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