第3話1-3

私の名前はクロエ・プロミネンス

プロミネンス騎士王国第二王女

父は剣帝で国王、母は王国始まって以来初の女性魔法騎士団長にして王妃。

姉と兄も親の血を色濃く受け継いでおり、私が一教わったことを必死に身につけている間にすでに誰かを指導していたりと羨ましいほどに才能に溢れた「天才」。

対して私は「期待はずれ」。

ろくに魔力は扱えず剣術もできない。

悔しかった。ただただ見返したい。

兄達に挑み毎日のように負けた。

それでも「絶対にいつか!必ず!」

気がつけば10年が経ち、魔力もある程度なら操作できるようになり、王宮剣術も身につけた。

そして運命の入学試験、魔力を全力で解放しなかったがそれでも突破してA組に入ることができた。やっとここから私の人生は……しかし現実は


「……ロエさん、クロエさん」


「わ、私は負けてなーい!……あれ?先生」


「つぅぅ!」


顎を抑え目の端に涙を溜める先生。

頭がじんじんする。

起き上がった時に当たっちゃったのか。


「ご、ごめんなさい先生」


「このくらいライリー君との手合わせに比べれば全然大丈夫ですから気にしないでください。それよりも良かったー。うなされていたから心配しましたよ」


安心した様子の先生はベッド脇の椅子に腰掛ける。


「あれ?ベッド?私は確か闘技場でーー」


「一時的に記憶が混乱しているようですね。順を追って説明しますね」


先生は姿勢を正し説明を始める。

さすがは教師。伝えるのが仕事なだけあって頭にスッと説明が入ってくる。

しかし先生視点からの心情や話しが脱線して先生の過去話で長かったりと残念な点は見られた。

総じて長かったので要約すると……

決闘中に魔力欠乏症で意識を失った私をライリーが医務室まで運んでベッドに寝かせてくれた。その後しばらくしてレン先生が医務室へやってくると看病を任せて日課であるトレーニングをしに行ったとのこと。


先生は長い説明を終えて最後に


「大丈夫?」


と一言聞いてきた。


何に対しての大丈夫なのか?

おそらく私が気落ちしていないかに対してか。

気落ち……不思議としていない。いつもならものすごく落ち込んでいるのに今日は妙に清々しい。


「いつもなら気落ちというか気負っていてもおかしくないんですけど不思議と清々しいです」


「そう」


私の答えを聞いた先生は微笑む。

温かい。先生の笑顔を見ているとそう感じる。それにしてもーー


「先生……口の端にお菓子の粉がついてますよ」


私は起きた時から気になっていたことをどうしても我慢できず指摘してしまった。


「ええ!そこの鏡で見た時はちゃんときれいに……て違う違う!クロエさんのことはすごく心配だったんだけどさっきの二人の決闘の時にかなり魔力を使っちゃったからお腹すいちゃって、

つい」


恥ずかしそうに頬を染め下を向いてモジモジする先生。

なんだろう胸をくすぐられるこの気持ち。

なんか可愛いこの人。


「て、そんなことはどうでも良い!」

「ど、どうでも……」

「先生!ライリー!彼について聞きたいことが」

「二人とももう少し先生に興味を……先生に答えられることなら答えますよ。なんですか?」

「彼はあんなに強いのになぜE組なのですか?魔力操作も完璧でしたそれなのになぜですか?」


私の質問に何と言って良いかとしばらく迷っていた先生は慎重に言葉を選びながら喋り出す。


「それは今の人族社会の評価基準が魔力という項目、特に魔力量に焦点を当てて評価されるからです。それに校長の「貴族身分」と「魔力量」を重要視するという意向も関わっています。これらの評価基準が覆らない限りはーー」


それからしばらくして体が動けるようになった私は先生にライリーの居場所を聞き校舎裏へと走った。


「だから、実力と実績を示せる剣帝大会で優勝するしか方法がありません。どれだけ理不尽な目に遭おうと折れずに自分を信じて鍛え続ける彼と一緒ならクロエさんも学ぶことが大いにあると思いますよ」


と先生は言っていた。


「9998!9999!一万!……ふぅ、次はランニング40km」


校舎裏に着くと先生が言っていた通りライリーは一人でトレーニングしていた。

足元には流れた汗で水たまりができていた。

私もかなりトレーニングをする方だが汗で水溜りができるほどのトレーニングはやったことがない。


「負けてられない」


ライリーの姿に負けず嫌いな私の心に火が灯る。


「あれ?クロエさんもう体はいいの?」


汗をタオルで拭うライリー。

汗の割に息は切らしておらず涼しい顔で佇む。


「ほら!走るんでしょ!決闘では負けたけどランニングでは負けないからね!」

「え、ちょ、どういうこと?」

「だから、これから走るんでしょ!私も一緒に走るから勝負しなさいって言ってんの!絶対勝つ!」

「ええっと、何だかよくわからないけど勝負を挑まれた以上は僕も絶対に負けない!」

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