学園最弱の僕。成り上がる

@ss9

第1話1-1

自身の生命エネルギーである魔力をブレスレッド型魔道具「神器」に流し込み武器化。

人類の敵である魔物と戦う存在「魔法騎士」


僕、ライリー(14)は魔法騎士養成機関「プロミネンス騎士王国騎士学園」にて魔法騎士を目指している。



◇◇◇◇◇



4月8日全校生徒600人によって行われた入学式から1週間……


「クラス降格により本日付けでA組からE組の所属となりました。プロミネンス騎士王国第二王女クロエ・プロミネンスさんです。クロエさん簡単な自己紹介をお願いします」


一年E組担任レン・ペンドラゴンに促され真紅の長髪を揺らし一人の女生徒が前に出る。


「よろしく」


白磁の女神像を思わせるしなやかな腕を豊満な胸を強調するように組み、氷のように冷たい視線を僕に向けて短く話す。


「見ての通りE組はライリー君一人です。A組のように50人もいないので活気はありませんが授業には集中しやすいと思います。それではライリーくん。あなたもあいさつを」


20畳という狭い教室の真ん中にポツンと座る僕は先生の指示に従い席を……


「ライリー君?」


立たない。

そんな僕を見てレン先生は首を傾げる。


「具合でも悪いんですか?」


心配そうな表情を浮かべた先生は僕の前へとやってきて肩へ手を伸ばす。


「ええ!僕の手がライリー君をすり抜けた!」


と驚愕する先生。

僕の頭や顔など他の部分も触ろうとして透過する。

そんな先生にーー


「はっはっは!引っかかりましたね!僕はここです!」


僕は自身の魔力により作り出した虚像を解除し、へばりついている天井から声をかける。

先生とクロエさん二人の視線が僕に集まるのを背中で感じる。


「クロエさん!ようこそE組へ!僕は一年E組のライリーです!2年連続で一年生をしてます!クラスのことでわからないことがっ、て腕が!力が入らないいい!」


朝のホームルームが始まる30分前から天井の梁(はり)にへばりついていた僕。

案外そこまできつくないとタカを括っていたが、

突如として腕は悲鳴を上げ限界が訪れる。

ずり落ちていく体。


「くおー!」


なんとか踏ん張る。が、


「あっ……ぬおお!」


健闘虚しく教卓へ落下。

音を立てて木製の教卓が砕け散る。


「いったー!」


痛むお尻をさする僕は冷たい視線を感じ顔を上げる。


「あっ、よろしく」


冷たい視線はクロエさんのものだった。

恥ずかしいところを見られた僕はとりあえず苦笑いを浮かべてごまかす。


「……ふん!」


しばらく僕を睨みつけたクロエさんは鼻息一つ。その後自身の席へと歩いて行った。


「……なにか気に触るようなことしたかな?」


クラスに来てから終始不機嫌なクロエさん。

うーむ、もっと派手な歓迎の方が良かったか?

教室の灯りをいきなり暗くしてから目の前に現れるとかの方が良かったかな?


「ライリー君」


教卓を下敷きにしたまま考え込む僕に先生から声がかかる。

先生の声に顔を上げるとそこにはさっきまでビビり散らしていた先生がとても迫力のある笑顔を浮かべて立っていた。


「ホームルームの後にお話があります。君だけ!にね。しっかりと残ってくださいね」


戦の神「レキウス」が弟子であり息子でもある創造神「アーク」を本気で怒る時に見せたとされる「怒」と「慈」に満ちた笑顔を浮かべて怒ったとされる逸話がある。

そんな逸話に登場する戦の神レキウスの宗教画と被る先生の笑顔はシンプルにとっても怖いです。


「返事はどうしました?」


優しげな笑顔の裏にある鬼の顔が時々表に出てくきてこんにちは。


「は、はい!」


逆らってはならない。

飛び起き、ビシッ!と敬礼。


「よろしい。いい返事です。それでは時間が迫っているので3秒以内に席へで戻ってください。3!」


先生のカウントダウンと同時にスタート。

ゴールである席へと全力ダッシュ。


「2!1!……はい。それではホームルームを再開します」


はぁはぁ……と息を切らしつついつものようにホームルームを進めていく先生を見てホッと一安心する僕。


「お気楽な奴は楽しそうでいいわね」


隣の席に座るクロエさんから微かにそんな声が聞こえてきた。


は?急に何?

聞こえてきた声にムッとした僕は隣へ顔を向ける。


また見下した顔でもしてるのかと思ったが、彼女の浮かべていた顔は思い詰めた苦しそうな表情だった。


「クロエさんも知っていると思いますが学園最底辺のE組は全教科自習です。各自で実技、座学を行ってください」


エンドのE組

プロミネンス騎士王国中から将来有望な魔法騎士候補たちが集まるこの学園では「魔力の才能はあるが使いこなせない」「実力はあるが魔力値が低い」などの理由でクラス降格させられ続けた末にたどり着く学園最底辺のクラスがある。

それがE組。


このクラスに落ちた生徒は基本的に進級できず、目に見張るほどの成績と実力を見せつけない限りは2度の留年を果て退学となる。


そして校長の方針により優秀なA組は手厚く、それより下のクラスからは徐々に授業の「質」が落ちていき、E組は全教科自習となっている。


「それから最後に剣帝選抜大会についてです。これまでは学園序列上位6名を学園代表として本戦に選出してきましたが今年度からは国王陛下である理事長の意向もあり変更となります」


剣帝大会……学生騎士世界No. 1を決める大会。

人族国家、亜人国家(2国)、魔族国家が共同開催している大会。

それぞれの国の騎士学校で予選を行い上位者6名が本選に出場し剣帝の座を争う。

その中で人族国家代表であるプロミネンス騎士学校は昨年まで校長の意向もありA組の生徒しか予選に参加できなかった。


「まず予選の方式は昨年と変わらず予選実行委員がランダムで決めた相手と対戦。勝ち星でランキングを決めます。そのランキング上位者6名が本選出場権を獲得。ここまでは変わりません。変更点は対象クラスが全クラスになりました。つまり希望する者なら誰でも参加可能です」


剣帝大会の結果は内申点に大きく影響する。

おそらくすでに職員会議で今期の留年が既に確定している僕が唯一E組を抜け出し卒業をもぎ取る為の最初で最後のチャンスの場。

しかも本戦で優勝すれば即卒業が確定。

しかしどこかで1回でも負ければそこで終わる。


「出場する方はお渡しした用紙に名前を記入して1週間後までに提出してください」


僕は早速用紙に名前を記入し先生に渡す。


「確かに受け取りました。ライリーくん。悔いだけは残さないようにね」


「はい!」


それから席に戻るために振り返ると


「どいて」


クロエさんが用紙を持って立っていた。


「あ、ごめん」


僕は横にずれる。

その脇をクロエさんが通り先生に用紙を渡して席に戻る。

その後を追い僕も席に着く。


「クロエさんも剣帝大会の予選に出るんだね。同じ志の人がクラスにいるって思うとなんだかとても嬉しいよ!もし予選で戦うことになっても恨みっこなしね!全力で戦おう!」


嬉しさからクロエさんに話しかける。


「お遊戯じゃないのよ……」


クロエさんの眉がピクッと動き、怒りを含んだ声が返ってくる。


「そんなお遊び気分で剣帝になれるわけないじゃない!」


クロエさんは勢いよく椅子から立ち上がり僕に詰め寄る。


「お遊び気分って、一応本気なん」

「一応……笑わせないで!そんな覚悟でなれるわけないじゃない!でも、私は違う。絶対に剣帝になって……」


まくし立てるクロエさんは手を握りしめ、悔しさで滲む目を僕に向けてくる。


そんなクロエさんの反応を見た僕は彼女にまつわる噂を思い出す。


剣帝である国王と魔法騎士団長の王妃のもとに生まれた第二王女。

優秀な両親の子供として王国史始まって以来の圧倒的魔力量に周りの期待は高かったーーが、周りの期待に反して強大すぎる魔力を操ることができず、暴発ばかり……周りからの期待は消え失せ、ついた呼び名は「暴発王女」


「やっぱり噂は……」


うかつにも微かに声に出してしまう僕。


「噂が何だって?」


僕の声はクロエさんの耳に届いていたようで鼻先が触れそうな距離までさらに詰め寄られる。


「えっと……とりあえず近いから離れ」

「そんなことどうでもいいのよ!噂が何!言ってみなさい!」

「……ごめん」

「謝るくらいなら初めから口にしないで!」


そっぽを向くクロエさん。


「ふん!……あなたの噂も知ってるわよ!魔力量は平均の10分の1しかない留年者。今年も既に留年は決まっていて退学は確定的だって」


そっぽを向いていたクロエさんは僕へと顔を戻し、き!っと睨みつけてくる。


「つまるところ退学前の記念に剣帝大会に出場しようってところでしょ……どこが本気よ!お遊びじゃない!」

「……」


お遊び、記念……

確かにクロエさんの気にしていることを口にしてしまった僕も悪い。けど、それにしたってーー


「……」

「な……何よ!」 


睨みつける僕に一瞬だけギョッとするクロエさんは負けじと睨み返してくる。


「ちょっと!ストップストップ!少なくともこれから1年間は同じクラスで過ごす仲間なんだから仲良くして!」


慌ててやってきた先生が間に立って僕たちを説得する。


「仲良くできません」

「馴れ合うつもりはありません」


僕とクロエさんの声がハモる。

それから再び互いに睨み合う。


「わかったわかった!なら、2人とも騎士らしく口で語らないで剣で語り合って!この後闘技場を取ってあるからそこで思う存分戦って!」

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