年上旦那様の過保護な溺愛 1


 ***


 香ばしい香りの中で、目を覚ました。


「寝過ごしたっ!」


 実は、朝食を抜いてしまうことが多い私。

 早朝には起きて、王太子妃になるための教育を受けなくてはならない。

 けれど、その教育は深夜まで及び、いつも私は寝不足だった。


「……えっ、ここ、どこ?」


 一人きり、見知らぬ部屋にいた私は、ボやりと寝ぼけていた意識を覚醒させる。

 

「あ、そうだったわ……」


 掛け布団を引き上げて、昨日の出来事を思い返す。そう、私は、結婚式を挙げて、白い結婚宣言をされた。

 そしてそのあと、ジェラルド様は……。


「っ、ジェラルド様!!」


 すでに、私の隣、ジェラルド様が眠っていた場所は冷え切っている。

 あんなに具合が悪そうだったのに、そんなジェラルド様より長く寝てしまうなんて、自分に嫌気がさしてしまう。


 そのとき、静かに扉が開く。


「ステラ……?」

「ジェラルド様!!」


 慌てて起き上がって、飛び込もうとした私を少し苦笑したジェラルド様が静止する。


「ステラ、落ち着いてくれないか。スープがこぼれてしまうよ?」

「スープ? ……それよりも体調は!?」

「問題ない。君がそばにいてくれたおかげか、よく眠れたよ」

「寝過ぎて、しまいました」


 ジェラルド様は、片方の指先を唇に当て、少し微笑んだ。その仕草が、あまりにカッコよすぎて、先ほどの驚きで高鳴っていた心臓が悲鳴をあげる。


 ジェラルド様の左手にのせられたトレーの上には、湯気を立てるスープ。さらにテーブルの上では、ふわふわのスクランブルエッグとベーコンとクロワッサンがのせられたプレートが湯気を立てていた。


 ぐぅ、と音を立てたお腹。

 恥ずかしさのあまり、押さえて俯く。


「あの」

「……お腹がすいたのか? ちょうど良かった。使用人たちが、なぜか全員下がってしまっていたんだ。つまり、味は保証できないが」

「……え?」


 パチパチと何度も瞬きして、トレーにのせられたスープとテーブルの上のプレートを交互に見つめる。

 使用人たちが全員いないというのなら、完璧な朝食に見えるそれは、誰が作ったというのだろう。


「……おそらく、執事長の仕業だと思うが」

「あの、では誰がその食事を作ったのですか?」

「……私以外に誰がいる?」

「えっ、ええっ!?」


 ジェラルド様は、かつて王子様で今は王弟殿下だ。料理なんてできるはずがないと、勝手に思っていた。


 そんな私の驚きに気が付いていないのか、トレーをテーブルに置いたジェラルド様は、微笑んで私の元に歩み寄る。


「よく眠れたか?」

「ええ、見ての通りぐっすり……。あの、ジェラルド様」


 いろいろ聞きたいことがあるけれど、もちろん一番気になるのは、ジェラルド様のお体のことだ。


「ステラ?」

「お体は……」

「心配してくれるのか。可愛いな?」

「ご、誤魔化さないでください!! 昨日だってあんなふうに!!」


 自分のことを大事にしてほしいと、つい声を荒らげてしまった私の足元が急に浮かび上がる。


「ひゃっ!?」


 横抱きにされて急に近づいたジェラルド様の顔。

 金色の瞳が弧を描くのがあまりに麗しくて、苦しくなってしまった呼吸を何とか整えながら見つめる。今、私の呼吸と心臓は止まりかけている。


「……もう、問題ない」

「う、嘘です!! すぐ不調を隠すじゃないですか!!」

「……本当に、大丈夫だ。それよりも、食事にしよう」

「……」


 ニッコリと私に微笑みかけたジェラルド様の顔色は、確かに悪くない。

 そっと額に手を当ててみたけれど、体も熱くはないようだ。


「はあ。寝顔が可愛らし過ぎたのに、そこは耐えたのだから、あまり触れてくれるな」

「……変な寝顔だったのでは」

「ふふ。毎日見つめて、寝不足になりそうなほど、可愛い」

「っ……!?」


 真っ赤になってしまった私の頬は、きっと昨夜のジェラルド様よりも熱いに違いない。

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イケオジ王弟殿下との白い結婚〜君を愛するつもりはないと言われましたが、なぜか旦那様は過保護に溺愛してきます〜 氷雨そら @hisamesora

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