二人で過ごす時間 4


 先ほどまでの気安い雰囲気は、なりをひそめて、目の前に立つのは厳格で寡黙ないつもの騎士団長バルト卿だ。

 私もよく知るその姿。王国に彼のファンだという貴婦人や令嬢は、星の数ほどいる。


「……ジェラルド殿下、そしてステラ様、此度は精霊に愛されたお二人が結婚されたこと、騎士団長として、このバルト、心からお喜び申し上げます」

「ああ、感謝する」


 このやり取りなんて、物語の一場面にしか見えない。二人の周囲だけ、高貴な薔薇が咲き誇っているみたいな空気だ。


 自分にも向けられた言葉だってことを忘れ去って、そのやり取りをキラキラした瞳で見てしまった。私は人生のあれこれを今この瞬間、取り返したに違いない。幸せだ。


 無表情に近かったバルト卿は、次の瞬間ニカリと人好きのする笑みを見せた。

 その瞬間、高貴な赤い薔薇が、まるで咲き誇る大輪のダリアみたいな印象へと変わる。


 その変化を目の当たりにして、驚きのあまり渇いてしまった喉が、ゴクリと音を立てる。


「……それにしても、完璧な令嬢なんて言われていたステラ様は実は、可愛らしいお嬢ちゃんだったんだな」

「見るな」


 そうです、子ども扱い禁止です! そんなことを思いながら、思いっきり首を縦に振る。


「……ジェラルド、お前も意外と可愛かったんだな」

「黙れ」


 そうです! ジェラルド様は、時々可愛いのです。思いっきり同意して、やはり首を縦に振る。


 次の瞬間、ぐらりと体が傾いて、なぜかジェラルド様に引き寄せられていた。

 爽やかなハーブの香りがして、場違いかもしれないけれど、再び幸せをかみしめる。


 ニコニコと私たち二人を交互に見ていたバルト卿は、少しだけ口を引き結んだあと、真面目な先ほどの表情に変わる。


「……とりあえず今回の戦いは、お前抜きでも勝ったからな」

「……すまなかった。本当に感謝している」

「全てを投げ打つほど、大切だったんだろう? 気が付くのが遅いと思わなくもないが、これから先守り切ってやれば良い」

「言われるまでもなく、そのつもりだ」


 二人の会話は、深刻そうだから、私が聞いて良いものかとソワソワしてしまう。

 王太子妃だったときには、常に情報を集めていたけれど、今は監視兼護衛としてつけられていた王家の影も使えないし……。


 そういえば、急にこんなことになってしまったけれど、元気にしているのだろうか。


 銀の髪にアメジストの瞳をした彼のことを思い浮かべる。 少し変わっているけれど、頼りになる人だった。


「……ところで、戦いの途中で帰ってきてしまったような話の内容ですよね」


 次の瞬間、ジェラルド様はわかりやすく固まり、バルト様は楽しそうに片側の口角を上げたのだった。

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