7 空中戦

 レーダーが追跡船の光点を映し出す。見る見るその差が縮まって来る。

「おい、これ以上スピードは出ないのかよ」

 ディヤーヴァがイライラとシップに向かって言う。

「ヤッテモイイガ、オ前タチノ生命ノ保証ハ出来ナイ」


「けっ、おいナギ! お前どんな悪い事をしたんだ」

 今度はナギに向かった。額の赤い宝石がキラッと光る。

「何もしていない。俺はカダイルから出たことはないんだ」

「けっ、本当にロクでもないガキを拾ったものだぜ」

 ディヤーヴァはもう一度舌打ちをすると、退けと操縦席の近くにいたナギを押し退けた。


「オ客人、何ヲスル」

 シップの人工知能アルがやや焦ったような声を出す。

「まどろっこしくて見ちゃいられないぜ。俺が運転するんだよ」

「私ハ、シップノ知能ダ」

「俺様は人間だ。てめえよりも早い」


 ディヤーヴァは操縦桿を握った。追いかけて来たスペースシップはもうすぐ側まで迫っている。スクリーンに映し出されたそれから赤い光が大きく輝いた。

「ナギ!! どっかに掴まってろ!!」

 ドーーーン!!


 ディヤーヴァが言う側から船が大きく揺れた。

「きゃっ!!」

 ナギは跳ね飛ばされて、慌てて手を伸ばしてそこらにある物にしがみ付いた。

「反撃出来ねえのか!?」

 言っている側から第二第三の光が放たれる。

「失ワレタ」

「クッソー!!」

 船が揺れる。衝撃を辛うじてかわして船は滅茶苦茶に飛んだ。


「ディヤーヴァ、何処に!?」

「オ客人!!」

「うるせえな! 小惑星群だ」


 スクリーンに小惑星群が映った。

 赤い光線が船を越えて小惑星にぶつかって弾ける。恒星ドラヴィダの第四惑星と第五惑星の間には小惑星群が帯を作って流れていた。今、ナギたちの乗った船は真直ぐそちらに向かっている。


「オ客人!! ブツカッタラ終リダ」

「任してな」

 ディヤーヴァは確かなというよりは、滅茶苦茶な運転捌きで小惑星群の中に突っ込んだ。スクリーンに比較的大きな小惑星が画面一杯に押し寄せる。


「重力ガ!!」

 アルが叫ぶ。

「分ってるって」

 言葉ほどには余裕はなく、船は小惑星の重力を辛うじて振り切って、惑星群の中に入ってゆく。大小さまざまな小惑星と間違えて踏み込んだ船の残骸が散らばっている。赤い光が何度か撃ち込まれたが全て小惑星に当たって弾けた。


「追いかけて来ないよ」

「だろうな」

「当タリ前ダ。自殺行為ダ」

 アルがまだ喚いている。

「黙ってねえとぶつけるぞ」

 船はまだ小惑星群の中だった。カクカクと惑星を避けながら飛んでいる。どこかが当たったのか時折グラグラと船体が揺れる。

「ボロい船だな。もつのか」

「……」


 アルはもう返事をしなかった。ナギは船の中を伝ってディヤーヴァのところまで行った。スクリーンを隕石のような惑星がすごいスピードで通り過ぎて行った。声もなくディヤーヴァの手許とスクリーンを交互に見る。船の残骸がいたるところに散らばっていた。


「あれが俺の船だった」

 ディヤーヴァが顎を杓った方角、小惑星の間にチラと赤い船の残骸が見えた。

「ぶつかったの? あんた何で生きているの?」

「飛んだんだよ」


 何でもない事のようにディヤーヴァが答える。

 訳が分からなくて首を傾げたナギの瞳に、スクリーンの小惑星が見えてきて、どんどん近付いて来る。殆んどスクリーン一杯になってぶつかると首を竦めた瞬間、ファンと広い空間に躍り出た。


「わっ!! 出た!! やった!!」

 ナギが歓声を上げる。ディヤーヴァはホッと操縦席に座り込んだ。

「後はあんたに任せるぜ、アルとやら」

「……、了解」


 船はしばらく飛んで、やがてもう一度、恒星ドラヴィダの小さな第五惑星に進路を変えた。

「おい、何処に行くんだよ」

「オ客人。コノ船ノ燃料ハ少ナイ。船体モモタナイ。ケララハ避ケテ、タールニ着陸スル」

「なるほど」

 ディヤーヴァが皮肉そうに言う。


「大丈夫かな。あいつらに見つからないかな」

 ナギが不安そうに暗い空域を見回した。

「保障ハ出来ナイ」

 アルは夜の空域に進路を取って進んだ。


「言ウ事ハ禁ジラレテイルガ、自己判断ニオイテ聞ク。オ客人ハ、インティカ?」

「インティはもう滅びてしまって何処にもいないんだぜ。俺はただの人だよ」

 ナギにインティだと言ったくせに、ディヤーヴァはそう嘯いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る