2023/05/18埼玉県加須市&久喜市 まるで真夏のとあるロード

 通りすがりの自転車に乗ったお兄さんが気持ちよさそうに歌っている。俺に近づくと声を小さくしたが、丸聞こえだった。

 和田アキ子の“さぁ冒険だ”。

 昔ポンキッキーズでよく流れていた記憶が蘇る。今日みたいな良すぎるくらいに良い天気の日には、そりゃあ大声で歌いたくもなるさ。

 俺から離れたお兄さんはまた声量を元に戻してどこかへ去っていく。しばらくは彼の歌が聞こえ続けた。


 夏めいた変な日だった。こんな日は冷房付けた部屋で一日中ゲームでもやっていたかったが、外に出ねばと誰かが言いやがる。誰だろうな。そんなわけで俺は一日歩き回った。


 保存したVtuberの配信を聞きながら5月の早採れ炎天下をさまよう。

 夏服はだけさせた学生の集団が自転車で坂を上ってくるのに出くわした。暑さで参ってそうだが、すごく楽しそうに話していた。彼らにとって俺は進路上の注意の対象以上のものではなさそうだった。俺を避けてペダルをこぎ続ける。ちょっと寂しいとか感じてしまうのはあまりに厚かましいし、そんなアホな事考えた俺自身、大分暑さでやられていたように思う。今日は飲み物代だけで1000円飛んだような気がする。


 ろくに商店のない田んぼばっかりの道を歩いていると変な奴が現れたりする。幻覚か妄想だと思ってもらって構わない。塩分の取りすぎ考慮してお茶ばかりのんでるからこうなる。

 見ろ、川からおばけが覗いているぞ。いいなぁ涼しそうで、変わってくれよ。とか言ってたら柵曲げてこっち来ようとしやがったので逃げた。いつかの河童の親戚だったのかもしれない。

 見ろ、よくわからん塔っぽいやつの前で、赤いジャージのポニテのおじさんが声かけてきたぞ。

「汝、試練の塔に挑むのならば、装備を整えて十分鍛えてから望むべし。挑戦するか?」

 いいえ。

 見ろ、サッカーのコスチュームきた男児が挨拶してきたぞ。

「こんにちわー」

 俺は軽く会釈して返す。彼らはああやって不審な人物を威嚇し、己、ひいては集団の身を守っているのだ。ところで平日午前だぞ学校どうした?


 山岡家でエビ塩つけ麺啜りながら、自身の体調を確認する。ありがたいことに万全。スープの油分を力に変えて来た道を折り返す。


 日はまだ落ちない。だが風は涼しくなってきた気がする。

 赤いジャージのポニテおじさんの道を避け、おばけに川から睨まれながら歩き続ける。得体のしれない自販機から買った得体のしれないスポーツドリンクを飲みながら日の色が変わり始めたのを感じたとき、俺の今日の徒歩は終わった。


 ここまで書いた日記をグランヴィルに見せた。彼女は変な顔をしている。

「日記だね」

 いやまぁ日記だが?

「一部アレだけど、割と普通の日記だねってこと」

 悪いんか。

「わかった、あなたが疲れてると日記の内容が普通になるんだ」

 やめろ、別に構わないけどなんか……やめて!


 


 

 

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