2023/05/06自宅
昼飯にホルモンハラミ丼をかっ喰らい、サーモンの押し寿司を土産に帰宅したのが14時ごろ。満腹感を抱つつ、自室でうつ伏せで寝転がりながらパソコンを数時間いじっていた。そんな俺をグランヴィルはパイプ椅子に座ってずっと眺めていたらしい。彼女が伸びをすると、数年前に自室から撤去した筈のパイプ椅子が軋む音が部屋に響いた。
「今日はなんにもしないの?」
グランヴィルが退屈そうに聞いてきた。俺は振り向くが、いつのまにか日が沈み暗くなった室内では彼女の顔を見る事ができなかった。パソコンの画面だけがぼんやりと光る。
今日はもう、なにもしない。あとは風呂、飯、歯磨き、就寝で今日は終わり。そんなもんだよ日常なんてもんは。
「日記のネタないでしょ」
ない。むしろ今までなんだかんだネタがあったのが不思議田……改め不思議だ。今日の日記どうしようかな。今見てたニュイの配信の話でもするかな?
「……私にちょっと、付き合わない?そんなんならさ」
見えなかったが、多分グランヴィルは笑ってたんじゃないだろうか。
「ここがどこだかわかる?」
俺たちはいつの間にか、とあるラーメン屋の前にいた。
いやわかる、覚えている。
ここは俺の思い出のホルモンラーメンの店だ!馬鹿なとっくの昔に潰れた筈では?!
「さ、入りましょ。奢るから」
赤と黒の内装の店内を懐かしく眺める。俺たち以外には父子2人きりだった。
しばらくするとラーメンが届く。脂ぎったホルモンが醤油スープに乗りキラキラと輝いている、記憶の中のあの一皿だった。
よし、じゃあいただきます!
「いただきマンモス」
早速俺はホルモンを口に放る。ぐにぐにとした歯応えを楽しむ……噛むたびに脂と旨味が口いっぱいに広がる。
そして噛みきれない。
全く噛みきれない。小さめのヤツを選んだのに無限にぐにぐにしている。もう脂も旨味もできったのに全く飲み込めない。あぁ……記憶の通りだ!
「ぜ、全然歯で切れない。と言うか硬い、ゴム!ほぼゴム!あああ奥歯に挟まるぅぅあああ」
ふふふ、苦しんでおる。スープも麺も悪くないのに、このホルモンが絶妙に邪魔をする。だから潰れた。
お、グランヴィルさん何かが聞こえてこないかな?
「え?」
「お前はなんで嘘をつくんだ
「ついてないよ」
「いい加減にしろお前は……くどくど」
「……ごめんなさい」
ふふふ、ラーメン屋説教父子だ。あのクソ父親のせいで俺は説教をBGMにランチする羽目になった。今でも思い出すとしばき倒したくなるぜ畜生。
「説教鬱陶しい……ホルモン鬱陶しい……私はなんでこんな事を……?」
グランヴィルに泣が入った。この店に馴染んだのだろう。
ところで実際なんでこんな事を?
「暇なら思い出の旅なんてどうかなって思って……」
にしたってなんでここなんだよ。
「あなたがこの場所を思い描いたからなんですけど?!」
ランチにホルモン食べたからね。数年ぶりに思い出しちゃったね。
でも俺、この店結構通ったんだよ。そんでいっつも噛みきれないホルモン食ってた。今思うと、ニラとか輪切りの唐辛子とか入ってたからモツ鍋モチーフだったんだなと今になって気がついた。説教父子がいなければもっと通ってたかもしれない。ある日、気がついたら潰れていた。跡地に別のラーメン屋ができたが結局入らなかった。そのラーメン屋も潰れて、今調べたらなんか特徴的な定食屋になってた。
思い出の旅、悪くないかもしれない。
「ねぇ、このお店どっかにティッシュとかない?」
ないぞ。当時なくてしょぼくれた記憶があるからな。ガムみたいにはいかないからホルモンはなんとか水で流し込め。
「もうホルモンラーメンはこりごりだよー!」
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