オジテン〜異世界おじさん現代(風味)転生〜

またたび五郎

第1話

 悲劇なんて何処にでも転がってるものだ。ましてやこの時代この世界なら掃いて余るほど身近にある。

 これもそんなありふれた悲劇の一つでしかない。

 

「おい!おっさん!なんでボクを庇ったんだよ!」

 

 何処ぞの賢者は魔王と勇者は相打ちになり世界は勇者の命と引き換えに救われる......だなんてありきたりな悲劇を予言していた。そしてそれを勇者が受け入れ世界の為に命を投げ出そうとしたのだ。

 

 なんとも麗しき使命感だ。なんとも綺麗な筋書きだ。

 

 なんとも悍ましい悲劇か。

 

 だから体が動いた。自分の半分ぐらいしか生きていない異世界の子供の命を礎の平和なんて目覚めが悪くなるに決まっているから。

 

 なんて言い訳を探してみたが、正直何も考えてなかった。

 

「おい!目を開けろよ!開けてくれよ! おっさん!」

 

 今も聞こえる仲間の声も遠く聞こえる。魔王の攻撃で即死じゃなかったのは運が良いのか悪いのか。

 それにしても、最後の最後でクソ生意気な勇者の泣き声を聞く羽目になるなんて思わなかった。

 

「......っ」

 力を振り絞る。泣くんじゃねぇよ、柄じゃないだろ?お前は生意気そうに無駄に元気ではしゃいでればいいんだよ。

 

 声を出せただろうか。もう自分でも何をしているのか分からない。思考も定まらずに様々な事が浮かんでは消えていき全ての事に霞がかかる。

 

 そんな状況で思う。

 

 死にたくねぇな。


 ///////////////


 それは偶然でした。

 ただ私の元に他の世界の管理者が懇願して来たのが始まりでした。どうやら世界のエラーが処理しきれないからリソースを分けて欲しいとの事。

 

 正直な話、他の枯れ池のような世界とは違って潤沢すぎるリソースのある私にとっては旨味も何もないボランティアのような話だ。

 けれど断って角が立つのも面倒だったので彼女の条件に見合う子供を説得し適当にリソースと共に送り出しました。

  

 いつもならそれで終わり。後はリソースを活かすも殺すも興味の無いこと。

 しかし、この時は少しだけ気が向いて彼女の世界を覗き見る事にしたのです。

 

 そこで彼を見つけたのです。

 

『ふざけんな!ガキ1人に世界の命運を託せだ?寝言を言うのも大概にしやがれ』


 眩いばかりに輝く魂、現実と理想に挟まれ続け摩耗してもなお鈍く輝き続ける原石を。


『俺はバカだからよテメェ等みたいに利口には出来ねぇよ...でもよ!ガキ共見捨てて逃げるぐらいならバカで上等だ!』

 

 何故あれ程の傑物に祝福も授けずに放置しているのか、何故あれ程の原石がいるのに助けを求めて来たのか。

 

『ハッ何が勇者だよ......テメェはガキだろうが。生意気で可愛げもねぇ ただの頑張り屋な子供だ』

 

 どうして私の手元に居ないのか。

 

 『あぁ死にたくねぇな』

 

 決めました。彼の魂を私の世界に取り込みましょう。 

 リソースの対価としてはお互いに好条件でしょう。

 祝福すら授けていない魂と有り余るリソース。ほら誰も損はしない。

 さぁ私のモノになりなさい。

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