ブラフゲーム ー2024/7/10 Wed 23:59

 インディアンポーカーとは、配られたカードを掛け声と共に自分の額に掲げ、相手のカードを見ながら自分のカードが相手のカードよりも強いのか弱いのかを推理するポーカーである。

 自分のカードは自分には見えない。

 そのため、相手の反応から推測し賭けていく。このゲームにおいて運は必要無い。

 巧みな話術で相手をコントロールし時にはブラフで翻弄する心理戦。


「では、ゲームスタート」

「「インディアンポーカ!」」

 ――このゲームにおけるイカサマは単純だ。

 ディーラーである大和がこの場に出ているカードを読み、何かの合図でこちらに伝える。当然、榊にも声で伝わってしまうが大和には演技がある。


「なるほど、ねぇ……」

 唯一、大和には榊と誠也の二つのカードが見えている。


「やーまーとーくーん。私のカードどう? 強い?」

「強いよ? 榊さんのカードすごい、もう勝てるんじゃないかな」

 榊のカードはハートの八。

 まずまずのカードといったところか。大和は榊の駆け引きに即座にブラフを返し、のらりくらりと躱す。さすがの演技力であり反応からは高いのか低いのかが判断できないだろう。

 少し嘘くさいと感じるくらいか。


「大和、俺のは?」

「誠也のは……うーん弱いかも。交換しておく?」

 う。――これはどっちだ。本音か嘘か。判断がつかない。


「ちょっと考え、る」

 ただ、ハートの八ならこちらの方が強い可能性も高い。

 いやでも半々か。いまいち決め手にかける。


「もうちょっと、ヒントをくれよ」

「えぇー。勝ちたいんじゃないの? あんまり言うと気づかれちゃうよー?」

「このカードで勝てるか?」

「交換した方がいいと思うなぁ」

 このカードは弱いのだろうか……いいや、なにか違う。大和は榊のカードが高いと嘘をついて『このカードでも勝てる』と言ったのだ。榊の方を高いと思わせておいて変更しないように指示をする。その代わりにこっちには低いと思わせ交換しようとしてくる。

 つまり、俺のカードの方が強い。


「あ、聞き忘れてたんだけど。どっちが親? あと、インディアンポーカーって確かスートの強さに違いがあるんだよね? さんま? 北斗?」

「親の役目は大和くんに任せようかな。二人しかいないから降りるかどうか募って、適当に親っぽいことして。スートも大和くんのお好きな方で」

「なるほどね。分かった。実は俺、あんまりこのゲームに詳しくないからさ。俺が親の役目を請け負う。スートは……そうだな、さんまで」


 インディアンポーカーは、スート――マークの強さに関してスペード、ハート、ダイヤ、クラブの順に強い『さんまの名探偵スタイル』と、ハート、クラブ、ダイヤ、スペードの順に強い『北斗の拳スタイル』がある。ゲームが始まってから決めるのもなんだが、大和がここに来てからすぐに始めてしまったのだから仕方がないだろう。大和は少し考え事をしてからこの場を回し始めた。


「降りる人はいる?」

「私は降りようかな」

「あれ? 降りちゃう?」

「うん。大和くん嘘をついてるでしょ。この勝負は誠也くんにあげる」

「あちゃー、バレちゃったか」

 大和は大袈裟にリアクションを取るが、そのくせ目元は笑っていない。演技は完璧に見える。けれど、大和の癖は手に取るように分かる。俺はその癖を見ながら大和の演技が本当か嘘かを見抜いていけばいい。


「じゃあ、この場は誠也に十点。良かったねぇ、誠也」

 アプリケーションのカウンターが移動する。賭けを降りてもゲームに変動がある、だからこそこのゲームを選んだ。大和の演技を見抜いていくのがキーマンになるが、榊と俺で五分五分の勝負に見えて実のところ俺のほうに利がある。

 ――勝てる、勝てるかもしれない。


「じゃあ、カードを見て?」

 額に当てていたカードを開く。俺の推理が合っていればこのカードは榊よりも強いカードのはず。

「え」

 スペードの六。――榊のハートの八より弱い。


「良かったねぇ。誠也」

「ちょ、待て大和」

「なに?」

 大和の顔をじっと見つめる。交換した方がいい。あれはブラフでもなんでもなく。


「お前、嘘をついてたわけじゃ」

「ついてないよ? 交換した方がいい、と俺は言った。良かったねぇ。榊さんが降りてくれて」

 榊の方は強いと嘘をついた。それは合っている。けれど俺に対してはブラフではない。


「……すごぉい、大和くん。騙されちゃった」

「ごめんねぇ。俺、誠也を勝たせなきゃいけないからさ」


 ゾクリと背筋が凍る。

 スペードの六とハートの八。榊の方が微妙に強く誠也の方が不利。だが、インディアンポーカーが心理ゲームである以上、運の良さよりも重視すべきは『低いカードでも相手を下ろせばいい』のだ。そのために、大和は榊のカードが強いと嘘をつき、見えているスペードの六よりも弱いのだろうと思わせた。誠也には嘘をつかずと念押しをして。


「お前ってほんと」

「任しといて。誠也を勝たせてあげるからさ」

 味方としてこんなに頼り甲斐のあるやつはいない。


「じゃあ、次のゲームをしようか」

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