カタちゃんと銀髪ちゃん 〜心を読める銀髪少女と女子高生との共同生活!? 俺の恋はどうなるのか?
かねさわ巧
第1話 銀色の髪になりました!
ぐるん! ぐるん! ぐるん!
俺が目にしているのは、一人の少女がコインランドリーの乾燥機の中で回り続けている異様な光景だ。
普通の人なら、こんなものを目にしたら驚いて慌てるだろうし、蓋を開けて救出を試みるかもしれない。
だけど俺は、そんなことはしない……なぜならこの光景を見慣れているからだ。
そして、これは目的のある行動であり、彼女の手に百円硬貨が一枚握られていることも含めて俺たち二人だけの秘密。
――ガチャ!
「
乾燥機の動きが止まると同時に蓋が勢いよく開き、中から小柄な少女が飛び出す。
その姿は頭と手を除いて白い全身タイツを身につけている。
彼女は
「集塵っ! どう⁉︎ 髪の色! 銀色になってる?」
その少女は二重のくりくりとした目で俺を見つめながら、そう言った。
「ああ……綺麗な銀色だ……まさか、こんなにも簡単にいくとは……これでまた銀髪だな」
「やったぁぁ! もとに戻れた!」
「もとにっていうけど、お前はもともと金髪なんだろ? その表現はおかしくないか?」
「いいの! だって集塵と初めて出会ったときは銀色だったんでしょ? そこがわたしの
「わかったよ。そろそろカタちゃんが学校から戻ってくるし夕飯の支度でも始めよう」
「うん! 今日はカルビ丼?」
「今日も、だな」
「わたしはカルビ大好きだよ! 明日もカルビ丼だな!」
「野菜も摂れよな……」
「野菜もだしてよね……」
最近、野菜高いんだよ……。
◇
コインランドリーの直ぐ隣に俺たちが住むマンションがある。
リノベーションされた真っ白な六階建てで、もう住み始めて三年は経つかな……今日まで色々な出会いや別れのあった場所だ。
もともとは一階の部屋に住んでいたのだけど、わけあって年頃の女の子二人と共同生活をすることになり、三階にある少し広めの部屋に引越した。
同じマンション内での移動だから費用を抑えられて救われたけど、売れないイラストレーターをしている俺にはそれでも痛い出費だ。
「ほり……あ……銀髪、手を洗ったら米を研いでくれないか?」
部屋に戻った俺はキッチンに向かうと銀髪になりたての彼女に声をかけた。
「おう! わかった、まかせてよ!」
奥の方から銀髪の声が返ってくる。
えーと、とりあえず肉はまだあったはずだよな……調味料も問題なし、と……。
以前はカルビ炭火焼き弁当を買えるコンビニがあって便利だったけど、火事でお店が燃えて無くなってしまってからは俺がお手製のカルビ弁当ならぬカルビ丼を作っている。
これは二人の同居人に評判がいい。
とくに銀髪の方は好物という他に、これを食べないと生きていけない理由がある。
だから俺は銀髪のためにカルビ丼を作り続けるんだ。
「集塵っ! 大変っ!」
「おわっ!」
背後からの突然の声に振り返ると、そこには米びつを抱えて立つ銀髪の姿があった。
「突然大声を出すな! びっくりするだろ! 何があったんだよ」
「お米がないよ!」
「え? そんなわけ……」
俺は銀髪のそばに行き、その米びつを凝視する。
なるほど、どうりで片手で抱えていられるわけだ。
「本当だ……からになってるじゃないか……」
「どうするの? あと一時間もしたらカタちゃんが戻ってきちゃうよ!」
色とりどりな砂の入ったガラス瓶が並べられた棚の上に置かれているデジタル時計を確認した。
十六時か……今からスーパーへ買いに行ったとして往復で三十分くらい……そこから炊き始めて……なんだ、全然余裕じゃないか……。
「安心しろ銀髪。間に合うぜ」
「そうなの?」
「ああ、まだ余裕はありそうだ。買い物、一緒に行くか?」
「いく!」
銀髪は満面の笑みで返事をしてきた。
◇
「あー! 二人とも何処に行くんですか!」
エレベーターを降りると、そこには俺たちの良く知る制服を着た低身長の女の子がたっていた。
「
カタちゃんの髪は甘栗色のツーテールで顔立ちはお姉さんに似て整っている。
右目の下にある涙ボクロがチャームポイントだ。
「は、早かったね?」
「そんなことより何処いくんですかっ……て、あれ? 銀髪ちゃんっ! 髪色っ! また戻したのですか? え? 何でです?」
「ひ、ひみつ……」
「えー! なんでー! でも、これで銀髪ちゃんって言いやすくなったかも? 今まで金髪なのに銀髪って呼ぶの抵抗あったんですよね」
まぁ、そりゃそうか……。
「今からスーパーへ買い物に行くんだよ。カタちゃんもいく?」
「あ、私はパスです。どうせお米が切れてたとかそんなのですよね? 部屋でまってますから出来るだけ早く戻ってきて下さいね」
「わかった。それじゃあ留守番たのむよ」
「はーい」
カタちゃんはやる気のない返事をすると軽く手を降り、エレベーターに乗ってしまった。
「急ぐぞ銀髪」
「うん」
銀髪はその小さく細い指先を伸ばすと俺の手をギュッと握ってきた。
◇
買い物を済ました俺たちはマンション前まで戻ってきた。
途中、雨が降りそうな雲行きだったので家路を急いだのだけど、買った米が重すぎてくたくただ。
「ふぅ……安かったとはいえ十キロは買いすぎた……お、重い……」
「だから止めたんだよ。そのうち背骨折っちゃうよ?」
「うるせーなぁ……そんなことにはならねーよ。俺はまだピッチィピッチィだからな」
「なんか言い方が気持ち悪い……」
「……」
そういえば米に気をとられて野菜を買うのを忘れていた……仕方ない、明日また買いに出るか。
「銀髪、悪いけどドアを開けてくれないか? 両手が塞がって開けられん」
「わかった」
「さんきゅ」
銀髪はドアを開けると、なぜかそのまま動こうとしない。
「ん? どうしたんだよ?」
「集塵……変なのがいる」
「ん? 変なの?」
身動き一つしない銀髪を横に俺はドアの向こうを確認する。
「なっ!」
――そこにはピンクのウサギの着ぐるみが背を向け立っていた。
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