5.夜の底
床板を上げると、地下室からはひどく腐った臭いがした。多分この屋敷に立ち込める腐臭の原因はここだ。朽ちかけた梯子を掴む手の平に力が入る。ささくれが刺さって、不快感と嫌悪感が背筋を這いずり回る。
最後の板を降りて、ぴちゃ、と何か湿ったものを踏んだのが分かった。
アリン・チタから借りた懐中電灯で前方を照らしながら進む。
奥には、何かこんもりと盛り上がった布切れのようなものが置かれていた。臭いがいっそう鼻を突く。一歩、一歩また歩み寄って。
覆いを外す。
顔の肉はもうすっかりとろけてしまっていて、誰かを判別することが難しそうだった。液体とも個体ともつかない粘々したものが手に纏わりつく。服の中をまさぐると、いくつか見覚えのある装飾品が──ぼくは、今になって彼の姿を思い出している──転がり落ちて来た。
「ああ。きみなんだね。セヒスムンド」
吐き気がする。
──彼はずっと、夜の底に捨て置かれていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます