5.夜の底


 床板を上げると、地下室からはひどく腐った臭いがした。多分この屋敷に立ち込める腐臭の原因はここだ。朽ちかけた梯子を掴む手の平に力が入る。ささくれが刺さって、不快感と嫌悪感が背筋を這いずり回る。


 最後の板を降りて、ぴちゃ、と何か湿ったものを踏んだのが分かった。


 アリン・チタから借りた懐中電灯で前方を照らしながら進む。


 奥には、何かこんもりと盛り上がった布切れのようなものが置かれていた。臭いがいっそう鼻を突く。一歩、一歩また歩み寄って。


 覆いを外す。


 顔の肉はもうすっかりとろけてしまっていて、誰かを判別することが難しそうだった。液体とも個体ともつかない粘々したものが手に纏わりつく。服の中をまさぐると、いくつか見覚えのある装飾品が──ぼくは、今になって彼の姿を思い出している──転がり落ちて来た。


「ああ。きみなんだね。セヒスムンド」


 吐き気がする。


 ──彼はずっと、夜の底に捨て置かれていたのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る