第53話 変わらぬ世界で。変わった私で。


   *


 世を忍ぶオタクルックファッションで町を歩く。

 ……するとすぐに、私の周囲に少年たちが群がり始めた。


「あっ白狼だ!」

「パラディン後藤がいなかったら、お前のせいで町は無茶苦茶になってたって父ちゃんが言ってたぞ!」

「あっちいけ凶悪犯!」


 ガシガシ足を蹴られる……それと、全くもって変装の意味がない。


 ――モルディとの激戦後、悪党モルディの成敗は、当然のようにパラディン後藤の成果としてたたえられた。

 見ての通り、私の扱いはこんな感じだ……


 でも――


「こりゃぁあクソガキどもぉお! オミャアらあっち行ってろぉお!」

「うわぁあ白髪バーコードじじいだ! 逃げろぉ!」


 ……何人かは、私のことを認めてくれる人もいるみたいだ。


「よう指名手配犯! 元気でやっとるか」

「ありがとう白髪バーコードじじい……あ、そういえば謝らなくちゃ。この前貰ったおしり星人、壊されちゃったんだ」

「なぁあんだとオミャァアア!! わしの息子をぉおお!!」

「うあああ! ごめんなさーい、またフィギュア買いに来るからぁ!」


 杖で尻をしばかれ、走り出す。


「お、白狼だ」

「よう白狼。この前はすごかったみてぇじゃねぇか、うちで焼きそば食ってけよ」

「あー白狼じゃん。激ヤバー、一緒に写メ撮ろ〜」


 町の人たちが、私に向かって微笑みかける。

 みんなに認められるにはまだまだ遠いけれど、少なくともこの町の住人としては受け入れられているらしい。

 程なくすると、メイドカフェにできた長蛇の列が見えて来る。

 そこに見覚えのある三人の姿――


「あ、白狼だど……白狼もメイドカフェにスペシャルプリンパフェ食べに来たのかど?」

「あっ、おいテメェ白狼! この前の騒動で俺たちのアジトが全壊しちまってたじゃねぇか! 責任取れ、今日からまたお前んところに泊まるからな!」

「また庶民の家に寝泊まりしないといけないとは……まぁ、あのボロアジトよりかはマシですね。いいですか白狼、本日中に私専用の天蓋付きキングサイズベッドを用意しておきなさい」


 向こうに見えるバカ三人衆を無視して走り去ろうとすると、横から飛び出してきたポヨポヨとぶつかって私の顔が埋まる。


「あっ白狼! ここで会った事は僥倖ぎょうこうと言えよう!」


 この爆烈巨大なマシュマロのような感触……甘くとろけそうな美少女の香り――


ふうちゃん!」

「助けてくれ白狼! 借金取りに追われてるんだ、お前の凶悪ヅラで追い返してくれ!」


 私は何も聞こえないフリをして、顔を包み込んだ柔らかなもので、夢のおっぱいブリンブリンをした。

 ――だがそこで、騒がしい怒声が私の邪魔をする。


「見つけたぞ! 白狼だ!」

「おんどりゃ白狼! ここで会ったが100年目ぇ!」


 私を追いかけて来たのは、徒党を成した聖魔教会の信徒たちであった。先頭を走るグラサンリーゼントが、鬼の形相で叫ぶ。


「このボケがぁああ! 聖魔教会が壊滅したショックで、モルディ司教が赤ちゃん返りしちまっただろうがぁあ!」

「どこかれかまわずガトリングをぶっ放してやがる! 責任を取ってお前がモルディ司教の相手をしろぉお!」


 彼等の背後、爆炎の上がる方角からモルディの声が聞こえてきた。


「AAAAAAAAAHHBBOOOOOO――ッッ!!!!」


 走り去る私――過ぎていく景観に町長やパラディン後藤が映り込む。



「はぁ……はぁ……なんて騒々しい町なんだよ」


 やがて萌島もえしま家にたどり着いた私は、鍵のかかっていない玄関をガチャリと開く。

 そうして二階に上がると、我が神聖なるオタクルームに倒れ込んだ。


「……チッ」


 私を見下ろすマリルちゃんのフィギュア……壊れたおしり星人。

 愛すべきインキャ生活の拠点で、コントローラーを手に、TV画面に向かうクルミが振り返る。


「教えろモヤシ女……このゲームに出てくる、だいしゅきホールドってなんだ!!!」



 ――私を取り巻くうるせぇ奴ら……まだまだ理想の生活には程遠い。



「クソがッ! 私は絶対に、夢のインキャ生活を取り戻してやるからなぁあ!!」

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