第52話 一人じゃない。私は世界の中に居る。
私の頭身をはるかに超えた電撃の波動が、火花を上げて光の拳とせめぎ合う――!
「ぐぅ……ウウウウゥッモルディイイ!!」
「潰れろ白狼おぉおお!!!」
私全力の拳を受けても、形を保ったまま、平然と直進してくる電気の大河。引きずられ、踏み込んだ足元が線を伸ばしていく――
「無駄だぁ裏切り者がぁあああ!! 『ラドン』は巨大獣の迎撃を目的に作り上げた最強の砲台! いかに白狼の肉体といえ、消し炭になる他、術はねぇんだよぉお!」
「うぐぁ……ぅ」
全身を雷電に痛めつけられ、押し負けていく私に風香ちゃんが声を上げる――
「嘘だろう!? 白狼でも無理なのか、前よりあんなに強くなったのに!」
それでも残された者たちは、掌を組んで神に祈るしか無かった。
走る紫電が河川敷を破壊していく――
「…………!!」
――痛い、ほんとに痛い! どう考えても、一個人に放つにしては火力が高過ぎる! 力の流れを全開で放出しても止める事ができない!
モルディの言っていた言葉は嘘じゃない。私がここを退けば、この電磁加速砲には、そのまま町を横断していくだけの火力がある!
「つ……ぅ……ダメ、だ……勝てない!!」
「素人の割には良くやったと褒めてやるよぉぉ……だがここで終いだぁ! 全部諦めて楽になっちまいやがれ!」
「でも……――でもぉッ!!!」
私の脳裏に、楽しかった町での思い出が去来する――
ゲームショップにアニメショップ。メイドカフェにフィギュア屋。
手渡されたおしり星人のフィギュア。町の人々との交流――
――どれもろくでもねぇって? ふざけんな、私にとってはどれもこれも、
「――タイセツな思い出なんダヨォオオオオオ!!!!!!」
「お……お?! おぉおおっ???!!!」
拮抗を始めた私の拳に、モルディはややばかり動揺して眉をしかめる。
「この町でもらったぁあ!!! 大事ナァアアアアア――!!!」
「馬鹿力出しやがってぇ、このぉ……っ!」
火事場の馬鹿力で電磁砲の進行を止めるが……モルディは不敵に笑って、右腕の赤いスイッチを押した。
その瞬間、電撃が激しさを増して、バリバリと鳴り響き始める。
「ぅあアッ――!!」
「奥の手ってのはぁあ! 取っとくもんだよなぁあ白狼ぉッ!!」
モルディの右腕に完成された巨大な電磁加速砲が、ガタガタと振動してオーバーヒートしていく。激しい熱に耐え切れずに真っ赤になっていく――
赤く変わった雷電に押され、最後の力も振り絞りきった私には、もう打つ手がなくなってしまった。
「これでぇぇ本当に最後ぉおおおお――!!!!!」
「ああ……うああぁああああ――ッッ」
……もう無理かもしれない。どこもかしこも痛くって熱くって……苦しい、限界だ。
怖い。自分がこのまま、焼き尽くされるのがわかって怖い。
……ダメだ。
ここまでやっても敵わない。この恐ろしいモルディという男に、全て
やっぱり、無理だったのかな……
――赤き波動に焼き溶かされながら思う……
虫が良かったんだ……
強くなって、自分の人生を勝ち取ろうだなんて……
――――いいや、違う。
「――――――ッ!!」
「ンンあ――ッ!?? テ……てめ……
あんぐりと口を開けたモルディが見上げるは、
――“
ガドフが、ルディンが、パラディン後藤が、風花ちゃんが、絶望の
「白狼……あの技は出来なかった筈だど!?」
「ハ、ハハ、アッハハハ! この戦いの最中に成長したのです!」
「アイツはやっぱり、戦いの天才だぜ!」
「
「いけぇええ!! 白狼ぉおおおお――!!」
祈る信徒、私の名を呼ぶ町人たち、赤き波動をこの手に受けた、その背後には大好きな
「なんでだぁ、入れ替わってんじゃねぇのかぁ……っ!!」
――私はもうとっくに、
みんなに支えられて、
「なんでテメェが……奴の奥義まで使いやがるぅッッ!!」
……打ち込んだ巨人の腕が――赤の雷光を
「見ているか……」
「ぁ……バカ…………な」
「感じているか――!」
放射状に飛散した電光の先に、情けのない顔で脱帽したモルディの顔がある。
――強く、一歩踏み込んだ軸足……
ねじった腰に、猛進する光の拳!!
「ヤァあああメロぉおおお!!! ――白狼ぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
――……
「ううぅううあああ!! 俺のぉおっ俺の野望がぁあああああ!!!!!」
――もしそうなら、最後の告白シーンでお前が選ぶべきセリフはこれだ。
何故だかその時、コントローラーを手に、ニタリと笑んだクルミの横顔が思い浮かんだ……
半ベソ顔で喚くモルディ――
「まぁあたぁあ!! また俺の人生はお前に無茶苦茶にぃいいい――ッ!!」
聞こえぬはずの、ゲームの告白シーンが脳裏に浮かび、声を重ねる――
『君を見ていると――』
「
『この感情が――』
「この
……私の全てを拳に乗せて、光の巨腕が雷光を押す――!
『破裂しそうだ――』
「
この絶叫と共に――
真っ赤な波動を完全につらぬいた光の拳が、モルディの電磁加速砲を大破させた――!!
「ウッ――が――――っ??!」
高く舞い上がり、白目を剥いたモルディ――――
彼の右腕より分離され、地に落ちた巨大な機械がオーバーヒートしていく。
するとそこで、ギョッとした神父が肩を跳ね上げて言った――
「まずい!! 爆発すれば、この町ごと壊滅してしまう!」
「ぇ――!?」
宿敵の打倒に喜び合う暇すらなく、私たちは熱暴走していく巨大な機械を眺めている事しかできないでいた。
「――ヤァアア! 町の平和は僕が守る!」
するとその場に一人飛び出してきたパラディン後藤。彼の起こしたテレポートのサークルが、大爆発を目前にした電磁加速砲を包む――
「
空の高くへ転移した電磁砲の行き先は、遠方に見える聖魔教会の高層ビルであった。
(こ、このガキ、鬼畜か……)
――そして次の瞬間。凄まじい爆発で聖魔教会はチリも残さぬ灰になった。
「そ……総出でここに来ててよかった……」
崩れ落ちた神父が胸の前で十字を切ると、モルディが顔を上げて眼球を飛び出した。
「――ハガ!!!!!?? ……ガ……が……!!!!」
「私じゃねぇぞ、やったのは……」
「アンギャアアアアアアアアアアアア!!!!! 俺の城がぁアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッッッ!!!」
血眼で一度、私を睨めつけたモルディは泡を吹いて失神した。
(おい待て……こいつぜってぇ私のせいだと思ってんだろ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます