第29話 オッサン、アニメショップに行く


   *


 ――♫♪〜(人気ゲームのBGM)


「いらっしゃいませ〜」


 アフロ店員の迫真の涙に耐えきれず、ゲームショップショップを後にした私。(何だったんだろう彼は)

 今私は、次の目的地であるアニメショップに踏み込んでいた。


「見てっ!! あの人デッカ!」

「すげぇ、クマじゃん」


 ぅう、なんだか周りの目が痛いよぅ……

 さっきの店では失敗したから、精一杯の笑顔を貼り付けて店内をひた歩くが――


「うわ、見たあの人! なんかメチャクチャニタニタしてたよ!?」

「ヒィッきもい……え、ちょっと待って、あの人の向かってる先、エロ同人誌コーナーだよ?」

「そ、それでニヤついてるの?! なんか禍々しいオーラ見えるんですけど!」


 ……この巨大な図体はやはり目立つらしい。イマドキギャルに不気味な視線で見られている。


「……」


 でもまぁいいや。

 だって私は今、憧れのアニメショップに居るんだ。

 うわぁ〜すごいなぁ、知ってるアニメのグッズが沢山ある! あっ、アレ欲しい! こっちも見たいな、ウッヒョオオオ楽園かよ。

 3階建てのアニメショップは、どっちを見ても、どちらに行っても、私にとっては楽園である。隅から隅までじっくり見て回ろう。


「うわ!! え、え!?」

「今の人ヤバくない? 通報したほうがいいんじゃない?」


 ほがらかに緩んだ笑みに、店内にひしめいていた人たちが割れていく。さしずめ私は今、約束の地へ向かうモーセの様だ。

 でもなんでだろう? まぁいいや。

 ふふ、ウフフフ、楽しいなぁ……


「デュプ…………ブブ……ゥフ、クキィ……!」

「ひぃぃっ! 何あの人?!」

「危険人物の笑い方してたよね!」


 ――あ、そういう事か!


 店内を巡ってみると、自分がやたらに注目されている理由に合点がいった。


 ――アニメショップって、男の人より、女の人がいっぱい居るんだなぁ。確かにさっきからイケメンアニメの商品が多いかも。それで私は少し目立ってしまっている訳だ。

 でもまぁ男の人もぼちぼち居るし、なんか女の子の良い匂いするし、オールオッケー♪


 ――あ、好みのタイプの美少女はっけ〜ん。ここからチラッと覗いてみよっと。


「ねぇ見て、ここ超格好良くない、ヤバーイ」

「ヤバイよねそのシーン、シャーク様の眼光胸熱ぅ」

「私も男の人からこんな熱視線送られた〜い、絶対イチコロなんだけど」

「クビビビ……ガぅ……ピ……!」

「――いやぁッ!!! え、なに?!」

「ど、どうしたの!?」

「きょ、巨人が本棚の向こうから私達を見てる!!」

「な、なにあの舐め回すような悪魔の目!!」


 ――いやぁ、眼福眼福。好みの美少女を眺めるのも、外で過ごす時の醍醐味だいごみだよなぁ。

 うっふふ、私もすっかり脱引きこもりで気分がいいな♪

 それにしても、生の女の子って良いなぁ。なんかみんな小さくて可愛いし。


「かっひ、ヒヒぃ……ヒヒヒヒヒィィ」


 3階に続く階段上がり始めると、なんか店員が私の周りをウロウロしだした気がする……

 物陰から何人かの視線が……いや、気のせいかな?

 まっいいや、ルンルン♪


「……店長、目標確認しました。あれですよね、通報のあった人」

「そうだ、アイツはきっと何かしてかすぞ。不穏な動きを見せたらすぐに捕らえるぞ」

「でも店長。本当にただのアニメ好きのオジサンかも知れませんよ? きっと緊張してるだけですよ、なんか可哀想っす」

「なにぃ、あの目を見ろ。犯罪者の目だろう」

「そういうのやめましょうよ。俺にもあれくらいの親父が居るんです。人を見た目で判断するのは良くないっすよ」

「ううむぅ……――ん? なんだアイツ、前屈みになってもだえ始めたぞ」


 ――あ、なんか……さっき緊張で自販機の水をがぶ飲みしたからかなぁ……

 ……ぅうう、少しでも時間を有効に使いたいのに。しょうがない、反省して次に活かそう。

 お、丁度階段の踊り場にあるじゃないか――


 ――ガチャリ。


「て、店長ぉおおおお!!! 前言撤回します! アイツ女子便に入りましたよぉおっ!!」

「よし、確保するんだ!!」

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