第13話 女の敵は粛清対象です


「あれ、俺たちの龍殺地底魔獣神マンモスはどこいっちゃったの? さっきお空に飛んでいったゾウさんはなに……?」

「……スライト、ショックでおかしくなってるど……」

「ワハハ、ワハハ。そんな訳ありません。古龍さえ討伐とうばつした私たちの神獣が、こんな……こんな馬鹿げた攻撃で……ん? 違う龍殺地底魔獣神マンモスは居ます。ほら胸に手を当てて。私たちの胸の中に彼は居るのです。ほら聞こえるぱぉ〜んと」

「ゔぉ……ルディンまで」


 言葉を失って微笑み合うだけとなった3人に、私は渾身の怒号をあげて詰め寄った――


「ッッオイ――――――ッッッ!!!!」

「「「ぃぃぃぃいひぃ――!!!」」」


 凄まじい波動が彼等を襲い、衣服が弾け飛んで下着だけが残った。


「ひゃあっ」「ああ、いけない……いけませんそんなぁ」「ゔぉ……ぃ」


 何故か乙女チックな反応で肌を隠した3人。

 ていうかおいおい、お前らなんだよ。全員白ブリーフでお尻にマンモスのアップリケが付いてるじゃねぇか。最初いがみ合ってたのなんだったんだ、どんだけ仲良しなんだよ。

 風圧で組体操を崩した3人が、親指を噛みながら涙目の上目遣いを私に送っている。いやいやどういう感情? 乙女なのこいつら?

 私が動揺していると、足元から、息も絶え絶えな声が聞こえてきた。


「どういうつもりだ白狼……私は、お前の懸賞金に目がくらみ、その首を狩りに来た女だぞ……情けのつもりなら……っ」


 服が破れてウホッな彼女に鼻血を垂らし(おっぱい見えそう)それを隠す為に背中を向けた私は、這いつくばった彼女にグッと親指を立てた。


「そんな昔のこと……忘れちまった。今はただ、キミが無事ならそれでいい」

「……ぇ……っ」


 頬をポッと赤らめ、目を丸くしたマリルちゃんに気付き、私はここだ! と思ってギャルゲーで学んだ決めセリフを添える。勿論自分がオッサンである事も忘れて、バキバキのキメ顔で。


「もう恋なんてしないと決めていたんだ……なのに不思議だな」

「白……狼……恋? 何を……え、まさか……こんなところで愛の……いや、やめろっ……わ、私そういうの経験ないんだ」

「いいや言わせてくれ。キミを見ていると……このかん――」

「――ヴァッホイっっ!! あぁ〜ホコリでくしゃみが出たど!」

「――が破裂しそうだ」


 鼻血を拭い、振り返ると、天が祝福しているかのようなタイミングで教会の鐘が鳴った。

 ――『君を見ていると、この感情が破裂しそうだ……』

 完全に決まった。『ちょめちょめメモリアル』でヒロインの二階堂茜を落とす時の決め台詞だ。これで落ちない女などいないだろう。途中馬鹿なオークのくしゃみが割り込んで来たが、この思いはきっと伝わったに違いない。


「は……? マジかよ白狼、そりゃねえだろう」

「今のは流石に、人としての尊厳さえ危ぶまれるといいますか、やはり凶悪SSSランク指名手配犯と納得するべきか……」


 ルディンとスライトが驚愕しながら私を見ている。心なしか侮蔑ぶべつめいた感情さえうかがえるが、訳がわからない。

 ハハーン、さてはこいつら恋愛した事ねぇな? 


「な……なんだと白狼……そのセリフ、確かに……間違いなくこの私に言ったのか!」

「……そうだよ子猫ちゃん」

「私の……私の感情さえもてあそんでッ――貴様は……っ!」

「はぇ……?」


 ほら見ろ、マリルちゃんが真っ赤になってもだええてるだろうが。この童貞野郎どもが、女はこうやって落とすんだよとくと見ておけ。

 プルプルと震えたマリルちゃんは拳を握り締めると、一度うつむかせた赤い顔に(嬉し)涙を浮かべながら私にこう声を返した――


「何が『キミを見ていると股間が破裂しそうだ』だ!! 面と向かってこんな屈辱を受けたのは初めてだぞ、この醜怪しゅうかいゲロ野郎!!!!」

「はエエ――――ッッ!!!!!??」


 心臓が飛び出るかと思った。

 ん、ん? ちょっと待て……私さっきちゃんと『キミを見ていると、このかん(ヴァッホイっっ!!)が破裂しそうだ』って……

 ――……ハァアウッ!!!!

 全てに気づいた私は、鬼の形相でガドフを睨み付けた。その瞬間に殺気にでも気付いたか、ピンとその背筋が伸びている。


「……一瞬でもお前に気を許しかけた自分を呪いたい」

「え、そ、そうだったの!?」

「だがやはり、貴様のような変態は、世の為にも粛清しゅくせいしなければならない!」

「あぅぅ、あぅ、違うんだよマリルちゃん……」

「あんなセクハラを堂々口にしておいて、どう言い逃れる気だ白狼! そして私はマリルちゃんなどでは無く、中部管区聖魔教会粛清部、第3隊〈修道女シスター〉の紅葉もみじ風香ふうかだ!!」


 ふらふらと起き上がり、ふところから短めの剣を抜き出したマリルちゃん――もとい、紅葉風香ちゃん(可愛い名前。ふうちゃんって呼ぼう)は、赤面した顔から火を出しながら、こぼれそうなおっぱいを片手で隠して私に剣を向けた。


 ――女の敵は、どうやら私らしい(なんでだ! ふざけんなバカオーク!!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る