第10話 一般戦士、“聖騎士”(パラディン)後藤
――間違いない。このパラディン後藤という少年。
「悪即斬……僕の前で、2分以上息をしていられた悪は居ない……」
この邪悪な覇気……真っ直ぐな視線、その身のこなし……!!
「みんなが待っているんだ。パラディン後藤の照らす、この
この子は
――厨二病を患っている。
「え、ちょっと待って。君、パラディン後藤君だっけ?」
「うんうん、なんだ」
「私達さっき物凄いスピードでここまで来たと思うんだけど、君どうやって付いてきたの?」
するとパラディン後藤は、嬉しそうに口角を上げて背のマントをひるがえした。
「フッ……なんだそんな事か。僕は選ばれし者、希少なテレポートの使い手なのさ……
「えっ?」
パラディン後藤が手を振り上げると、彼の後方で転移の魔法陣が複数現れた。そこから何者かが現れようとしている気配に気付き、私はマリルちゃんの爆乳にどさくさ紛れに顔を埋めた。
「あわわ、ヤバイよ〜マリルちゃーん!」
「私は、マリルちゃんでは無い……」
すると魔法陣からは、先程撒いた筈のSランク冒険者の面々が現れて、流石に動揺せずにはいられなかった。
「ッフ〜! 俺たちゃツイてるぜ、助かったぜ少年!」
ナイフ使いのスライトが、両手のナイフをクルリと回して白い歯を見せた。
「ええ、本当に。良くぞ我々Sランク冒険者に声を掛けて下さった。おかげで白狼を倒すチャンスに再び恵まれましたよ」
風裂きのルディンが疾風をまとってフワリと宙に浮いていく。
「見失ったと思ったが、助かったどぉ騎士の少年! んぁ〜!」
棍棒を振り挙げたガドフが、大胆な笑みを少年に向けながら顔を近付けていく……
「で、お前誰だっけ?」
モラルを欠いたオークの言動であったが、パラディン後藤は長い前髪をスッと横に流し、Sランク冒険達にも堂々と応じていく。
「僕はッ! いずれSランクになるEランク冒険者! フンフンッハァッ! 騎士のパラディン後藤だッ! ヤァア!
恐らく独学で考えたであろう舞いを見せる少年に、三人の冒険者達は困惑しながら口を揃えた。
「「「ダ……ダセェ」」」
そしてヒソヒソとスライトが耳打ちする。
「なんで和名なんだよ……しかもパラディンって名前にくっつけてんのか? 騎士の位を表す言葉だぞ? それ知ってんのかこの坊主?」
ルディンとガドフが引きつった口調で続く。
「普通名詞に使う言葉ではありません。響きがカッコいいから採用したのかもしれない……。だって彼が本当にパラディンになったら、パラディンのパラディン後藤と呼ばれる事になるんですからね」
「……なんだかぁ〜可哀想な子かもしれねぇなぁ」
「……優しくしてやろう」
あわれみの表情を浮かべる三人。そんな彼等に気付きもせず、舞いを終えたパラディン後藤は輝かしい瞳を上げる。
「ああ、僕達で力を合わせてこの世の悪を討つんだ! このパラディン後藤に続け!」
「「「えっ」」」
なんだか共闘する流れになっているが、Sランク冒険者の三人は眉をしかめている。
しかし助けられた手前バツが悪いのか、困惑した表情のまま話しを合わせ始めた。
三人は顔を見合わせながら頷き合う。
「へっ。ま、まぁ……悔しいが確かに俺一人じゃ白狼を殺るのは難しいかもしれねぇ。パラディン後藤の力を借りるか」
「……まぁ同感です。ここは久しぶりに共闘といきましょうか。
走り出したパラディン後藤に、そう言う様に指示されたガドフが声を掛ける。
「おっ、おいーなんて邪気だー後方十キロから……んぁ? 3キロだっけ……まぁいっか、とにかく遠くから、オラ達を狙っている奴がいるどーこの凄まじいプレッシャー……こいつが影のラスボスだどー(棒読み)」
「なんだって!?」
パラディン後藤がガドフへと振り返った。するとルディンとスライトもまた、演技じみた小芝居を打ち始める。
「本当だ! とても我々の手に負える相手ではありません……! しかし白狼も逃す訳にはいかない! いったいどうしたら良いのでしょうか!?」
「おうよ……こんな凄まじい力を感じた事ねぇぜ。真の勇者じゃなけりゃ、アイツの相手は出来ないだろうぜ……くそぅ!」
「な、なんだって……本当かみんな!?」
ガタガタと身震いを始めたパラディン後藤は、深呼吸をして胸を抑え始める。
「僕の中のもう一つの人格が反応している! うっ苦しい……みんな。ここは任せられるか?」
真剣な面持ちとなった彼に、三人は頷く。それを見届けたパラディン後藤は、マントをひるがえしながら彼等に背を向けた。
「持ちこたえてくれ! あっちは僕がなんとかする! ……みんな!」
「どうしたパラディン後藤?」
「…………。死ぬなよ?」
「ええ、貴方もね。パラディン後藤」
そしてパラディン後藤は勢い良くテレポートで消えていった。
冒険者達は肩を落として溜息をついた。
彼等Sランク冒険者のホッコリする様な優しさを垣間見た私は、頬を緩めて彼等を眺めていた。
「いやそんな場合か。一体何なんだよあの子……」
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