第9話 あぶねぇ、理性を失う所だった(事後)
「……ぽ…………ポ」
その瞬間に、私の中の理性が決壊していく。
「ポ…………ポゥ……」
「なんだ? 何を言ってるんだ白狼……?」
命を狙われるそのさなかに置いてさえも、私は空想の産物であり、失われたと思っていた、かけがえのない存在を凝視する事を辞められなかった。
動揺するマリルちゃんに、私の足が向かい始める。
「何をする気なんだ白狼! その血走った目で私を見るな! ヨダレもなんとかしろ!」
「ポォオオオオオオオオオッッ!! マァァアリルチャァァァ!!!!」
「ひ、ヒィええええ!!」
絶句したマリルちゃんが閃光の様に逃走を始める。しかし私も彼女を逃す訳にはいかない。指先をピンと伸ばした全力走行で、光の一筋の後を追い続けた。
「なんだ!? なんだなんだなんなの!? なんで私の
「ヒャぁあポォオオオオオオオオオ!! ペロペロ、マリルちゃんペロペロさせて!!」
「マリルちゃんって誰なんだ!! 寄るなぁああ!!」
景色も何も置き去りにして、私は無我夢中でマリルちゃんを追い続けた。
ジグザグに町を掛けて行くマリルちゃんを追跡する為に、障害物はその身で全て破壊していく。
さっきまでとは段違いの速度が出ている事に気付きもしない程に、私は最愛の存在目掛けて猛烈ダッシュするだけの、破壊の特急列車と化していた。
「来てくれたんだねマリルちゃん! 私の為に、ずっと側に居てくれるって言うんだね!! ギェええええい!!」
「勘弁してぇええ!! 私違うから、マリルちゃんじゃないからぁあ!」
「マリルちゃペロ! 直ぐに追いついペロペロ!! 抱きしペペロエロ!! エロッッレロロロッロ!!!」
「怖いよぉ!! せめて人語で喋ってよぉお!!」
やがて町を抜けて荒野に出ると、マリルちゃんは息を切らして大岩にもたれ掛かった。
「ハァハァ……あなた、何が……はぁ目的……」
「うピィいい!! マリルちゃん。マリルちゃんマリルちゃああ〜ん」
魔力を枯渇させたマリルちゃんはもう疲れ果てている。対して私は、全く息を荒げる事も無く、口元で踊り出す舌をペロンペロンする余裕まであった。
「ハァ……ゼェゼェ……ッく、私はマリルちゃんではな……」
うヒヒヒ、ペロペロチャァア〜ンス♡
「カワイイあんよでチュね〜。その汗と垢をぜーんぶ舐め取ってあげまちゅ」
「クソっ! 白狼が世界
「ペ〜〜ロロロロロロロロ!!!」
「やめてぇええ!!」
マリルちゃんの生脚に顔を近付けていく私を、すんでの所で誰かが止めた。
「待て白狼、聖魔教会の人に何をする気なんだ!」
フイに後方から男の声がして、私は正気じゃない目で振り返る。
「なにってセクハラに決まってんだろぉが!! …………ハっ」
とてもまともでは無い発言が自らの口をついて出た事に気付き、私は正気を取り戻した。そして私を追って来ていたその男を、改めてうかがう。
「なんて堂々とした態度なんだ、くっそー白狼め、お前は悪だ、僕の討つべき敵だ!」
「だ、誰……?」
仁王立ちした全身金色の重装備をした少年が、手元のロングソードを私に向けて名乗りを上げる。
「僕はっ
「パ、パラディン……後藤?」
それっぽいポーズを取って
「今はまだEランク冒険者だが、いずれSランクにまで登り詰める男だっ! ハッ! ハッ、フンッ! ヤァア!!
剣を振り回しまくる無駄な動きをたっぷりと見せ付けられた後、私は眉をひそめて率直な感想を漏らしていた。
「ダ……ダセェ」
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