やあ久しぶり! 元気だった?
屈辱の敗北の後、お姫様抱っこで公園を後にさせられた俺は、そのまま
「良し。とりあえずこれで問題はない。具合はどうだ?」
「ん、おっけー。まだちょいといちーけど問題ないね。サンキュー
「ちゃんをつけるな。……はあっ。貴様が死ぬのは勝手だが、病院を渋るのは賢明とは言えないぞ」
元気ですよと腕をぐるぐる回してアピールしたところ、
ごめんね我が儘で。けどさっき牛丼食べてお札なくなっちまったから診察代なんて払えないし、喧嘩してぼこされたからなんて理由で母君に工面してもらうのはちょいと恥ずかしいんだもん。
「さて聞かせろ。何があったかを。洗いざらいな」
「良いよ。その代わり、後でこっちの質問にも答えてね」
とはいっても、話せることなんて本当に僅か。不自然な結界っぽいものがあったので進入してみた結果、それ自体が餌で見事に釣られた俺がぼこされたってことくらいしかないんだけどさ。
「馬鹿なのか貴様は。見え見えの領域など、少しは警戒したらどうなんだ?」
「……返す言葉もないよ。実際痛い目見たしね」
指摘はもっとも。そう口に出してから、自分でも結構落ち込んでいることを再認識してしまう。
うーんやっぱり引き摺ってるわ。ここまでの完敗、正直人相手だと初めてだったからなぁ。
「っていうか
「良いか悪いかで言うなら悪い。ただあの場でやり合ったところで勝算は少なかったし、何より貴様が足手纏いの芋虫だったからな。ひとまず情報を持ち帰ることを優先した結果だ」
芋虫って……いや芋虫か。あのときの俺、助けられなきゃ痛みでゴロゴロすら出来なかったからな。
「でも普通に勝てたんじゃない?
「……相変わらず変なところで目聡いな。無駄に観察力を発揮するな。もっとお嬢さまの方に費やせ」
デカ女に引けを取らないだろうと指摘してみれば、何故か
そりゃまあカンニングしたからね。
名称 属
レベル 30
生命力 225/500
魔力 70/100
肉体力 大体230
固有 獅子の牙 姿消し 透過体質 強化
称号 天賦改造体 白狐の残属
まあ俺の方がレベルが高いので覗くことが出来るようになったわけなのだが、なんとステータスが他のお付き二人と比べて段違いに高く、ぶっちゃけ俺より肉体力が高かったするのだ。
流石は
だからこそ、そんな
そんな彼女があの場で勝算が低いと見逃す判断まで下したあのデカ女。そんな相手が必ず俺を殺すと、わざわざ宣言までして立ち去ったのだ。
今更ながら、結構やばい相手に狙いを定められてしまったんじゃないか。ついレベルとその他諸々だけで判断してしまったが、明らかに俺の慢心がやべー事態を招いた気がするねこれ。
「ま、どのみち勝てんよ。さっきも言ったろ? やつはまだ布裏に得物を隠していたと。それも二つだ。隠している霊術まで考慮するなら、あの場は撤退以外に活路はなかったというわけだ」
「……霊術?」
「何故そこに引っかかる。貴様の黒いやつも霊術の類だろう?」
今明かされる驚愕の事実ぅ! みたいに知らない専門用語を出してくる
……あー、もしかして魔法とかそういうのってそういう単語なん? 今更ながら初めて知ったわー。
「ごめん。生憎と業界用語を知らなくてさ。こちとらこの前の一件が初めての山の新人よ?」
「そういえばそこらから拾ってきた我流だったな。……しかしなるほど、合点がいったぞ。貴様、対人戦はど素人だったのか。どうりであそこまで一方的な惨状だったわけだ」
「うぐっ」
情けなさ全開のカミングアウトを聞いて、納得げに頷いてくる
いやー自分でも分かってはいるんだよ? 本気で闘争に身を置くなら直さなくちゃいけないなーとは思ってるんだよ?あのデカ女も指摘した通り、まともな心理戦の経験が皆無なせいで読み合い化かし合いにめっぽう弱いってことはさ?
一応
つまり、俺は未だ対人戦をほぼ未経験のおぼこ同然。
いつぞやの夜の喧嘩で
そんな赤ちゃんレベルのど素人が、強くてちゃんと相手を観ているやつと真っ向から戦ったらそらボロ雑巾レベルのボロ負けだわな。納得。……それでも、舐めプされたのは誠に遺憾だけどさ。
「ならば尚のこと、貴様は今回の件は関わるべきじゃない。やつは退魔師五人を殺害した殺しのプロ。厄災であった
「えー」
「えーじゃない。これでも身を案じてやってるんだ。貴様はお嬢様のお気に入りだからな」
そう言って
結局蚊帳の外ってわけかよ。まあ敗者に口なし、コンテニューはなしってのが現実だもんな。
「……ねえ
「……さあな。ただ、どんなやつにも得手不得手はある。貴様は今回、後者だっただけだ」
こちらを向くことなく答えを返した
それを呼び止めることは出来ず。腕を伸ばしかけるも、ただ背中を見つめることしか出来ない。
得手不得手、か。そんな不器用な励ましされたところで、負けたのと役立たずって事実は変えられないんだけどな。
「……ちくしょうが」
誰もいなくなった神社で、少し滲んだ目を手で覆いながら小さく独り言つ。
一人になってからようやく重く伸し掛かってくる、敗北という屈辱と現実の二文字。
言い訳のしようがない完膚なきまでの敗北は、体以上に思い上がった心をへし折ってしまう。
そんな俺の心境を知ってか知らずか、空は黒く色づきぽつぽつと雨が降り始めてしまう。
まるで俺に追い打ちをかけるように。或いはこの目から流れる液体を誤魔化そうと、言葉なしで寄り添うみたいに。そして何よりも、俺の心の曇りをそのまま空に投影したかのようだった。
雨が止むまで大体一時間程度。
その間一人寂しくへこんでいた俺は強引に気持ちを切り替え、家までの帰路についていた。
今はとにかく風呂に入りたい。雨に濡れて冷えた体と後ろ向きな心持ちを綺麗さっぱり洗い流せば、それでとりあえずはなんとかなる。
風呂に入って飯を食って、その後すぐにふて寝する。それが昔から変わらない、この世で最も効率的なメンタルリセットの方法なのだ。
だからまずはリフレッシュして、失ってしまった英気を養おう。そんで嫌なことは明日考えよう。
無駄に引き摺っている今よりも、一旦冷静になれた後に思考を回した方が効果的。落とし物を探すときと一緒だ。
「たでーまー」
いるのかわからない母さんに声を投げ、そのまま重たい足で自室へと歩を進めていく。
制服を脱いで着替えを取って、それからすぐに風呂場へダイブ。今はそれ以外をしたくはない。
滴った床は後で拭けば良い。それより前に母さんに見つかったら怒られるだろうが、正直今はどうでも良い。多分何を言われようと、脳みそが気にするのはさきほどのことだろうから。
扉のノブに手を掛ける。部屋に入ったらまずは服を脱いで、それから──。
「やあやあおかえり! そして久しぶり! 元気そうで安心したよ! 驕りを矯正されそうなくらい、惨めで哀れな惨敗を遂げた少年君?」
突如として掛けられた声。誰もいないはずの部屋から、何故か発生した愉しげな音の羅列。
それに釣られて顔を上げた俺は、目の前の光景につい口をあんぐりと開けてしまう。
何故ならそこにあったのは。そこにいたのは。その声の主であろう、空に浮くそれは。
不法侵入した不審者の姿やサプライズとはしゃぐ両親、または
更に言えば人ですらない、言葉を発するはずもない無機物──俺が持っているイルカのぬいぐるみだったのだから。
……あの、お願いだからシリアスに引かせてくれません? せっかくのふいんき(誤用)が台無しなんですが。
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