きゃーえっちー!
突如この謎の建物へ乱入してきた私服姿の
予想外すぎるゲストである彼女にした最初の説明は、現在手に入れている情報などではなく俺が全裸であったことへの釈明であった。
「なるほど、そういうわけですか。納得しました」
「そうだよ。理解していただけたかな?」
「ええ。状況に錯乱したというわけではなかったのですね。一応ですが安心しました」
とりあえずは疑問を矛を収め、納得したように頷いてくれた
ふう良かった。一応ってのが心底不安だけど、とりあえずは変態の烙印を押されずに済みそうだぜ。
「しかし動じなかったねぇ。動かざること山の如しだったねぇ。普通はさぁ? 年頃の男の全裸なんか見ちゃったら叫びたくなっちゃわない?」
「生憎一般的ではないと自負していますので。お望みならば、ヒステリックな猿のように泣き叫びましょうか?」
そう提案されるとちょっと想像しちゃうな。……うーん、そういうのは趣味じゃないかなぁ。
「じゃあ俺が叫ぶ? 見られた側の責任として、きゃー変態ってさ?」
「駄目です。需要がありません」
「はい」
真顔でぴしゃりとアウト宣言。どうやらよほどお気に召さないらしい。くぅーん。
「さて、冗談はほどほどにするとして。一体全体
「……一応確認しますが、
「質問を質問に返しちゃうかぁ。うーん、どっかの山に建てられた廃施設とか?」
「……そこからですか。ま、貴方はそういう人ですよね」
とりま常識的に答えてみたら、掌で顔を押さえて首を振る
いやーそんな理解者面されちゃうと照れちゃうにゃあぁ。こういう時に素直に喜んで良いのかは微妙だけどね!
というわけで説明よろ! 良い子の皆ー? 教えて!
「ごほんっ。ここは
「そう言われれば、確かに起きた直後はちょっとだるかった気がするね。まあ今は問題ないよ。健康百%だよ?」
「でしょうね。現状の私たちは
えへへ……。何か褒められちゃったぜ。表情筋が豆腐みたいにふにゃふにゃになっちゃうぜ。
「なので貴方の肉体は、
「へえ。……あれ、そういえばなんで俺のいた場所知ってるの?」
「電話を掛け直しても出なかったので心配になって飛んできました。私は貴方の肉体から辿ってここへ
カップルなどと安っぽい言葉を聞いた俺の頭は、ついその光景を思い描いてしまう。
星の見える夜の湾岸。十代の初々しい男女が、一切のしがらみを捨て去るために手を取り合い夜を駆け、誰もいないバス停で互いに身を寄せ合って眠りにつく。……エモの塊じゃーん。
そんな現実をこの目で拝めないのが憎らしい。まあ当事者が俺な以上、別に起きていようが馬に蹴られる程度の出歯亀すら叶わないんだけどね?
「ちなみにですが、精神体は感情が前に出やすくなるという特性があります。私ほど完全に制御していれば別ですが、一朝一夕で会得できるわけではないのでご注意を」
「へー。じゃあ
「……ふんっ」
慌てて首を逸らし、誤魔化すように俺の頭に落ちた軽めの拳骨一つ。
いってて……。流石に今の発言は失礼がすぎたか。
「セクハラは大概に。ほらっ、話を続けますよ」
「うーんごめん。どうぞー」
「暢気なものです。……いえ、平常運転ですね」
両手を合わせて申し訳ないアピールをしてみると、
「さて。それでは一つ確認です。貴方をこの場に招いた下手人は
「うん、見間違えでなければ多分そうだと思うよ。よくある
一切の紫外線を弾いたアルビノのような白肌。福笑いの初期画面みたいなのっぺらぼう。そして黒スライム君程度な常人以上のクソ雑魚パワー。
これだけ材料が揃っていれば、犯人がそういう存在なのは確定的に明らかってもの。少なくとも、映えを狙った不謹慎JKの工作活動なんてことはないだろう。
けれど
俺の答えを聞いただけでそんなに悩むこともないじゃないか。あんまし頼りたくはないけれど、どうせいつものスーパーパワーでどうにでもなるんだろ?
「でしたら外からの解除は止めておきましょう。この規模と強度の空間を成り立たせるには高度な術式構築と相応の魔力量、或いは術者本人の特別な素養が必要不可欠です。ですがアス……霊体にてそれを実現するのであれば、肉体への負荷を度外視していいので後者は不要。妄執で動く霊であるのなら、魔力さえ賄えば不可能ではないはずです」
「お、おう……?」
「……つまり、あちらの思惑通りに動くのが最も手っ取り早いということです。
ないですと、絶対零度の冷たい視線を向けられた俺は、思わず食い気味で首を横に振ってしまう。
まるで三流バンドのヘッドバンキング。補修常連の馬鹿な頭でごめんね。残念だけど、これ生まれつきなんだ。
「ではここで少し待っていてください。さくっと攻略してくるので」
「あっ、ちょっとぉ……。行っちゃった……」
まさに電光石火。慌てて付いていこうとしたが、少し考えてから足を止める。
いや別に高いところが怖いとかそういうわけじゃないんだよ? 今から行ったってどうせ追いつけないし、待機と言われて待ち合わせ場所にいないのは男として減点だろうって合理的判断に基づいた結論なだけでヘタれたとかチキったとかそういう精神論で断念したわけじゃないんだよ? うん。
「はあっ、なっさけな……。自分が原因だってのに、結局人頼りかよ……」
これっぽちも役に立っていない悪態をつくも返事はもらえず、無意味な愚痴は空へと消えていく。
結局俺のやったことなんて水の中でチャプチャプ遊んでいただけ。こんな小さなハートを手に入れたって、
ははっ、笑える。こんな醜態じゃ、いつまで経っても追いつくなんて不可能だよな……。
あーだるい。面倒臭い。なんかどーでもよくなってきた。もう寝ちゃおっかなー。
どうせ誰もいないのだしと、地面をごろごろと芋虫のように転がりながらふて腐れる哀れな男が一人。
閲覧能力に目覚めて以降、陥ることのなかったナーバスモード。とはいえ、いつもなら外でならないくらいには節度尾を持っているはず。どうやら感情が隠しにくいってのは本当らしいね。
そんな感じで体感五分くらい経過した頃。
「んあ、おかえりー。終わったー?」
「はいただいま。……これまた見事にだらけてますね。休日の社会人ですか?」
「どっちかといえばニートの気分ー」
「……はあっ、駄目人間丸出しですね。仕方ありません。ならばこうしましょう」
仕方がないと
まるで大きな蛍みたいだなんてどうでも良い感想を抱いていると、その玉はふよふよと俺の眼前まで近づいてきた。
……なんだろうこれ。
「えい」
脳まで響いてくる喧しさに、思わず耳を塞いで体を起こしてしまう。
まるで音の爆弾。一切の微睡みの吹き飛ばす音響兵器に、頭が目覚めを通り越してくらくらしてしまう。
「起きましたね。ほらっ、仕事ですよ。立ってください」
「仕事って……? 終わったんじゃないの……?」
「気が変わりました。私は手を出さないので、貴方が自分で攻略してください」
聞き間違いかと思わず首を傾げてしまうが、揺らぐことのない翡翠の瞳はそれが言い間違いや冗談ではないこと暗に告げてきている。
本気だ。
「
「俺が……?」
「はい。そもそも今回の一件は無差別の拉致ではありません。貴方であるからこそ発生した事件、貴方だからこそ起きてしまった悲劇の中の奇跡。故に貴方自身の手で決着をつけなければならないものです。というか、それ以外の結末は認めません」
俺でなければ意味がないと、答えを見てきた
いや認めないって、そもそもたまにしか来ないど田舎の怪談に俺が関係しているってどういうことなのよ。
「これ以上は教えません。私が教えても意味はないので、どうにか自分で辿り着いてください」
「……ま、そういうことならやるともさ。そもそもきみに頼ってはい終わりってのは、俺にとっても心残りだからね」
だから仕方ないと自分に言い聞かせながら、萎えきっていた心が回復していくのを感じる。
……けど良かった。神は俺を見放していなかったらしく、自分で続行していいらしい。
無敵チートでゲームクリアとかまじ勘弁。これを肯定できるやつとは友達になれないもんね。
それにこんな大がかりな仕掛けの施設を、わざわざ俺のために用意してくれたというなら途中放棄はナンセンス。他ならぬ
「さあて! れっつらごーといきましょうか! ほら
「……うっざ。露骨にテンション上がりましたね」
ナイーブなクソザコメンタルなど放り投げ、いつものちゃらんぽらんな
なんか後ろから苦言が聞こえた気がするけど興味ないね。大事なのは今この瞬間のときめきだけさ!
「これが鍵穴かぁ。うーんハート。というわけでプラグイーン!」
如何にもといった具合に空いたハート型へ、手持ちの水晶もどきを叩き付ける勢いではめ込んでみる。
果たして開けごまで開くのかな? それともまだまだ必要な条件とかがあったり──。
「っ!!」
次の瞬間、別に押しても引いてもいないのにゆるりと開き出すドア。
だがそれは罠。正解の喜びに気を緩めた俺を襲ったのは、思わず目を瞑ってしまうほどの眩い閃光であった。
幸いにしてすぐに光は止んだので、急ぎながらもゆっくりと目を開けていく。
ドアの先に広がるのは、上の時と同じく暗闇に続く階段。何が待ち構えているわけでもなく、何に襲われるわけでもない。
なんだ? 何が起きた? 調整下手な演出なだけで害はなかったのか? それとも呪いを付与するとか、幻覚を見せるだとかでこの光自体に特別な意味でもあったりするのか?
「なっ、うそっ……?」
目に見えない変化でもあったのかと、備考欄を頼るべくステータスを覗こうとした矢先。
後ろから聞こえてきたのは、戸惑いを隠せずにいる美声。
「どうした……のぉ?」
だから何かあったのかと聞こうとして、ようやく俺も何かがおかしいと気付く。
まず自身の声が違う。
それについ流してしまっていたが、何故だか増えた体の重さも妙だ。
まるで胸に重りが付いたみたいな重心のずれ。ちょっと太ったかのような肉の感覚。そして一番は、あるはずの何かが欠けたという、漫然とした下半身の不足感。
……ん? 胸? 胸に重さが増した? ……まさか。
灰色の頭脳によって閃いてしまったとんでもないくぶっ飛んだ発想。
それを確かめるべく、両の手を胸へと押し当て、幼心を思い出しながらたどたどしく揉んでみる。
「わおっ。新感覚。……あんっ」
まるでマシュマロみたいな柔らかく、けれどスライムのような未知の弾力。突き抜ける快感に思わず漏れてしまったのは、今まで自分の喉から出したこともない小さな喘ぎ声。
そして自分の胸のくせに触るのが妙に楽しく、何故か内なる興奮をそそって仕方ないこの感覚。
ここが自室ならもう数分くらいは興じていたかったが、冷静さを取り戻したらしい美少女の視線が無駄に鋭いので、渋々とゆっくりと手を放して咳払いをする。
「……ごほんごほん。えー
やましいことではないと、一応好感度を気にして一言断りを入れてから下を確認してみる。
……ない。十五年一緒に生きてきた、酸いも甘いも共有してきた相棒がいない。えっ、ないんだけど。
「おおう。まじかよ相棒、何処へ消えた……?」
受け入れるしかない自身の現状だが、ここまで明確にされちゃった認めるしかない。
悲報。どうやらこの俺
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