なんかいる
まるで自分が生まれ変わったかのような新鮮な朝を越え、早くも半日が経過した。
あれから六時間。授業を片手間に板書しながら、夢中でステータスについて考察をし続けた。
どうすればレベルが上がるのか。何故レベルに差がある人が存在するのか。
いくら悩めど疑問は尽きることはない。それどころか溢れそうなくらい、雑に例えるのであれば好奇心という蛇口の栓がどんどん緩くなってきている感じだ。
名称
レベル 1
生命力 65/100
肉体力 大体5
固有 閲覧 表裏一体の片道純情
称号 不可能に挑む愚者
備考 雑魚オブ雑魚 目標だけは高い凡人
たったこれだけのステータス。それでも所詮ゴミ数値の羅列でしかない板きれ一枚。
けれど俺には輝いて見える。まるで磨く前の宝石みたい。
それにしても、何かよく分からないものが増えたのは何故だろう。気持ちの持ちようかな?
「さてどうしたものか。どうすればレベルって上がんのかなぁ」
そんなこんなで、現在鴉も鳴く夕暮れ時。帰り道にある公園のベンチで考え中だ。
こうして十分くらい考える男ポーズで思考するが碌なアイデアが出てきてくれない。まったく進展がないので、このままじゃ集中が空腹に負けてしまいそうだ。
あーめんどっ。頭使うの得意じゃないのに、まさか中間テストよりも前に悩み事に出くわすとはね。
「いいや。とりまおやつ食おう。そうしよう」
とりあえず出力された答えは根負け。我が集中は屈したのだ、生理現象に。
ぴょんと飛んで立ち上がり、軽く体を解して最寄りのコンビニへ足を運ぶ。
どうせこのままぐだぐだやっていても埒があかないし、どうせ別に急ぎでもないのだから気楽にやるのが一番だ。
というわけで、別にトラックに轢かれることもなく。
徒歩一分弱で無事コンビニに辿り着き、この店の顔とも呼べるホットスナックを購入したのだ。
「店員さんはレベルが4。うーん、やはり顔なのか?」
先ほど笑顔で接客してくれた店員の鑑みたいな男性を思い浮かべつつ、思わず呟いてしまう。
うーん。いやでもクラスで空気に徹している
せめて何かヒントが欲しいな。こういうときって何か助言をくれるナビ的なやつも付いてくるのが定番ってものじゃないか?
「あ、ゴミ箱どこだろう」
考え合間に鳥肉に衣を付けて揚げたやつを完食したところで、手持ちのゴミをどうしようかという悩みが湧いてしまう。
わざわざコンビニまで戻って捨てるのも嫌。かといって、こんな湿った紙くずを後生大事に抱えて家まで帰りたくもない。もちろんポイ捨ては論外。……さてどうしたものか。
「こういうときこそ……オープン!」
ちょっと格好付けながら、人差し指をこめかみに手を当てて唱えてみる。
当然出てくるのは自分のステータス一つ。他に人がいないのだから、当然それしか出てきようがない。
……ま、マップ機能があるわけでもなし。それでゴミ箱の所在がわかったら苦労はないよな。
「……ん?」
本日何度目かの茶番に自分で呆れつつ、画面を閉じようとしたちょうどその時。
ふと気付いてしまう。そういえば試してなかったが、これ人間以外の情報を見たり出来るのだろうかと。
「……オープン」
唐突に訪れた閃き。
その是非を知るべく、今度はふざけることなく小さな声で言葉にしてみる。
名称 総菜袋
耐久値 4/10
備考 袋。何も入ってないので最早ゴミ。
すると出てきてしまったのだ。ステータスと同じような、いや同じと言ってしまっていいであろう板きれが。
凡人代表を背負った俺と比べてもまあ貧相な表記だが、このむかつく備考欄はまさしくそれだ。
……それにしても、まさか本当に出てくるとは。正直ないと思ってたわ。
ここで一つ疑問が湧いたので、興味本位でよれた袋を破ってみる。
油が滲んでいるとはいえ思ったより綺麗な真っ二つに別れた袋は、見事に紙の残骸と化す。
名称 総菜袋
耐久値 0/10
備考 まごう事なきゴミ。まだ使ったティッシュの方が役に立つ。
「うーん。名称は変わらず、けど耐久値はそうなるのか」
0などと無情な数値をお見せになる耐久値。うーん残酷。
しかしなるほど。耐久値についておおよそ見た目通り、その物として使い物にならなくなったらアウトって感じか。……鉛筆とか割ったらどうなるんだろうか。
「ま、家でやればいいか。かーえろ」
小腹を満たしたら逆に胃が目覚めてしまったので、とりま今日は帰ることにする。
まあとりあえず、初日の出だしとしては順調だろう。
レベルアップの謎も大事だが、こういうのは最初の仕様把握が肝心。説明書や利用規約を読むのは面倒臭いタイプだけど、その大切さは知っているつもりだからね。
帰路についている合間、暇潰しと慣れがてらにいろんな物のステータスを広げてみる。
携帯、石、車や電柱、果ては犬のウンコなど。帰り道で目に付いたものを片っ端から対象に。
名称 ウンコ(個体名ジョン)
耐久値 70/100
備考 きっちり固め。出したワンコはきっと健康的。
「うーん。ウンコの耐久度って何なんだぁ?」
自分で見ておいてなんだが、ウンコのステータスってのは違和感がとんでもない。
柔らかいやつだったらもっと脆い感じの耐久度になるんだろうか。……いや、ならなそうだな。
……それにしても。この明らかに毒の混じった備考欄って誰が考えてんだろうな。
「さあてお次はお次はー?」
次はどんな物を覗いてみようかと、まるで不審者のように周りを見回していく。
残念ながらお家は近い。正直碌なもんなど近所のいつも俺に吠えてくるイッヌしかいないのはわかっている。
だがそんなことはどうでもいい。未知なる発見なんてどこからでも訪れる。最悪イッヌのやつでも人間以外のファースト生き物なんだから悪くはない。
「そこだッ!! オープンッ!!」
何かの気配を背後に捉え、ステータスを開きながら意気揚々と振り向く。
さあ来い情報さんよぉ。今ならどんな物でも俺の糧に出来る気がするぜ──!!
名称 穢れだまり
レベル 7
生命力 ∞
肉体力 大体35
魔力 100/100
備考欄 負感情の結晶。核さえ傷つかなければ無敵だが、正直そんなに無敵でもない。
「え、ええぇ……?」
思わず口から漏れてしまう困惑と疑問。
だってそこにいたのは、推定二メートル程度の二つの目が付いた黒の塊。
猫やらジャガーやら象なんかよりも現実かけ離れた奴が、さっき通ったはずの道の真ん中をもぞもぞと佇んでいたのだから。
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