第15話 レイラとありす

 私は翔也くんと朝カフェをして、お昼過ぎからは配信をしていた。

 週末の配信はゲームによってお昼にしたりもする。

 時間帯によって新しく観てくれるようになるリスナーさんもいるから。


 今やっているのはゾンビ系のアクションゲーム。平日も何回かやっていて、今週末でクリアできる予定。

 今はボスキャラを相手にしているんだけど、このままだと負けちゃいそう。



「これ強過ぎじゃない? これじゃぁ弾切れになりそう。絶対難易度設定間違えてるよ!」


『間違えてない』『サッサと進めろ』『ちゃんと倒せる』『どうだろね』『倒せるよ』


「え~、本当に倒せるの? 指示厨! 指示厨いるんでしょ? 指示して!」


『え?』『草』『草』『指示しては草』『……』『狂ってる』『甘えんな』『くしゃみお願いできますか?』



 頼んでないときは指示してきたりするのに、こういうときは不思議と指示コメはこなかったりする。



「――――甘えんなって酷いよぉ。やさしくしてっ!」


『俺たち狂人だから』『今日のレイラおもしれぇな』『かわいい』『バーサーカーだぞ?』


「今日は面白い? じゃぁいつもはつまらないの? それとも今日は特別面白いっていうこと? どっち?」


『草』『草』『圧』『絶好調』『今日もかわいいよ』『圧』『草』『草』『草』



 一/三ゲージを削ったところで、ボスがなにかを落としてチカチカ光っている。

 それを拾うとムービーが流れて、操作していたキャラの腕が化け物みたいになって一撃で倒していた。



「ええぇぇぇえぇーーーー! 一撃で終わったんだけどぉーー!?」


『だから言ったじゃん』『謝ってもらっていいですか?』『な?』『言うたやろ』『難易度は適正』


「謝ってもらっていいですか? す、すみませんでした」


『いいよ』『えらい』『ええんやで』『草』『いいよ』『謝れてえらい』





 配信を終えると、時計の針は夜の九時を回っていた。

 久しぶりに今日の配信は会心の配信だったと思う。

 今日の配信面白いなんてコメントがあったけど、私自身そう感じた。

 最近は炎上するのがどうしても気になっちゃって、リスナーさんの反応に気を取られちゃうことも多かったのに、今日はそんなことなくって配信に集中できていた。


 部屋を出てリビングに行くと翔也くんがいない。

 パッと見渡すと、翔也くんはキッチンにいた。



「あ、おつかれさま? です」


「う、うん。もしかして夕食?」


「はい。配信が長時間になりそうだったのでキッチン借りました」



 キッチンにはノートパソコンとイヤホンがあって、料理をしながら配信を観ていてくれたのがわかった。



「器用意すればいい?」


「はい」



 キッチンではカレーの匂いがしていたから、なにを作っているのかはすぐに察しがつく。

 だけど翔也くんはご飯を炒めているから、一応器の確認をして出した。



「カレーでご飯ってあんまり炒めないよね?」


「そうかもしれないですね。でもこうして水気をちょっと飛ばしてバターライスにすると、カレーとかなり合うんですよ」


「そうなんだ? 楽しみになっちゃったな」


「あんまりハードル上げないでくれると。いたって普通のカレーなんで」



 翔也くんの言う通り、基本的には私が知っているルーの味がした。

 だけど私が作るカレーとは少しだけ違う。私が作るものより少しマイルドで、ジャガイモもスプーンで割って食べるくらい形が残っていた。

 同じルーを使っているのに所々違いがあって、翔也くんにどうやって作ったのか訊いてみた。



「個人的にジャガイモは煮崩れ防ぎたいので、ある程度煮込んでから後入れにしてます。

 ニンジンは半分は擦って入れてますね。あとは好みとか気分でトマト入れたり、今日は細かく切ったナスが入ってます」



 生クリームの代わりに牛乳が少し入っているみたいだけど、あとは入れるタイミングとか切り方とかの違いだけだった。

 一番違うのは、翔也くんは煮込み系の料理のときは火を止めて寝かせているみたい。

 どれも細かい一手間っていう感じだけど、それが違いとして感じられるカレーだった。


 今日は配信の出来もよかったし、こんな風に二人でご飯を食べていると心が満たされちゃう。

 昨日のASMRはお礼だったはずなのに、私の方が翔也くんに変えられちゃっていた。

 だってこのあとはお風呂に入って寝るだけだけど、また一緒に寝たいなんて考えちゃってる。

 どうしてリビングのソファベッドを案内してしまったのかって後悔しちゃう。

 初日にソファベッドを案内していなければ、こんな風に考えることもなかったかもしれなかったから。



「あ、ありすさん」


「~~な、なぁに?」



 やっと翔也くんもありすって呼んでくれるようになった。朝カフェに行ったのは正解だったみたい。

 外でレイラなんて呼ばれてしまったら、声もあっていつバレてもおかしくないからありすって呼ぶしかないから。



「すぐ見つかるとは思えないので、不動産屋さん回ろうと思って」



 胸がドクンって鳴った。



「――――そ、そんな急がなくても私はいいよ? 今回のことは翔也くん全然悪くないんだし」



 こんなこと初めからわかっていたことだから、翔也くんが言っていることは当たり前のこと。

 でも現実に引き戻されたような感覚になる。

 私は配信者で、翔也くんはリスナーで、この件が解決したら元に戻ってしまう。

 そうしたら今みたいにお話もできなくなっちゃう?

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