ラブソングにはまだ早い~どうやらアイドル志望の王子様には私が必要みたいです~

和希

プロローグ

 二人きりの音楽室。

 射しこむ夕陽を浴びながら、上杉ひとみ君が片膝をつき、うやうやしく私に手を差し伸べる。


「浅井乙羽おとはさん。今の僕には君が必要だ。いや、きっと今だけじゃない。乙羽さんは僕の運命の人だよ。だから、どうか僕の許嫁いいなずけになってください」


「い、許嫁……っ?」


 爽やかに微笑みかける瞳君は、まるで芸術的な絵画のようにまぶしく、あまりに美しくて。

 私は真っ赤に頬を火照らせながら、焦ったように声を返す。


「い、いったん落ち着いて、瞳君っ」


「僕は落ち着いているよ。それに真剣さ」


「だって、私たちまだ中学一年生なんだよ? それなのに、いきなり許嫁だなんて……。それって、将来私に瞳君のお嫁さんになれってこと?」


「うん。その通りだよ」


「わ、私なんかでいいの……?」


「もちろんさ。僕は乙羽さんを誰にも渡したくない。どうか永遠に僕のそばにいてください」


「ふえぇ……っ」


 学年一の若き王子様、瞳君に一途に見つめられて、顔が燃えるように熱くなる。


 私はもじもじと視線をそらし、ふたたび瞳君の美しい表情をそっとのぞく。

 瞳君は強い意志を感じさせる眼差しを輝かせて、一心に私の返事を待っていた。


 瞳君が差し出す優しい手に、私もまた吸いこまれるかのように手を伸ばす。

 すると、瞳君が強引に私の手を取って――。


「つかまえた。もう、ずっと離さないよ」


 これは、アイドルを目指すイケメン優等生、上杉瞳と。

 歌を作るのが大好きな、けれども引っこみ思案な少女、浅井乙羽との。


 初めての恋の歌ラブソング

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