第59話 最敬礼の進化



 「もう!ナイン様のスケベ!何度言ったら分かるのですか?部屋に入る時は、ノックしてから入るように言っていますよね?」


 ぷんぷん怒るアリエスさん。若干、顔が赤い。実は、わざとノックをしなかった。真面目すぎるアリエスさんには、これぐらいはっちゃけた方が話しやすい。それに、俺も素が出せて楽なのだ。


 「ごめんなさい...もうしないかもです。」


 「はぁぁ。もういいです。反省していないみたいですし...それで、何があったのですか?」


 先程までの緩んだ空気を霧散させ、アリエスさんが真剣な表情で俺に問いかける。


 「首都イスパニアの調査に人が足りない。情報過多で処理しきれない。手伝って!アリえもん!」


 俺の発言に、手を額に当て、困った表情になるアリエスさん。本来、諜報活動や全体指揮は、アリエスさんがとる予定だった。彼女の統率力は高く、理にかなった決断も出来る。

 それでも、彼女が後方にいるのは、エタンセルという国、もしくは、仲間たちの家を守るため。もう二度と故郷を奪われたくないからだ。


 また、彼女曰く、今日を生きるのに必死だった私と、今日や明日を生きられる希望を見い出せるナイン様では、天と地の差があるとのこと。


 エタンセルの王を決める際、希望、復讐の象徴となるのはナイン様であり、私たちは、彼が歩み進んだ道を着いていけばいいとアリエスさんが宣言したことで、全員を納得させていた。


 「計画性があるように見えて、いつもないですからね、ナイン様は。ふふっ。でも、ナイン様は最良な結果を生み出す。今回も、そうであると私は確信しています。」


 床に膝をつき、手を合わせ、祈るように言葉を紡ぐアリエスさん。この人、俺のことを過大評価しすぎていると思うんだよね。


 「今日は、違うんだよ、アリえもん!本当にピンチなんだ。ほら立って!」


 強引に立たせて、肩を掴み、アリエスさんを揺らす。


 「あー、あー、あぁぁ。分かりましたから、揺らさないでぇ。うふふふふっ。」


 あっ、この人、嬉しそうにしている。身体を揺らされるの楽しんでいやがる。ダメだ、このポンコツ。


 「アリえもんだけじゃダメだ。シェリーさんを呼ばなきゃ。」


 アリエスさんを揺するのやめて、携帯電話を取り出し、シェリーさんに電話をかける。


 「もしもし、シェリーさん?ナインだよ。」


 『もしもし、こちらシェリーです。我が主。どうされました?』


 「至急、アリエスさんの部屋に来て!首都イスパニアの調査の増員について話しがある。」


 『かしこまりました。すぐ、そちらに向かいます。』


 俺は、電話切って、すぐアリエスさんに指示をだす。


 「アリえもん、至急、各部隊の隊長を集めて。」


 こくりと頷き頷いて、各部隊長に連絡をとるアリエスさん。冒険者ギルドで行われる、公爵家長子の調査依頼の説明会まで時間がない。

 数分後、各部隊長がアリエスさんの部屋に集まる。工作部隊はミィちゃんが隊長のため、副隊長のアニさん。アニさんは、猫の獣人で金髪のロングヘアー。ポニーテールを好んでしている。


 「呼び掛けに応じてくれてありがとう。今回集まってもらったのは、首都イスパニアの調査の増員について。人手が足りないんだ。各々仕事があるのは重々承知している。その上でお願いだ。手を貸してくれ。」


 ここは、誠心誠意をもってお願いするのが筋だろう。エタンセルの王だから、命令すればいいとかナンセンス。彼女たちとは、王である前に復讐の共犯者なのだ。


 「頭をお上げください、ナイン様。私たちは、仲間のためなら喜んで手をお貸しします。」


 頭を上げ、集まった彼女たちを見る。真剣な眼差しで何度も頷く彼女たちを見て、当然ながら嬉しいし、頼もしい。


 「ありがとう、皆んな。今回は、俺から指名だ。暗部から、ルイズさん。工作部隊から、アニさん。白騎士から、フレイアさん。黒騎士からは、アイリーンさん。支援部隊から、シェリーさん。技術部隊から、カーラさん、アマンダさん、ロジェさん。懲罰部隊から、ノーラさん。計九名が今回の増員メンバーとする。合流は、今から一時間後。ポータルブルゲートは、首都イスパニアの宿に設置しておくから。」


 「イエス・ユア・マジェスティ!」


 『イエス・ユア・マジェスティ!』


 心臓に右拳を当て、左手は腰の後ろに回し、アリエスさんに習って、この場にいた全員が復唱する。


 「ぇ?なにこれ、練習したの?」


 笑顔で頷き、むふーと鼻から大きく空気を出すアリエスさん。いやいや、恥ずかしいんだけど...

 その返事やめてとは、言い出せない空気のため、静かに部屋を出る。


 「日に日に、敬礼が進化している気がする...」

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