第51話 独占欲


 「私が、この手で一番殺したい人間です。」


 初めてではないだろうか。こんなに流暢に敬語で話すミィちゃんは。会った当初は、使っていたかもしれないが、たどたどしく話していたと思う。


 ミィちゃんの告白、話し方に驚いたのは俺だけではなかったみたいで、アルマさんは、そっとミィちゃんを抱きしめ、優しい声で言葉を発する。


 「ミィ。ボクは、嬉しいよ。ボクたちに教えてくれて...任せて。必ず、見つけたら報告するから。もちろん、協力は惜しまないよ?」


 抱きしめられたミィちゃんは、アルマさんの背中に手を回し返答する。


 「にゃははははっ。情けない姿を見せてごめんねー。クレア、ありがとう。よろしくねー。」


 「ふふっ。私も、協力するわ。」


 ルナさんもミィちゃんを抱きしめにいく。それに続くようにペトラさんとセイラさんもミィちゃんを抱きしめる。


 「く、苦しい...わ、分かったから!皆んなの気持ち伝わったから!」


 皆んながミィちゃんを抱き締めに行った為、おしくらまんじゅうのようになっている。その中心にいるミィちゃんは苦しそうだけど、顔は、嬉しそうに笑っている。


 「はい、はい。ミィちゃんから離れて。」


 俺は、アルマさんたちをミィちゃんから引き剥がす。

 解放されたミィちゃんは、すぐに服を着て、姿勢を正す。


 「改めて、皆んな、ありがとう。怨敵を殺すため、協力よろしくね!」


 ミィちゃんの言葉に、一同頷く。


 エタンセルにいる仲間も、ミィちゃんの笑顔に救われている。人一倍元気で、イタズラ好きだけど、誰からも愛される。そんな彼女の頼みだ。やらないわけがないし、なんなら、エタンセルの仲間を全員呼んで、すぐにミィちゃんの前に連行してくることも可能である。


 「それでは、マイク・フォン・エアリーズの調査を最優先事項とし、また明日、皆んなには動いてもらいます。今日は、しっかり休んでくれ。」


 まだ情報を全て話していないが、今日の会議をお開きにした。ミィちゃんは、言ってスッキリしたかもしれない。だけど、想像以上に疲れるんだ。人に想いを伝えるのって。


 俺は、部屋をあとにし、再び、首都イスパニアの夜道を歩く。本当は、護衛をつけなければならないが、一人になりたかった。


 「こっちの世界に来てから、久しぶりの一人。俺って、独占欲強いのか...?」


 ミィちゃんの背中の刺青。それを見る度、怒りが込み上げてくる。ミィちゃんだけじゃない。エタンセルの仲間全員。誰一人、失いたくないし、奪われたくない。傷付いているなら、癒してあげたい。


 「はぁぁ。どうしよう...マイク・フォン・エアリーズを見たら、ぶち殺したくなっちまうな、これ。」


 俺は、彼女たちの王であり、共犯者。彼女たちと出会わなかったら、日本で死ぬまでぼーっと生きていただろう。こんな、刺激的で楽しい日々は過ごせない。だからこそ、日常を守りたいし、復讐も完遂したい。


 「最果ての地で、救世主と呼ばれ、地味に生きることも出来た。でも、それを選択しなかったのは俺自身。この選択を後悔しないためにも、頑張らないとな…」


 決意を新たに胸に刻みつつ、ふらふらと夜道を歩いていく。眠らない街と呼ばれるだけあって、深夜になっても、騒がしいし、明るい。


 「痛っ!」


 通行人とぶつかり...いや、ぶつかってきやがった。


 「おーおー、いてぇーなぁ、おい?」


 「大丈夫っすか?兄貴!?」


 なにこれ?三文芝居に付き合うほど、今の俺には余裕がない。


 「兄ちゃんよー。ちっと顔貸せや?」


 「あん?」


 だから、なんだよ、お前は。っと思ったが、ぶつかってきた男が小声で話してきた。


 「闇の者だ。話しがあるから合わせてくれ。」


 「ちっ...いいだろう。貸してやるから覚悟しろよ、テメェ。」


 こんな事は、日常茶飯事なのだろう。道行く人は、迷惑そうにしているだけで、止めに入らない。

 ぶつかってきた金髪の兄ちゃんの後ろをついていくと、人気の無い路地裏に着いた。


 「俺から接触しない限り、関わらない契約だけど?」


 立ち止まった金髪の兄ちゃんに話しかける。舎弟なのか分からないが、もう一人のフードの男は、俺の後ろにいる。

 俺の方を向き、頭を下げる金髪の兄ちゃん。意味わからん。


 「突然すまん。ボスからの命令で接触した。俺の名は、アッシュ。兄ちゃんの後ろにいるのが、キール。」


 「ふーん。それで、アッシュさんは、ボスになんて命令されたの?それと、俺の顔知らないはずだけど...どうやって知ったのさ。」


 アッシュは、周囲に人が居ないか、目で確認してから応対する。


 「アンタの顔は、さっき知った。キールの鼻で、特定させてもらった。」


 俺は、後ろに立つキールさんの方を見る。フードを被っていて、顔の確認が出来ない。鼻で特定?まさかな...確認してみるか。


 「キールさんは、獣人か?」


 「さすが、兄ちゃん。鋭い。その通り、キールは獣人。キール、フードを取れ。兄ちゃんは、獣人だからっと言って差別しない人だと、俺の目で保証する。」


 フードを取ると、犬の顔が現れた。獣人の血が濃いんだろう。中々、イカつい犬だな、こいつ。


 「名前。教えろ。」


 「キール、やめろ。俺たちは忠告しにきただけだ。わざわざ、名前を教えてもらう必要ねぇだろ。」


 「忠告?」


 顎を手で摩り、俺の目見つめるアッシュさん。気持ち悪い。


 「ボスからの伝言だ。王国の暗部が動き出した。クレイモランについての情報を求めているとのこと。兄ちゃんが、ギルドカード売ったんだろ?ボスは、兄ちゃんがクレイモランを滅ぼした奴らと繋がっていると考えているぞ。」


 「ふーん。そう。忠告ありがとう。それで?俺をここでボコって情報を引き出そうとしているのか?」


 みけにシワを寄せ、俺を警戒する顔をするアッシュさん。俺の後ろにいるキールさんも、初めて俺を警戒する。


 「ひとつ確認してもいいか?」


 「なに?」


 「兄ちゃん、このまま帰れると思っているのか?」


 「あ?帰れると思っているけどなに?」


 「こりゃ、手を引いた方が良さそうだ...キール帰んぞ!」


 俺の顔をじっと見てから、また顎をさすり、俺から離れ、キールさんと共に路地裏に消えていく。


 「俺から手を引いても無駄だと思うぞ、アッシュさん...」


 誰も居ない路地裏で呟いてから、宿に戻るため、歩きだす。


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