第45話 クレイモラン領、消滅
俺は、キメラに蹂躙されるクレイモラン領を、城壁の上から眺めている。
クレアさんの部屋を出てすぐ、アリエスさんに連絡してキメラを放ってもらった。キメラが蹂躙すること5日間が経過している。
もう、クレイモランに労力を使う必要が無くなった。殺るべき人物は、殺った。取るものは取った。もう、エタンセルにとって、要らないもの。
「なんかさ、我々のことを全く知らない、認知されていないのは、ムカつくね。復讐を行う上では、わざわざ敵に情報を与える必要がないから、別に良いんだけど。」
「そうですね...まるで、一方通行な片想いみたいです。」
俺の問いかけに応えてくれたのは、アリエスさん。クレアさんとの会話は、全て録音しており、全員に聞かせた。
「余計、憎いね。この世界の人間が。」
キメラが人間を食い散らかすのを見ながら会話しているため、アリエスさんの表情は分からない。ただ、声は低く、怒りと憎しみで震えている。
「はい...。これほどまでにない憎しみを皆、抱いております...。本当に、残酷過ぎます。激しく、身が削る想いです。」
「ああ、分かっている。俺も同じだよ。クソったれな世界だな、本当。」
キメラの1匹が、俺たちの存在に気づき、跳躍して襲いかかってくる。
「もう、食べる人間たちがいないのか?それにしても、少し知能があると思えば、やることは獣だな、キメラは。サポートを頼む、アリエスさん。」
「ダメです。なに、ちゃっかりキメラに立ち向かおうとしているのですか?」
左手に魔銃、右手に刀を握りしめて、城壁から飛んでキメラ討伐を試みようとした。俺一人では倒せないのは、重々承知。だから、アリエスさんに援護を頼んだんだけど...俺の肩に、アリエスさんに手が。
「離すんだ、アリエスさん。俺は、いずれキメラを1人で倒さないといけない。そのためにも、今!今、殺らないとダメなんだ!」
肩に置かれた手が...肩に指が...くい込んでるッ!
「自重してください。キメラに挑むこと78回。78回、瀕死になりました。王は、私たちに命令するだけで良いのです。分かりますか?言っている意味分かりますか?分かりますよね?分かってくださいますよね?」
先程の憎しみによる、声の震えとは違う。純粋な怒りが声を震わせているんだ!アリエスさんが。
「ぷぅー!王様がまた、アリエスに怒られてるよ!笑えるぅーーっ!あははははっ!」
サリーちゃん、俺は王だ。笑っていないで助けろ!
「たまに...アホに、なる...王様...」
無礼だぞ?イレーナさん。オブラートに包んで発言しなさい!
アリエスさんとの無言の攻防をしている間に、フレアさんが、キメラを切り刻んで殺してしまう。瞬殺だった。
「アリエスさん、キメラを何体放った?」
「20体です。1体につき、1万の人間たちを駆逐させる計算です。フレアによって、19体になりましたが...あの、動こうとしないでください。これ以上、御身を傷付けたくありません。私たちの救世主。ナイン様、お願いです。もう動かないでください。肩を外しますよ?」
「ぅっ、くっ、し、仕方ないな!そこまで言うならっ!今日は、大人しくしよう!」
「なんや、格好つけたいんか、ナインはんは。可愛いなぁ。」
「アマンダ、それは言わない約束だよ?ナイン様は、きっと、あれだよ...運動がしたいんじゃないかい?」
「ロジェ、フォローになっていないわ。見て、ナイン様が顔を真っ赤にしているわよ。ぷっ...」
アマンダさん、ロジェさん、ステラちゃん。俺をいじめて楽しいかい?俺は、とっても恥ずかしいぞ?
実は、この5日間、クレイモラン領に訪れる人間が多く居た。我々はその度、門を少し開き、領内に招き入れる。
領内に入ったが最後、キメラに食い殺される。1度、キメラを全て解体して、街を見回り...。
「ナイン様、ご報告があります。」
「どうしたの?ルイズさん。」
相変わらず、影からシュッと出てくる姿がカッコいい。
「暗部、工作、支援部隊の3部隊で、領内を確認しました。クレイモラン領の人間、亜人、獣人、全てこの世から消失しました。」
「ありがとう。ルイズさん。アリエスさん、聞こえたね?」
「はい。キメラ殲滅後、全軍、エタンセルに帰還致します。」
最後は、呆気なかったなぁ。もっと、バチバチに殺り合うと思っていたのに...
クレイモラン領、復讐完了。
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