第37話 1番になりたいんよ


 ロジェさんがメロスの動きを止め、馬車が停止する。

 クレイモラン伯爵領からの追っ手は、一定の距離を保ち、馬車が止まるのと同時に木の影に身を隠した。


 「こっちから、丸見えだっていうのに...尾行がバレて弄ばれるとか、恥ずかしいとおもうんだけどなぁ。」


 馬車の中から外に出るアマンダさん。彼女から放つ雰囲気は、非常に悪い。刺激すると噛みつかれそう。


 「なぁ、ナインはん。ウチが交渉してもええ?」


 ロジェさんも、アマンダさんが醸し出す空気を察して口を閉ざしている。


 「俺が言っても出てこないだろうし、アマンダさんにお願いするよ。こちらとしては、情報、金貨、イリアさんの首が欲しい。最悪、強行手段に出るから、譲歩しなくていいから。」


 黒い笑みと言っていいのだろうか、笑いながら頷くアマンダさん。この表情をした時のアマンダさんは、狡猾で残忍な手段をとる。怖い、恐い。


 「ふふっ。おかしときー。ナインはんは、1つええか?ソフィアとジュシカを借りたいんよ。ウチ、そんな強くないから。お願いっ。」


 あざとい子...これ以上にあざとい子がいるが、可愛いから許す。


 「ソフィアさん、ジュシカさん、アマンダさんの護衛をお願い。俺は、馬車の中にいるから安全だと思う。」


 影が大きく動き、アマンダさんの足元へと移動する。


 「ありがとっ。それじゃ、いってきまーす。」


 アマンダさんが尾行していた兵士の元へと、ゆっくり歩きだす。その後ろ姿を見届けてから、馬車の中に入る。馬車の中に、一人一つずつ持たされているポータブルゲートが、数にして、10以上設置されている。


 「ステラちゃん、ロジェさんと御者変わってくれる?敵が攻めて来たら、迷わず、普通の銃で撃ち抜いて。」


 「かしこまりました。ナインさん。」


 軽く頭を下げ、御者席に移動する。代わりに馬車の中に入って来たロジェさんには、一旦エタンセルに戻ってもらう。


 「ロジェさん、10分後に戻ってきて。伝言は、支柱のゲート設置メンバーを最低でも2名、技術部隊から選抜。白騎士3名。最後にセレナを待機するようお願い。」


 「かしこまりました、ナインさん。行ってまいります。」


 傅いた状態で姿が消えるロジェさん。ちょっと、カッコいい去り方なんですけど...。


 「あー!ロジェ、ポイント稼いでるー。ずるいー。ナインくーん、私の出番まだかなー?」


 腕に絡みついてくるニコルさん。胸が当たっている。いや、当ててるんだろうけどさ...


 「多分だけど、アマンダさんが何かすると思うから、いつでも動けるようにしておいて欲しい。それまで待機だ。あと離れてっ。」


 「いーやー。待機ばかりでつまらないもん。せめて、これぐらいは許してー。」


 はぁぁ、仕方ない。アマンダさんが帰ってくるまで、されるがままになろう。

 我慢していたエマさんも俺に抱きつき、甘えてくる。もう、どうにでもなれ...。


 ※アマンダ視点


 「いややわー。ほんと、昔から、貴族は傲慢で上からや。自分を天上人と勘違いしとるんちゃう?もし、天上人がおったら、殺しとるか。天上人は、ナインはんだけでええねん。はぁ...」


 「良い機会。聞いてみたいことがあるの。」


 影からジュシカの声が聞こえる。


 「なんやー?」


 「どうして、暗部の誘い断ったの?アマンダなら、副隊長になれたの。」


 白熊の獣人だけど、見た目は人間そっくり。獣人らしい角も耳もない。あるのは、焼かれたしっぽだけ。だから、誘われた。人間の社会に溶け込むことが出来るからと。


 「人間に近い姿しているから?実は、暗殺術のスキルが高いから?どっちでええけどさぁ、ウチは、ナインはんの1番になりたいんよ。あんたらだって分かるでしょ。女として、1番に見てもらいたい。当然の欲求や。暗殺部隊だと匂い消さないといけない。もう、自分を隠したくない!自分を見てもらって、愛して欲しい。溺れさせて欲しい...人を殺すより難しいんよ。あはっ、あははははっ、着飾って美しく、暗部とは真逆!」


 「途中から支離滅裂になっているなの。」


 「でも、気持ちは分かるの。」

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