雨
雪飴
雨
「おやおや、次はあんただね」
「………………………………………………」
「え? 私が誰かだって? そんな事はどうでもいいのさ。ただのしがないババアだよ」
「………………………………………………」
「さあ。とっとと"涙"を回収させておくれ」
「………………………………………………」
「あぁ、いや。いい! いい! そんな無理に泣こうとしなくても、質が落ちちまうだろう?」
「………………………………………………」
「そうさ、お前さんの涙がもしかしたら人に害を起こしてしまうかもしれない、そんなの嫌だろうさ」
「………………………………………………」
「大丈夫私に任せな! この道何百年のプロだよ。涙の一つや二つ取りなれているよ!」
「………………………………………………」
「どうやって、回収するかだって? 企業秘密に決まっとろうが! 教えられないんだよ。時々覚えて帰っちまうやつがいるからね」
「………………………………………………」
「あぁあぁ、あんたうるさいねぇー。私の年の話なんざいいんだよ!」
「………………………………………………」
「目を瞑ってな、すぐに終わるから…………ほれ終わった。そうそう、どうやっては……いい子だ、聞かないのが正解だよ」 「……………………………………………………」
「それにしても、あんたの涙の色はひっどいねぇーー。浄化するの大変なんだよ。どうしたんだい何かあったのかい?」
「………………………………………………」
「浮気された!? なんて男だ。こんな可愛い娘を放っておいて浮気かい! どの時代も浮気する奴は許せないねぇ」
「………………………………………………」
「お前さんを見れば分かるよ、相手が悪い。私は人を見る目だけはいいのさ」
「………………………………………………」
「でも、おまえさん。いつまでもウジウジしているわけにはいかないだろうよ」
「………………………………………………」
「最低な男の事なんて忘れて、次の出会いを見つけるんだよ。大丈夫さ、今よりもずっといい男に出会える。私が言うんだから間違いないよ」
「………………………………………………」
「知らないばあさんに話したら、スッキリしたかい?」
「………………………………………………」
「そりゃあ、良かった。おや? 涙の色も元の透明な色に戻ったねぇ」
「………………………………………………」
「これなら、浄化しなくても済みそうだ。よかったよかった」
「………………………………………………」
「え? 涙をどうするかだって? あめにするのさ、飴じゃ無いよ!! 食べても美味しくないよ! 雨にするのさ」
「………………………………………………」
「お前さんの涙は、これから雨になって流れていくんだよ。よかったねぇー、浄化仕切れなかったり。酷い涙だと台風とかに使われちまうから」
「………………………………………………」
「もうこれで、あたしの仕事は終わりだよ。とっとと帰んな。これ以上留まるわけにはいかないからね。お互いに困っちまう」
「………………………………………………」
「また、会えるかだって? さあ。運が良ければ逢えるかもしれんね。次逢う時は、嬉し涙がいいよ。あれは時々綺麗な虹がでるのさ」
――――――――――――――――――――――
六月。June bride(ジューンブライド)を狙ったつもりじゃなかったけれど、奇跡的に式場が空いたのと。
タイミングが良かったのとで、トントン拍子に結婚式が決まった。
「六月に式なんて、雨が降るかもしれないじゃない」
「ジューンブライドなんて、素敵だよ。六月に結婚する花嫁は幸せになれるんだよ? 僕が君を幸せにするんだけどね」
私よりロマンチストな彼が、恥ずかしげもなくそう言うものだから。あっさりと丸め込まれてしまう。
それが嫌では無いのが自分自身一番分かっている。愛されていると感じているから。
結婚式当日は、梅雨だと言うのに快晴だった。
自分が結婚できるなんて・・・と胸が熱くなる。
メイクをしてもらって綺麗にしたのに泣きたくない。
昨日も幸せすぎて彼の前で泣いてしまったのに。
今の旦那に出会う前は、彼氏に浮気されてすごく辛かった。
振られた次の日は一日中雨が降っていたけれど、まるで自分が泣いているようで、でも雨の音を聞いてスッキリもした。
今となっては良い思い出かもしれない。だってこんな素敵な人と出逢えたのだから。
途中まで、何事も無く進んでいた結婚式だったが。ブーケトスの為に外に出ようとすると、雨が降ってくる。
「狐の嫁入りだ」
誰かの口に出した声が聞こえる。
雨はすぐに、止んだ。
すると、周りから"わっ"と感嘆の声が上がった。
皆んなに釣られて顔を上げると空には虹が出ている。
あぁ、幸せだなぁ。私は涙が出た。
雨 雪飴 @yukiame020
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